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第2章
78話 避けていた理由
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「な、何だよぉ!このくらい普通じゃん。大体、カレンだって楽しんでたじゃん。」
「だぁって、私は同性だしぃ。」
「あっそ。でも、シリルこそ喋らな過ぎじゃね?公爵って王族の次に身分が高い貴族なんでしょ?そんな付き合い悪くて大丈夫なの?」
……僕の痛い所を突いて来やがった。
仕方が無いじゃないか。
16歳より歳を重ねた事が無いんだ、僕は。
トータルとしては沢山の年月を過ごしていても、大人になった事がない。
前世の記憶が蘇る前も、何となく、自分がいずれ大人になるのだという実感が、どうにも持てなかった。
その点、公爵令嬢のシルヴィアの時は、自身の将来があやふやに感じられても、確かな道筋が敷かれていたから。
ただそのまま突き進めばよかった。
学院卒業後にデビュタントを迎えて大人の女性として認められ、王太子と結婚し、王子を産み、王妃となる。
その確かな道筋を信じて歩んで行けばよかった。
けれど、公爵令息のシリルとしては、どうすればいいのだろう?
本当は、僕が無事成人を迎えられても、叔父様には代理の立場から、このままクレイン公爵の位を正式に継いで頂きたい。
いっそ、叔父の元の伯爵の位を貰えないかなぁ?と、現実逃避をしかけるも。
リチャードやシャーロットなら叔母の実子だから、まだともかく。
叔母様とは血のつながりも無い僕が、その叔母様の実家である伯爵家を継ぐのはどう考えても道理に反していて、無理だもんなぁ……。
叔父様に継いでもらう為には、僕はどうすればいいのだろう?
死ぬ以外で…となると、現実的に難しいんだよな。
それか名も無き平民の娘とでも駆け落ちする?
……うん、想像出来ない。貴族と言う身分を失った自分に、相手がそれでも盲目的に付いて来てくれるなんて。自分にそんな魅力も甲斐性も無いしな。
ここアデリートにでも移住して、商人にでもなってみる?
……引きこもりの僕に、商才なんてこれっぽっちもある訳ないぞ。大体、アデリートは交易が盛んな国だ。エウリルス以上に機微に富んだ商才が無いと、まぁ無理だな。
……等々云々かんぬん考え出すと、なかなか良い解決策が見当たらなくて、結局、何の打つ手も取れないでいる。
取り敢えず、外国語の勉強はしているが……まぁ趣味程度のお遊びだな、うん。
テオにはもっと良い勤め先を見つけてあげたい。
今までまともに関わって来なかった。
僕に先があるとも思っていなかったから、極力避けていたんだ。
僕に何かあれば、彼が責任を取らされかねない。
それが、怖くて。
だから、きっと他の従者程色々な経験をさせてあげられなかった。
こんな中途半端なまま、他に放り出すのも、また彼の為にならないのだと……知りながら。
僕は大人にはなれない。
成人するまでに、いずれ死ぬ。
この死に戻りの回帰路線に立つ以前から、漠然とした確信があった。
だから、出来るだけ……他人とは接したくなかったんだ。
誰が味方で、誰が敵か。
死に際に突き付けられるのが怖かったから。
そして、シルヴィアの無念で……余計にその思いは加速していた。
信じた人に裏切られる。
愛した人に裏切られる。
その恐怖は、僕の心に強く強くこびりついて。
独りでは、踏み出せないでいた。
「…どうせ大人になる前に死ぬのに、色んな人間と関係を築くなんて、考えられなかったんだ……。」
「シリル……」
重い口を開いた僕に、カイトはただ、僕の名を呟いて。
カレンとテオは、ハッとして僕を見やる。
……いけない。
こんな異国の地に来てまで、暗い空気にしたくないのに。
僕は笑顔を作った。
「……ずっとそう思って、避けてた。でも、カイトもカレンもテオも、一緒に頑張ろうって言ってくれただろう?独りなら先に踏み出せなかったけど、今回は独りじゃない。だから、僕も頑張るつもり…ではいる。でも、いきなりカイトの様になるのは無理だ。ちょっとずつ頑張るから、今はこれで勘弁してくれ。」
な?と、許しを請うと。
カイトは急に僕の頬をむぎゅっと両手で掴む様にして包んだ。
「大丈夫だよ、シリル。独りでもがくのはきっと苦しいだろうけど、今回は四人で力を合わせるんだ。一人から一気に四人になったんだよ。これから更に味方を増やすからね。まっかせてっ」
両頬を強めに掴まれて変な顔にされかねない。
僕はその両手首を掴んで離させた。
「だから、お前は力が強すぎるんだって。」
「ハハッ!」
僕の毎度の抗議に、カイトは嬉しそうに笑った。
「だぁって、私は同性だしぃ。」
「あっそ。でも、シリルこそ喋らな過ぎじゃね?公爵って王族の次に身分が高い貴族なんでしょ?そんな付き合い悪くて大丈夫なの?」
……僕の痛い所を突いて来やがった。
仕方が無いじゃないか。
16歳より歳を重ねた事が無いんだ、僕は。
トータルとしては沢山の年月を過ごしていても、大人になった事がない。
前世の記憶が蘇る前も、何となく、自分がいずれ大人になるのだという実感が、どうにも持てなかった。
その点、公爵令嬢のシルヴィアの時は、自身の将来があやふやに感じられても、確かな道筋が敷かれていたから。
ただそのまま突き進めばよかった。
学院卒業後にデビュタントを迎えて大人の女性として認められ、王太子と結婚し、王子を産み、王妃となる。
その確かな道筋を信じて歩んで行けばよかった。
けれど、公爵令息のシリルとしては、どうすればいいのだろう?
