全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

53話 最初から…

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記憶があるのは両親の死。
その後、父の弟で、僕からしたら叔父に当たるルーファス当時伯爵が、夫人を連れて、実家であるこの公爵邸に戻って来てくれた。
まだ当時6歳だった僕には、当然家を継げる筈も無く。

————いや。
最初の人生はそもそも。
僕は公子ではなく、公女だった。
シルヴィア・クレイン公爵令嬢。

前年の当時5歳に、国王夫妻と両親の間で取り交わされ、私…シルヴィアは、当時第1王子だったユリウス殿下と将来結婚する様にと、婚約者となったのだ。
そして、実の両親を喪った後、叔父様が公爵代理となり家の一切の事を取り仕切り、私とユリウス殿下の婚約関係も揺るぎなく続けられた。

しばらくしてユリウス殿下は正式に立太子され王太子となられ、その妃となる為に、私は王妃教育を施される事となる。
叔父と叔母は、あまり無理はしない様にと、いつも気にかけてくれたが。
私は支えてくれたお二人の為にも、誰の前に出されても恥ずかしく無い立派な王妃と成れる様、日夜王妃教育に専念していた。
その内に従弟や従妹も生まれ、私は自分の実の兄弟の様に可愛がった。
厳しい王妃教育の癒しの一つともなっていた。

そして、14歳でエウリルス王立学院へ入学し、王妃教育と並行して学業にも専念した。
かなり忙しい日々を送っていたが、充実した毎日だった。
学院に通えば、王太子と会える機会も増えるし、より親密になっていけたのは言うまでもない。
そうして、学院を卒業の半年前、救世の巫女・カレンが現れたのだ。

救いを齎す巫女の噂はあっという間に世間に広まり、もちろん私も興味をもった。
けれど、巫女が招かれて王宮で暮らす事となり、私の精神は徐々に蝕まれていった。

専学科に進み、より深く難しい学問と、政務の一部を本格的に担い始めた王太子は、彼なりに大変だったのだと思う。
いつも忙しそうにしていたから。
だから、私も少しでもお役に立てたら……と思っていたが。

会える機会の減ってしまった私と違い、巫女は同じ王宮で生活している。
毎度ではないだろうが、共に食事をする機会も多かっただろう。
そして、民の為にその能力を使って、皆を救済して回る巫女を一人にはしておけない。
王太子も政務の傍ら、巫女の救済活動を共にした。
特に遠出の時などは。

過ごす時間が増えれば、自然と親密にもなる。
将来を誓い合った婚約者の自分と王太子の間に溝が出来ていくのに、巫女と彼の間の距離はどんどん近付いていく。

私はその不安と不満から、巫女に注意した事が度々あった。
仕事なのは理解しているが、彼は私の婚約者なの。
貴女はそれを分かっていて、彼とあんなにベタベタしているのかと。

巫女は誤解だと言って謝って来て、王太子も何度も説明してくれた。
でも、いくら頭では理解していても、心では受け入れられない。
自身が主催したお茶会でも、彼女は……巫女様はお忙しいでしょうから。と、わざと呼ばなかった。
自分の内輪の会で、巫女に愛想良く出来る気もしなかったから。
そんな上辺も取り繕えない程、私は疲弊してしまっていた。

「……そりゃ、そうよね。ゲームや漫画や小説だったら、主人公目線で楽しくてワクワクしちゃうけど、奪われる側からしたら、たまったもんじゃないよね。」

シュンとしたカレンが思わず呟いていた。
その元気のない様子に、僕はフッと笑いかける。
すると、カレンはその黒い瞳を潤ませた。

「王太子も悪いのさ。もう少し上手くやればいいものを。政務に忙しかったなら、もっとシルヴィアに割り振れば良かったんだ。王妃教育は終盤だったし。……まぁ、彼なりに気を遣ってくれたんだろうけど。それが結果的にあだになったな。」

「ユリウス殿下ね、本当にシルヴィア嬢の事自慢してたんだよ。自分の為に凄く頑張ってくれているから、これ以上、あまり負担は増やしたくないって。」

「それが、こっちからしたら、巫女と二人で居たいから、あまり関わらせないでおこうとしているのかと勘ぐってしまったからな。」

それでも、冷静になって。
改めてカレンの話を聞くに。
王太子はシルヴィアをそれなりに大事に思っていたらしい事は、知れた。
だったら何故、あの時、あの様な行動を取ったのだろう?
どうにも腑に落ちない。

黙り込んでしまった僕に、カイトがおずおずと口を開いた。

「……カレンとシルヴィアちゃんの関係がギクシャクして……どうなっちゃったの?」
「卒業を目前に控えたある日、カレンが何者かに攫われたんだ。」
「んえ?!そうだったの?」
「うん。アレは流石にヤバいと感じた…。」
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