全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

81話 テオの報告

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「……シリル様、遅くなってしまい申し訳ございません。ロレンツォ殿下に関わる事ですが、大方調べがつきました。」

夏季休暇を前に、自室に籠ってカイトとカレンに課題をさせていた僕だったが。
その日は朝からテオは居らず、学院の登下校の護衛も屋敷の別の者が担っていた。
夕方になりようやく帰って来たテオは、早速僕らに報告をしてくれた。

促す僕に、テオは頷いて僕の横に座り。
僕とカイト、カレンをそれぞれ見やりながら、説明してくれた。

「現在のアデリート王は王妃の他に四人の側妃が居られ、その方々との間に7男5女を設けられましたが。」
「……多いね。」
「ま、そんなもんじゃない?時代的にも、いつ病気で死んでもおかしくないだろうし。」

テオが、カイトとカレンにも分かる様にアデリート王の家族構成から説明を始めると、カイトは王の子沢山っぷりに驚いていたが、カレンはケロッとしていた。
やはり、この世界の物語を読み込んだらしいカレンは、カイトと違い、王侯貴族の事情や常識等への理解が早い。
二人の反応の違いに苦笑しながら、テオは続きを話してくれた。

「ま、そうなんですけどね。ただ、人数が多いと、それだけ後継者争いも苛烈になりがちで、アデリートでも実際ややこしい事になっているみたいです。正式には第1王子が立太子され、王太子となられていますが、第2王子もかなりご優秀な方だったらしく、王太子派と第2王子派、どちらにも所属しない弱小派閥の主に3つの派閥に割れてしまっていた様でした。」
「わぁ~!如何にも王宮内の争いって感じ~」
「うへぇ……」

カレンはちょっと面白がっている節があったが、カイトは心底面倒くさそうな顔をしている。
それを見るだけでも、二人はよく似ているが、やっぱり違う所は違うなと思う。

「ただ、その3派閥で小さないがみ合いがある程度だった頃は良かったのですが、事態が急変したのは5年程前らしく。第2王子派閥筆頭の侯爵家に、当時、海上交易権で小競り合いが続いて敵対していた、北西に位置するヴァシリス連邦国との内通が疑われ、第2王子もその巻き添えを喰らって失脚されてしまいました。当時、その侯爵家も身の潔白を訴えてかなり粘られたそうですが、実際、侯爵も清いだけの御方ではございませんでしたからね。交易の取引書類等、明らかな物的証拠を突き付けられて……結局、牢の中で自害なされました。第2王子からすれば、母方の実家であり自身の後ろ盾でもありましたから、その侯爵家の失墜を前にこれ以上抗えない事を悟られた王子は修道院へ入られたとか。」
「流石に王子なだけあって、処刑は免れたのね。」

なかなかにシビアな抗争内容に、僕は改めて背筋がゾッとするのを感じたが、カレンは顔を顰めたものの、冷静に分析している。

「……王子を巻き込まない為にも、侯爵は自害を選択なされたのでしょうね。…本当に侯爵が当時のヴァシリスと繋がっていたのか、王太子派の者に陥れられたのか、今となっては分かりません。ですが、お陰で第2王子は修道院行きで済んだ。……第2王子派閥の粛清も行われましたが、侯爵の自害と王子の失脚で、それ以上大規模な粛清は行われず、幕引きとなりましたから。」
「う~。何か行くの怖くなってくんなぁ……」

テオの話に、カイトは今更ながらに怖気づいて、自身を抱える様にして両腕をさすっていた。
その様子にテオは同意を示して頷く。

「その時、第5王子はまだお歳も12歳でいらっしゃいましたから、ご本人は兄王子達の争いをどのような想いで見ていらしたのかは分かりません。そして、殿下の母君は正妃や他の側妃の方々と異なり身分の低いご出身でしたから、事件当時は第3の弱小派閥扱いをされていました。王太子派、第2王子派、そのどちら派閥にも所属出来ない程お力が無かったという事ですね。」
「……そのくらいまでは、僕も聞いて知っているんだが。殿下のあの横暴な態度を見ていると、そんな無力な王子様にどうにも見えないから…実感が湧かないんだよな…」

あぁ見えてロレンツォ殿下は、その出自でおそらく苦労されたのだろう。
でも、それを見せまいとされているのか、あの横暴な振る舞いの所為で、彼の本質を見極められない。
なかなかに難しい御仁だ。

「……だから、本来攻略対象だったのよ。母国で虐げられて凍てついた、異国の王子様の心を癒して恋仲になるっていう。」
「あ……そう。」
「でも、話と違って、実際は陰のある雰囲気を見せない、気さくで優しくってちょっと強引な所もある王子様ってだけだったから、私が知っていた彼と違い過ぎて、前回は深い話にまで至らなかったのよね……。あれ、もっと関りを持てば、そういった事も明かしてくれたのかもなぁ…」

カレンは呟く様に口にした。
確かに、カレンの言う彼の人物像は、上辺で見せる姿だったのかもしれない。
カレンの前では本性がバレていなかったのもあって、あくまで良い人を演じていたのだろうな…。
その方が絶対、素直なカレンの信用も得やすかった筈だから。
しかし、それが予備知識のあったカレンに対しては逆効果になってしまったのだろう。

カレンの話を聞きながら、僕はそんな事を思っていると、テオが僕の方を見やった。
……?
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