本当は、僕が無事成人を迎えられても、叔父様には代理の立場から、このままクレイン公爵の位を正式に継いで頂きたい。
いっそ、叔父の元の伯爵の位を貰えないかなぁ?と、現実逃避をしかけるも。
リチャードやシャーロットなら叔母の実子だから、まだともかく。
叔母様とは血のつながりも無い僕が、その叔母様の実家である伯爵家を継ぐのはどう考えても道理に反していて、無理だもんなぁ……。
叔父様に継いでもらう為には、僕はどうすればいいのだろう?
死ぬ以外で…となると、現実的に難しいんだよな。
それか名も無き平民の娘とでも駆け落ちする?
……うん、想像出来ない。貴族と言う身分を失った自分に、相手がそれでも盲目的に付いて来てくれるなんて。自分にそんな魅力も甲斐性も無いしな。
ここアデリートにでも移住して、商人にでもなってみる?
……引きこもりの僕に、商才なんてこれっぽっちもある訳ないぞ。大体、アデリートは交易が盛んな国だ。エウリルス以上に機微に富んだ商才が無いと、まぁ無理だな。
……等々云々かんぬん考え出すと、なかなか良い解決策が見当たらなくて、結局、何の打つ手も取れないでいる。
取り敢えず、外国語の勉強はしているが……まぁ趣味程度のお遊びだな、うん。
テオにはもっと良い勤め先を見つけてあげたい。
今までまともに関わって来なかった。
僕に先があるとも思っていなかったから、極力避けていたんだ。
僕に何かあれば、彼が責任を取らされかねない。
それが、怖くて。
だから、きっと他の従者程色々な経験をさせてあげられなかった。
こんな中途半端なまま、他に放り出すのも、また彼の為にならないのだと……知りながら。
僕は大人にはなれない。
成人するまでに、いずれ死ぬ。
この死に戻りの回帰路線に立つ以前から、漠然とした確信があった。
だから、出来るだけ……他人とは接したくなかったんだ。
誰が味方で、誰が敵か。
死に際に突き付けられるのが怖かったから。
そして、シルヴィアの無念で……余計にその思いは加速していた。
信じた人に裏切られる。
愛した人に裏切られる。
その恐怖は、僕の心に強く強くこびりついて。
独りでは、踏み出せないでいた。
「…どうせ大人になる前に死ぬのに、色んな人間と関係を築くなんて、考えられなかったんだ……。」
「シリル……」
重い口を開いた僕に、カイトはただ、僕の名を呟いて。
カレンとテオは、ハッとして僕を見やる。
……いけない。
こんな異国の地に来てまで、暗い空気にしたくないのに。
僕は笑顔を作った。
「……ずっとそう思って、避けてた。でも、カイトもカレンもテオも、一緒に頑張ろうって言ってくれただろう?独りなら先に踏み出せなかったけど、今回は独りじゃない。だから、僕も頑張るつもり…ではいる。でも、いきなりカイトの様になるのは無理だ。ちょっとずつ頑張るから、今はこれで勘弁してくれ。」
な?と、許しを請うと。
カイトは急に僕の頬をむぎゅっと両手で掴む様にして包んだ。
「大丈夫だよ、シリル。独りでもがくのはきっと苦しいだろうけど、今回は四人で力を合わせるんだ。一人から一気に四人になったんだよ。これから更に味方を増やすからね。まっかせてっ」
両頬を強めに掴まれて変な顔にされかねない。
僕はその両手首を掴んで離させた。
「だから、お前は力が強すぎるんだって。」
「ハハッ!」
僕の毎度の抗議に、カイトは嬉しそうに笑った。
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