上 下
68 / 352
第2章

68話 暴力王子、再び

しおりを挟む
「おい!それでどうなんだよ。」

高圧的な声が聞こえて来る。
……この声は。

ロレンツォ殿下だ。

「救世の巫女ってのは本物なんだろ?二人も居るんだ、一人くらい…連れて来る事も出来ないのか?!」

……カレン…。
やっぱり、優しいなんて嘘だろう?
アイツ、あわよくばお前を連れ去ろうとしているぞ。

僕は、やっぱりカレンの話していた殿下の人物像を認める事が出来ない。
取り敢えず、もう少し情報を得られないか、僕はしばらく影で耳を澄ましていた。

「……ですが殿下。彼らは普通科で、我々は専学科です。科が違うと授業も被る事が無いので、そもそも接点を作る機会がございません。」

躊躇いがちに返答していたのは……。
僕はその声を耳にした途端、ドクンと心臓の音が響いた。
————彼だ。
紛れもない彼の、声だ。

ギュッと胸が苦しくなるのを感じる。
どうすればいいんだろう?
死に戻ったなら、また彼も居る事は分かっていた筈なのに。
思った以上に戸惑う自分に、どうすればいいのか分からなくなる。
混乱して動けないでいると、彼らのやり取りがまた不穏になっていく。

「だーかーらー、接点なんぞチマチマ作らんでも、サッサと連れて来ればいいだろうがっ」
「此処は本国では無いのですよ。エウリルスが手厚く保護している巫子様達です。当然監視の目も厳しい。それを無理矢理連れ去るなんて、どう頑張っても無理です。」
「それをやるのがお前の役割だろう?それとも……もう辞めるか?その代わり、お前の妹の身の安全は保障しないがな?」
「……っ」

かなり際どい事を話している。
ロレンツォ殿下はどんな手を使っても救世の巫子を手に入れたい様だ。
それに対し、サフィルは……苦々しい様子で反対しているが。
彼は、家族を……妹を人質に取られていたのか……。
それできっと。
前世でも今世でも、随分嫌な役目を負わされているのか。

なんて酷い。
僕はギュッと拳を握った。

その瞬間だった。

「いっ!」

サフィルの呻く声がして、僕は思わず振り返る。
影から覗き見ると、彼が地面に尻もちをついていた。
突き飛ばされたのか。

「必要な人出なら準備してやると言っているんだ。女でも男でもどちらでもいい。必ず巫子を俺の前に連れて来い。必ずだ。」
「……」

冷酷に言い渡す殿下に、サフィルは苦しげに睨み付けていた。

「やっぱり嗜虐趣味の暴力王子……」
「「?!」」

駄目だとは思いつつ、口を出さずにはいられなくて。
倉庫裏の影から、僕は気付けば殿下をねめつける様に目を細めて呟いていた。
その声に、二人はかなり驚いて僕の方を見やる。

聞かれていた……!!
二人はしまった、という顔をしていたが。
前世と同じ様なシチュエーションに、僕は何の驚きも見せない。
ただロレンツォ殿下を恨みがましく睨み付けた。

「どうされた?……君は確か、普通科のクレイン公子ですよね?」

さっきの横暴さは何処へやら。
殿下は人好きのする笑顔で僕ににこやかに話し掛けるが。
僕は表情を緩めなかった。

「取り繕わなくて結構ですよ、ロレンツォ殿下。先程のお二人の言い争い、この耳でしかとお聞き致しました。……救世の巫子達へのあんな不敬な話、こんな所でペラペラとお話になって、警戒心が無さ過ぎるのでは?」

厭味ったらしく僕が答えると、殿下の顔は見る見るイライラして。

「ふん。聞いていたのは君だけだろう?どうせ。」
「知らないんですか?巫子達は、僕の屋敷で暮らしているのですが。」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

処理中です...