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第2章

55話 前世のカイトと僕

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「君と邂逅した時は、心底恐ろしかったよ。」

今だから言えるけどね、と付け足して。
僕はついこの間の出来事だったのに、随分昔の事の様に感じて、フッと笑みがこぼれた。

「王太子とはもう、婚約者でも何でもない、ただその他大勢の中の一人の位置づけになっていたからね。ほとんど直接的な関係が無くなったからほぼ会わなくて済んだし。……でも、カイト、君は…」
「めちゃくちゃ絡んでたよな、シリルに。……俺は男だけど、カレンと同じ救世の巫子だったから、嫌だった?」

不安そうに尋ねて来るカイトに、悪いとは思いつつ、僕は正直に思いの丈を話した。

「————僕にとって、死神だと思った。何がきっかけになって、巫子に悪感情を持たれて人生転落するか、まるで想像がつかなかったから。もしまたカレンだったなら、王太子との仲を邪魔せず関わらなければ、接点も無いから大丈夫だったかもしれないけど……。カイト、君は王太子の婚約者となっていたクリスティーナ・オースティン侯爵令嬢に首ったけだったしな。」
「えー?!」
「ちょ、ちょっと!そこまでじゃないよ!推しだよ推し!頑張ってて可愛いなぁって思ってただけだってば!」

照れるカイトに苦笑しながら、僕は話を続けた。

「まぁ、よく分からんけど皆に万遍なく愛想良くしてたからな。僕はその他大勢の中の一人として、極力目立たず関わらずを決め込んだんだが……捕まえられたからな。」
「うっ……アハハ…はは…。だぁって!シリルだけだったんだもん。俺に遠慮せずずけずけ言って来たのって。皆、救済して欲しいって言ってたから、どうしても気を遣われてるのは感じてたし。」
「……アレが失敗だったのか。関わりたくなかったから、そもそもお前の救済に最初から期待して無かったからなぁ……。」

まぁ、途中でイラっとしてキツめに言ったりしちゃってたからな…。
僕はまた苦笑した。

「最初は極力関わらない様にしていたが、めちゃくちゃ話しかけられて、絡まれて…。当時王宮で匿われてたカイトは、王太子からのアプローチに悩んでいて、僕を空き教室に引っ張り込んでその相談相手にさせられたよな。」
「だって、マジどーしよーって悩みまくってたんだよ。いくら何でも王子様のご機嫌を損ねる訳にはいかないし。でも、顔合わせる機会が多いから、出来るだけ救済行きまくって距離を取って、空いてる日は孤児院に行ったりして時間潰して。」
「えー、殿下ってばカイトなんかに気が有ったのぉ?!うっそぉ!」

なんかもう懐かしくなってあの時のドタバタを話す僕とカイトの話を聞き、その内容にカレンがビックリしていた。

「なんか、俺とシリルの仲を怪しまれて、シリルが王太子から牽制の目を向けられたらしいけど、結局、ぶっちゃけて聞いてみたら、俺の事『弟みたいで可愛がりたい』ってだけだったんだ。実母の兄弟に第1王女が居たけど、体が弱くて自室からあんまり出ないからそんなに交流持てないし、第2王子は側室の子だから対立関係にあって、あんまり関わると王妃も側妃も要らぬ疑念を抱くからって。」
「……そう言えば、シルヴィアの時にリックやロティーの話をしてると、王太子凄く羨ましそうにしてたもんなぁ……。今にして思えば、納得かも。」
「なぁんだ。弟ポジか。そう見せかけて本当は…♡」
「無かったからっ!」

折角、王太子からの接触は弟を可愛がる様なものだったと言って、カイトは安心したのに。
カレンは本当に~?と、ニヤリと笑いながらカイトを訝し気に見つめたが。
カイトはすかさず否定した。

「で、王太子との関係も問題無くなって、別にシリルとコソコソ話さなくてもいいじゃん!ってなって、シリルん家に遊びに行ったりしたんだ~」

カイトはご機嫌に、シリルの家で遊んだの楽しかった、だの、シリルが言う通りいとこのリックもロティーも可愛かっただの、皆で一緒にベッドで寝て朝ベッドから落ちてた…気付かなかった~、だの。
実に楽しそうに話すが。
それを思い出した僕は、カレンに向き直った。

「あ!そうだった。カレン!コイツは常識が無いのか?前日の下校時に、いきなり明日泊まりに行くからって、紙切れだけを寄越して来て。僕の了承も無く、本当に次の日来たんだぞ。」
「だってだってぇ~!事前に相談したら、絶対シリルってば、ダメっていうじゃん~!」
「当たり前だろうが!」
「でも、そんだけ仲良かったなら別にいいじゃない。……コイツ、元の世界でも、しょっちゅう友達ん家に入り浸ってるから。」

苦々しく言う僕に、カイトはまた同じ言い訳をしたが、カレンはさもありなんといった様子でシレッと答えた。

「……そんなもんなのか。」
「うん、まぁ……ゆう君ん家、あ!海斗の友達ね、ご両親が仕事で帰り遅い事多いから…ってのもあるんだけどね。」
「ふーん。」

所変われば事情もそれぞれなんだな。
だが、我が家はその者の家とは事情が違うんだが?
そう言うと。

「もー、ホント。それはやっぱアンタが悪いわ。ごめんなさい、ウチの馬鹿弟がご迷惑をお掛けしまして。」

「……本当にな。……って、え?弟?」

ふんぞり返ってそうだそうだ!と言いかけようとして、僕は目を丸めた。
弟って?
眉を顰める僕に、カイトが笑った。

「俺と夏恋は双子なんだよ。俺が弟で夏恋は姉。ま、双子だからどっちが上とか下とか関係ないけどなー。」
「双子……。」
「確かに、お二人はよく似てらっしゃいますね。どおりで…」

巫女と巫子が双子と聞かされ、僕とテオは驚いたが納得した。
確かに見た目も雰囲気もよく似ている。
ノリが軽い所とか。

「脱線しちゃったけど、つまり、海斗とシリルはなんやかんやで仲良くやってたのよね?で、その後どうだったの?」

尋ねるカレンに、テオも頷く。
そこで、僕とカイトは顔を見合わせ、二人とも俯いた。

「え?何よ…」

何でそんな急に暗くなんの。
カレンが怪訝な顔をする。
カイトはどう言うべきか逡巡していたので、僕がさっさと答えた。

「その後も特に何もなく、ずっとのんびり学院生活を過ごしていた。カイトは相変わらず救済に奔走していた様だが。だから、僕も完全に油断していたんだが……卒業パーティーの日…」

僕は、喉の奥にグッと苦みが広がったが、意を決して口を開いた。
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