全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

73話 唐突な提案

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カレンの唐突な提案に、僕は目を丸めた。

「ん?フローレンシア?」
「うん。アデリートはロレンツォ殿下の伝手で行くでしょ。で、引き留められそうになったら、この後フローレンシアにも行かなきゃならないから、ごめんなさい。ってすまなそうに謝ってさ。」
「いや、だから、何でフローレンシアに?」

今まで何の関りも無かった国の事を急に言われても。
カレン以外の男三人が首を傾げていると。

「それがね。この間お会いしたのよ、フローレンシア王国からの留学生で、もう一人の王子様のカミル殿下に。」
「会ったんだ?!」

凄い行動力だなぁ~とカイトはカレンを見やる。
カレンはふふん。と得意げな顔をして、事の顛末を話してくれた。

「情報収集の一環よ!シリル、言ってたでしょ。学院には王子様が二人、留学に来てるって。取り敢えず、前回みたいにゲームの攻略対象には会って一通り話をしてみたのよ。ロレンツォ殿下はどう関わるか迷ってたから、相談してからにしようって…保留にしてたんだけど。でも、カミル殿下は攻略対象外だったから、お姿を見かけたくらいで……今までちゃんとお会いした事無かったのよね。だから。」

シリルの話だと、いつも母国を心配している様子の王子様だそうで、穏やかな性格そうかなって思って。
移動教室の時とか、ちょっと気にして動向を見てたの。
そしたら。
中庭の古いガゼボに腰を下ろして、護衛も付けずに一人で泣いてたから……つい。

てへ。
そう、わざとらしく笑って。
カレンは説明してくれた。

「あんまりにも可愛くって、つい声かけちゃった。」
「…ショタコン。」
「違うから!言うて14歳だし、ただの後輩でしょ。何も変な事してないわよ?!お話しするだけの何が悪いのよぉ!」

カイトのつっこみにカレンが何故か怒っていたが。
殿下の愛らしさに心惹かれて声を掛けたらしい。

「……んで、まぁ。話を聞いたのよ。どうして泣いてらっしゃるんですか?って。そうしたら。母国が心配でって。でも、よくよく聞いてみたら……お兄様の具合が良くないみたい。それで周りの皆も不安になっちゃって、落ち着かないんだって。」

「フローレンシアの王太子の容態があまり良くないというのは漏れ伝わっているが。やっぱりそうなのか。」

カレンの話に、僕は顎に手を当て考え込む。

「アデリートだけ助けるのも不公平でしょ?だから、フローレンシアも助けてあげれば、エウリルスにとっても悪くないんじゃないかな。フローレンシアとはアデリートの様な親しい関係は無くとも、隣の国が情勢不安なのは、エウリルスにとっても良い事ではないでしょう?……隣国との仲って難しいと思うけれど、フローレンシアは小国だし、向こうが元気になったからって、直ぐに攻めたりして来ないよね?留学生に第2王子を送り出すくらいだし。」

そうだよね?
と不安げに尋ねて来るカレンに、僕はそうだな、と頷いた。

「フローレンシアは更に東方域の異民族地域に近いから、そちらからの圧迫による負担が大きいんだ。だから、エウリルスとは対立するより、異民族との関係が悪化した時に奴らの襲来からの対応の協力を求められる事が多い。フローレンシアが不安定になれば、奴らに付け入る隙を与えやすくなってしまう。だから、エウリルスとしてはフローレンシアには出来るだけ安定した状態で居て欲しいんだ。」

第2王子殿下を留学生として受け入れているのも、その為。
次代を担う者を受け入れ、より安定した国で居てもらう為に。

「だったら……!」
「ただ、今は情勢が少し不安定だと聞く。アデリートの方は、ロレンツォ殿下に身の安全は保障するように言ったから、まだ良いとして。フローレンシアは治安面でエウリルス王に反対される可能性があるぞ。」

そこは、どう乗り切る?
そこでカレンもカイトも頭を抱えてしまったが。
テオがおもむろに口を開いた。

「あの……シリル様。護衛の観点から言わせて頂くと、いくらロレンツォ殿下が皆様の安全保障を責任もって担って下さるとしても、やはり不安は拭えません。いくらアデリートが友好国だからと言って、アデリート内も色々な勢力がいます。あの殿下でさえも、王位争いの真っ只中にいらっしゃいますし。ですから、アデリートの兵を信用するのはどうかと。」
「それは分かっている。あの王子も第5王子だ。王位継承順位は高くないから、どれだけの警備を敷けるかも…正直不安だしな。逆に、巫子達の来訪を利用して、殿下を貶める為に襲撃を受ける可能性すらある。だからって、このクレイン家の護衛騎士だけでは……無理だな。」
「ちなみに、この公爵邸から出してもらえるとしたら、護衛騎士は何人くらい可能なの?」

現実に動く場合、その護衛の安全性を検討し出すと、頭が痛い。
テオとそれを話していると、カイトがこの屋敷から出せる騎士の数を尋ねて来た。

「5人程度が関の山だろう。この屋敷に居る家族の護衛は外せない。それを考えれば…せいぜいそのくらいだろうな。」
「少数精鋭もいいじゃん。」
「多勢に無勢って言うんだよ。」

少数精鋭だなんて…。
何と呑気な。と、僕はカイトの言葉に呆れかえった。

「……ですから、陛下にお願いして、王宮からも護衛を十数名付けてもらってはどうでしょうか?」
「その必要があるよな。」
「えー!まぁたあの護衛ゾロゾロ付けて回らないといけないの?!」

前回も嫌だったのに、またぁ?とカイトはげんなりした顔をする。

「ですが、その方が国王陛下にも安心して頂けますし、了承を得やすいのではないでしょうか?」
「うーん、確かに。…アレ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、そもそも王様が認めてくれないと先へ進めないもんねぇ。」

テオの話に、カイトも渋々納得していた。
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