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第2章
82話 アルベリーニ子爵家の事情
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「この話には続きがありまして。失脚した第2王子派閥の中に、あのアルベリーニ卿のご実家の子爵家も入っておられまして。卿も巻き込まれていらっしゃった様なのです。」
「……そう、だったのか…」
「ただ、アルベリーニ子爵は親族の関係で第2王子派閥の扱いは受けておられましたが、元々派閥筆頭の侯爵家とは、当時受け持たれていた事業で対立する事があったり、当時の子爵自身、王太子がいらっしゃるのに、第2王子を担ぎ上げるのは道理に反すると、派閥内でも慎重な態度を示されていました。侯爵家とは距離があったのもあり、子爵家はなんとか疑惑を免れた様です。また、子爵が責任を取る形で爵位をご子息の長男へ譲られたのも大きかった。そうして、なんとか生き残れた子爵家を拾われたのが、ロレンツォ殿下だったようです。」
テオのその話に、僕は大きく目を見開いた。
それは……知らなかったから。
「当時、弱小で何の後ろ盾も無かった殿下からすれば、渡りに船だったのでしょう。子爵側も生き残る為には仕方なかった。だから、前当主で卿のお父君だった子爵は殿下の申し出を受け入れ、殿下の要望もあり、歳の近かった4男のサフィル・アルベリーニ子爵令息を殿下の側仕えとして差し出した様です。」
「……じゃあ、5年も前から、サフィルはあの様な扱いを受けていたのか?」
そんな、昔から?
僕の問う表情を見て、テオはハッと息を呑んだ。
僕は、自身がどのような顔をしているのかも自覚しないまま、突き飛ばされて蹲っていたサフィルの姿を思い出す。
「……初めは、子供らしいちょっとした意地悪程度だったと思いますよ。まだ力も無かったロレンツォ殿下にとって、大事な支えですから、そう無下には出来なかった筈です。子爵家を後ろ盾に得られた殿下は、王太子派へ入りました。そう簡単な事ではなかったでしょうが、ロレンツォ殿下にとって子爵家の他に、もう一つ献上するモノが出来たんです。」
「それが、我がエウリルスへの留学か。」
「えぇ。その二つを餌に、ロレンツォ殿下はのし上がった。……大したお方ですよ。事件の翌年には我が国へ来られ、エウリルス王立学院には通常14歳からとなりますが、1年早く13歳でご入学を果たされています。長期休暇は必ず帰国し、色々睨みを利かせていらっしゃる様ですよ。そして、アルベリーニ子爵令嬢……アルベリーニ卿の妹君とご婚約もなされた様です。」
「…っ!アルベリーニ卿は、妹君の事で脅され、カレンかカイトを攫う様に命じていたんだ。……そういう事だったのか。婚約者を脅しに使うなんて。結婚したら、卿は義理の兄になるというのにっ」
僕はギュッと拳を作って震わせていた。
許せない。腹立たしい。
そう、言うだけなら、簡単だ。
けれど、知ってしまった。
殿下からすれば、自分の手駒であると同時に、彼らが自身の数少ない生命線でもあるのだ。
サフィルもそれは分かっている筈。
殿下だって口では悪態をついても、実際に妹君を悪し様にはしないだろう事くらい。
そんな事をするメリットがないから。
しかし、あの性格だ。
妹を生かしておいてくれるのと、優しく接し幸せにしてくれるのとは、また別の話だ。
もし、これからもっと力をつけて、彼女より、子爵家より、有力な使える駒を手に入れる事が出来たら。
それでも、殿下は彼女を大事にしてくれるのだろうか?
