全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

57話 食い違う殿下の人物像

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「地下牢に居た時、王太子が去った後、ロレンツォ殿下達が来た。」
「ロレンツォ殿下ぁ?!あの、アルベリーニ子爵令息をボコったらしい奴?」
「……あぁ。」
「ロレンツォ殿下……あぁ!アデリート王国から留学に来ていた、あの。」

僕らの話に、カレンは思い出した様に手を叩いた。

「ロレンツォ殿下に言われたんだ。自分の無実を証言しろ、そしたら加勢してやるからって。で、処刑を免れたら……カイト、お前を連れて来いって。悪い様にはしないとは言っていたが、殿下のあの様子じゃあ、悪魔でも蘇らせる気なんじゃないかって、僕は断ったんだ。」
「何で?!乗ってくれて良かったのに。シリルが死ぬくらいなら、殿下に協力するくらいなんとも……。」
「いや、問題が無ければ、そもそもそんな危ない橋を渡って僕を助ける必要は無い。国王陛下に救世の巫子の救済を正式にアデリートにも、と要請すれば良かったんだ。アデリートとは友好関係にあるんだし。それが出来ないって言うのは、危ない橋だったんだよ。アデリート内の権力抗争に絡んでくるか、よっぽどいかがわしい相手への救済を強要されるか。」
「それでも……」

死ぬよりは良いんじゃないかとカイトは言い淀むが。
それはお前が知らないからだと、僕は答える。
それこそ下手に巻き込まれたら、権力の道具として何処までも使われてしまう羽目になる。
それはお前が望む自由とはかけ離れた恐ろしく窮屈な、束縛され続ける世界だ、と僕は言った。

「それは一理あるかもだけど、ロレンツォ殿下はやり手でしょ?そんなヘマはしなさそうだけど…。ちょっと強引な所もあるけど、優しいし。」

……え。
今、何と。
優しい?あの殿下が?
キョトンとした顔でいうカレンに、僕は信じられない。という顔をした。

「いやいや、倉庫裏で同郷の部下を気絶するまで打ちのめす奴だよ。優しいは無いでしょ。」

突っ込むカイトに、カレンは反論する。

「うっそぉ!海斗の時、彼、そんな事してたの?サフィルに?」

随分気安くいうな、カレン。
どういう事だと僕が問うと、カレンは思い返しつつ答えてくれた。

「私が学院で会った時はね、とても親切だったのよ。お茶に誘ってくれたり。ちょっと誘い方が強引な気もしたけど、物腰は柔らかで優しかったわ。」

ユリウス殿下とはまた違ったやり手の魅力的な王子様だなって思った、と。
カレンの話す人物は本当にロレンツォ殿下なのか?
僕はカイトと顔を見合わせると。
カレンは首を傾げる。

「殿下がサフィルをボコボコにする現場を見たって言うの?海斗は。」

尋ねるカレンに、カイトは口ごもる。
カイトはそもそもあの時、倉庫裏で倒れていたサフィルの姿すら見ていないからな。
曖昧な態度にカイトを見た後、カレンは僕の方にも目を向けた。

「僕も、ロレンツォ殿下がサフィルを殴ったりしている所は見ていないが、かなり酷い扱いをしている様子は感じられたがな。……地下牢で、護衛騎士のジーノが何故か簡単に牢の鍵を開けて、殿下は僕を結構ボコボコにしてくれたぞ。」

僕の返答に、カレンだけでなくカイトもテオも愕然とした。

「……うそ。」
「マジか?!」
「それは本当ですかシリル様!」

カレンはショックを受け、カイトとテオは怒りのあまり立ち上がる。
僕は、取り敢えず二人を座らせた。

「まぁ、ロレンツォ殿下は僕とカイトが親しいのを知っていたみたいだからな。僕を助けてカイトを連れ出したかったんだろうが、僕がその条件を飲まなかったから、かなりご立腹だったんだろう。どうにかいたぶって屈服させたかったんだろうが、そこで折れたらもっと恐ろしい目に遭わされそうだったからなぁ~」

滅茶苦茶ひん曲がっていたぞ、あの性格。
かなりの嗜虐趣味だったし。
そう答えた僕の話を聞いて、カレンは本当にビックリしていた。

「まさか、そんなドS王子だったなんて…」
「ど…なんだって?」
「ドS王子。そこまで酷く感じなかったのに……。ねぇ、じゃあ殿下がシリルをボコしている時、お付の二人はどうしてたのよ?」

まさか、黙って見てたの?
そう、カレンに問われたが。
ただ見てたどころか……。
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