全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
55 / 369
第2章

55話 前世のカイトと僕

しおりを挟む
「君と邂逅した時は、心底恐ろしかったよ。」

今だから言えるけどね、と付け足して。
僕はついこの間の出来事だったのに、随分昔の事の様に感じて、フッと笑みがこぼれた。

「王太子とはもう、婚約者でも何でもない、ただその他大勢の中の一人の位置づけになっていたからね。ほとんど直接的な関係が無くなったからほぼ会わなくて済んだし。……でも、カイト、君は…」
「めちゃくちゃ絡んでたよな、シリルに。……俺は男だけど、カレンと同じ救世の巫子だったから、嫌だった?」

不安そうに尋ねて来るカイトに、悪いとは思いつつ、僕は正直に思いの丈を話した。

「————僕にとって、死神だと思った。何がきっかけになって、巫子に悪感情を持たれて人生転落するか、まるで想像がつかなかったから。もしまたカレンだったなら、王太子との仲を邪魔せず関わらなければ、接点も無いから大丈夫だったかもしれないけど……。カイト、君は王太子の婚約者となっていたクリスティーナ・オースティン侯爵令嬢に首ったけだったしな。」
「えー?!」
「ちょ、ちょっと!そこまでじゃないよ!推しだよ推し!頑張ってて可愛いなぁって思ってただけだってば!」

照れるカイトに苦笑しながら、僕は話を続けた。

「まぁ、よく分からんけど皆に万遍なく愛想良くしてたからな。僕はその他大勢の中の一人として、極力目立たず関わらずを決め込んだんだが……捕まえられたからな。」
「うっ……アハハ…はは…。だぁって!シリルだけだったんだもん。俺に遠慮せずずけずけ言って来たのって。皆、救済して欲しいって言ってたから、どうしても気を遣われてるのは感じてたし。」
「……アレが失敗だったのか。関わりたくなかったから、そもそもお前の救済に最初から期待して無かったからなぁ……。」

まぁ、途中でイラっとしてキツめに言ったりしちゃってたからな…。
僕はまた苦笑した。

「最初は極力関わらない様にしていたが、めちゃくちゃ話しかけられて、絡まれて…。当時王宮で匿われてたカイトは、王太子からのアプローチに悩んでいて、僕を空き教室に引っ張り込んでその相談相手にさせられたよな。」
「だって、マジどーしよーって悩みまくってたんだよ。いくら何でも王子様のご機嫌を損ねる訳にはいかないし。でも、顔合わせる機会が多いから、出来るだけ救済行きまくって距離を取って、空いてる日は孤児院に行ったりして時間潰して。」
「えー、殿下ってばカイトなんかに気が有ったのぉ?!うっそぉ!」

なんかもう懐かしくなってあの時のドタバタを話す僕とカイトの話を聞き、その内容にカレンがビックリしていた。

「なんか、俺とシリルの仲を怪しまれて、シリルが王太子から牽制の目を向けられたらしいけど、結局、ぶっちゃけて聞いてみたら、俺の事『弟みたいで可愛がりたい』ってだけだったんだ。実母の兄弟に第1王女が居たけど、体が弱くて自室からあんまり出ないからそんなに交流持てないし、第2王子は側室の子だから対立関係にあって、あんまり関わると王妃も側妃も要らぬ疑念を抱くからって。」
「……そう言えば、シルヴィアの時にリックやロティーの話をしてると、王太子凄く羨ましそうにしてたもんなぁ……。今にして思えば、納得かも。」
「なぁんだ。弟ポジか。そう見せかけて本当は…♡」
「無かったからっ!」

折角、王太子からの接触は弟を可愛がる様なものだったと言って、カイトは安心したのに。
カレンは本当に~?と、ニヤリと笑いながらカイトを訝し気に見つめたが。
カイトはすかさず否定した。

「で、王太子との関係も問題無くなって、別にシリルとコソコソ話さなくてもいいじゃん!ってなって、シリルん家に遊びに行ったりしたんだ~」

カイトはご機嫌に、シリルの家で遊んだの楽しかった、だの、シリルが言う通りいとこのリックもロティーも可愛かっただの、皆で一緒にベッドで寝て朝ベッドから落ちてた…気付かなかった~、だの。
実に楽しそうに話すが。
それを思い出した僕は、カレンに向き直った。

「あ!そうだった。カレン!コイツは常識が無いのか?前日の下校時に、いきなり明日泊まりに行くからって、紙切れだけを寄越して来て。僕の了承も無く、本当に次の日来たんだぞ。」
「だってだってぇ~!事前に相談したら、絶対シリルってば、ダメっていうじゃん~!」
「当たり前だろうが!」
「でも、そんだけ仲良かったなら別にいいじゃない。……コイツ、元の世界でも、しょっちゅう友達ん家に入り浸ってるから。」

苦々しく言う僕に、カイトはまた同じ言い訳をしたが、カレンはさもありなんといった様子でシレッと答えた。

「……そんなもんなのか。」
「うん、まぁ……ゆう君ん家、あ!海斗の友達ね、ご両親が仕事で帰り遅い事多いから…ってのもあるんだけどね。」
「ふーん。」

所変われば事情もそれぞれなんだな。
だが、我が家はその者の家とは事情が違うんだが?
そう言うと。

「もー、ホント。それはやっぱアンタが悪いわ。ごめんなさい、ウチの馬鹿弟がご迷惑をお掛けしまして。」

「……本当にな。……って、え?弟?」

ふんぞり返ってそうだそうだ!と言いかけようとして、僕は目を丸めた。
弟って?
眉を顰める僕に、カイトが笑った。

「俺と夏恋は双子なんだよ。俺が弟で夏恋は姉。ま、双子だからどっちが上とか下とか関係ないけどなー。」
「双子……。」
「確かに、お二人はよく似てらっしゃいますね。どおりで…」

巫女と巫子が双子と聞かされ、僕とテオは驚いたが納得した。
確かに見た目も雰囲気もよく似ている。
ノリが軽い所とか。

「脱線しちゃったけど、つまり、海斗とシリルはなんやかんやで仲良くやってたのよね?で、その後どうだったの?」

尋ねるカレンに、テオも頷く。
そこで、僕とカイトは顔を見合わせ、二人とも俯いた。

「え?何よ…」

何でそんな急に暗くなんの。
カレンが怪訝な顔をする。
カイトはどう言うべきか逡巡していたので、僕がさっさと答えた。

「その後も特に何もなく、ずっとのんびり学院生活を過ごしていた。カイトは相変わらず救済に奔走していた様だが。だから、僕も完全に油断していたんだが……卒業パーティーの日…」

僕は、喉の奥にグッと苦みが広がったが、意を決して口を開いた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
 没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。  そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。  そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。 そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...