その保証がない。
だから、サフィルは耐えているんだ。
自身が殿下にとって使いやすい、手放し難い駒となれる様に。
自分の頑張り次第で、妹の幸せが決まるかもしれないから。
「そんなの……」
僕は、それ以上何も言葉が出なかった。
喉の奥が熱い。
目の前が揺らぐ。
すると、目の前にずいと白い布が差し出された。
カイトにハンカチを手渡されたのだ。
その時になって、自分が泣いているのだと気付いた。
「……すまない。あぁ、やっぱり駄目だ。涙腺が壊れてしまってさ…」
言い訳の様に口にすると、受け取ったそのハンカチでそっと涙を拭った。
「……そう、だったのか…」
「ただ、アルベリーニ子爵は親族の関係で第2王子派閥の扱いは受けておられましたが、元々派閥筆頭の侯爵家とは、当時受け持たれていた事業で対立する事があったり、当時の子爵自身、王太子がいらっしゃるのに、第2王子を担ぎ上げるのは道理に反すると、派閥内でも慎重な態度を示されていました。侯爵家とは距離があったのもあり、子爵家はなんとか疑惑を免れた様です。また、子爵が責任を取る形で爵位をご子息の長男へ譲られたのも大きかった。そうして、なんとか生き残れた子爵家を拾われたのが、ロレンツォ殿下だったようです。」
テオのその話に、僕は大きく目を見開いた。
それは……知らなかったから。
「当時、弱小で何の後ろ盾も無かった殿下からすれば、渡りに船だったのでしょう。子爵側も生き残る為には仕方なかった。だから、前当主で卿のお父君だった子爵は殿下の申し出を受け入れ、殿下の要望もあり、歳の近かった4男のサフィル・アルベリーニ子爵令息を殿下の側仕えとして差し出した様です。」
「……じゃあ、5年も前から、サフィルはあの様な扱いを受けていたのか?」
そんな、昔から?
僕の問う表情を見て、テオはハッと息を呑んだ。
僕は、自身がどのような顔をしているのかも自覚しないまま、突き飛ばされて蹲っていたサフィルの姿を思い出す。
「……初めは、子供らしいちょっとした意地悪程度だったと思いますよ。まだ力も無かったロレンツォ殿下にとって、大事な支えですから、そう無下には出来なかった筈です。子爵家を後ろ盾に得られた殿下は、王太子派へ入りました。そう簡単な事ではなかったでしょうが、ロレンツォ殿下にとって子爵家の他に、もう一つ献上するモノが出来たんです。」
「それが、我がエウリルスへの留学か。」
「えぇ。その二つを餌に、ロレンツォ殿下はのし上がった。……大したお方ですよ。事件の翌年には我が国へ来られ、エウリルス王立学院には通常14歳からとなりますが、1年早く13歳でご入学を果たされています。長期休暇は必ず帰国し、色々睨みを利かせていらっしゃる様ですよ。そして、アルベリーニ子爵令嬢……アルベリーニ卿の妹君とご婚約もなされた様です。」
「…っ!アルベリーニ卿は、妹君の事で脅され、カレンかカイトを攫う様に命じていたんだ。……そういう事だったのか。婚約者を脅しに使うなんて。結婚したら、卿は義理の兄になるというのにっ」
僕はギュッと拳を作って震わせていた。
許せない。腹立たしい。
そう、言うだけなら、簡単だ。
けれど、知ってしまった。
殿下からすれば、自分の手駒であると同時に、彼らが自身の数少ない生命線でもあるのだ。
サフィルもそれは分かっている筈。
殿下だって口では悪態をついても、実際に妹君を悪し様にはしないだろう事くらい。
そんな事をするメリットがないから。
しかし、あの性格だ。
妹を生かしておいてくれるのと、優しく接し幸せにしてくれるのとは、また別の話だ。
もし、これからもっと力をつけて、彼女より、子爵家より、有力な使える駒を手に入れる事が出来たら。
それでも、殿下は彼女を大事にしてくれるのだろうか?
その保証がない。
だから、サフィルは耐えているんだ。
自身が殿下にとって使いやすい、手放し難い駒となれる様に。
自分の頑張り次第で、妹の幸せが決まるかもしれないから。
「そんなの……」
僕は、それ以上何も言葉が出なかった。
喉の奥が熱い。
目の前が揺らぐ。
すると、目の前にずいと白い布が差し出された。
カイトにハンカチを手渡されたのだ。
その時になって、自分が泣いているのだと気付いた。
「……すまない。あぁ、やっぱり駄目だ。涙腺が壊れてしまってさ…」
言い訳の様に口にすると、受け取ったそのハンカチでそっと涙を拭った。
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