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第2章

52話 三度目の正直

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ようやく涙も落ち着いてきて、カイトをそっと離すと、目の周りを少し赤く腫らして、それでも笑ってくれた。
僕も同じくフッと目元を緩める。
お互いちょっと照れくさかったけれど、それ以上に再会出来た喜びを噛み締めた。

「落ち着かれましたか?」

僕の後ろから、優しく気遣う様に声を掛けて来たテオに、僕はコクリと頷いた。

「あ、テオドールさん、すみませんでした…いきなりシリルに抱き付いちゃって。」

慌ててカイトがテオに謝ると、テオは目を丸めた。

「本当に……シリル様のお知り合いでいらっしゃるんですね。驚きました。主君にこの様なご友人がいらっしゃるとは、伺っておりませんでしたから。それに……俺の事まで。シリル様からお聞きになっていらっしゃったのでしょうか?」

首を傾げるテオに、今度はカイトが「…え?」と眉を顰めた。
そして。

「どういう事、カイト?……私、さっき確かに名前で呼ばれたわ、彼に。」

それまで呆気に取られて状況を見守っていた巫女、カレンが驚きを隠せない様子で、カイトにそう言った。

「……え?え?……どう、なってるの???何が、どーなってるんだー?!」

言われたカイトは、僕とテオとカレンをそれぞれに見て、頭を抱えた。


取り敢えず、僕は二人を自室へ案内した。
テオは、僕の部屋の隅で控えている。

「……じゃあこの世界は、今、時系列的に、卒業の1年前って事?」
「正確には、11ヶ月を切った所だな。」

僕は二人とは対面で座り、話を始めた。
まずは今がいつかと問われたから、そう答えたが。

「……前は、半年前からだったのに、今回はほぼ1年前に逆戻りしてる……」
「カイト、それもだけど!そんな事よりまず聞いていい?」

以前とのスタートの違いを考え込むカイトに、隣のカレンが横槍を入れた。

「シリル…さん、貴方。」
「シリルでいい。」

僕に真正面に向き直ったカレンに名を呼ばれ。
敬称で言われるのは、凄く違和感があったので、呼び捨てで構わないと伝えると。
カレンは一瞬キョトンとしたが、直ぐ切り替えた。

「んんっ。では、遠慮なく。————シリル。貴方、前の記憶があるよね?」
「………あぁ。」

カレンにずばり問われて、僕は一瞬逡巡したが。
さっき外で、名乗られる前に二人の名前を口にしてしまった。
だからもう、観念して正直に答えた。

「あ?!そうだ!そう言えば!!」

カイトは今頃になって気付いた様で、心底ビックリしていたが。
そして、部屋の隅で控えていた筈のテオも、話を耳にしていたから、驚いて僕の背後迄寄って来た。

「え?シリル様、どういう事です?俺にも教えて下さい!」

うわぁ……。
どうしよう。
何を何処まで話せばいいんだろうか…。

話が長くなりそうなので、取り敢えず、僕はテオに横に座る様促した。
テオは固辞したが、それでも座る様に促すと、おずおずと横に座し、僕らの輪の中に入って来たのだった。

「僕は……二人を知っている。前世で王立学院の同級生で、同じクラスだったよな。」
「うん……俺はともかく、カレンとも?」

尋ねてくるカイトに、僕は頷いた。

「カレンともクラスメイトだった。……君とはあまり、関わった事は無かったが。」

今度はカレンの方を向いて言う。
カレンは怪訝な顔をした。
そりゃあ、そうだろう。
“シリル”としては、初めてだからな。

「僕は……二度死んで、今、三度目を生きている。」
「二度死んだ……?!それってどういう……」

話の聞き役に徹しようとした筈のテオは、僕から死を聞かされて、流石に黙ってられなくなって、驚愕していた。

「……だから、座れと言ったんだ。話が長くなるから。」

不安そうに僕の顔を見つめて来るテオに、フッと笑顔を見せ、彼の太ももをポンポンと軽く叩いて大丈夫だと宥めた。

「最初から、話そう。荒唐無稽な話だと思うだろうが、聞いてくれ。」

今迄ずっと秘めていたのに。
今になって話す事に、不安が無いかと言えば嘘になる。
けれども、今なら口に出来る気がした。

明かしてしまう事は、正直怖い。
でも、異世界から来てくれた二人が居るんだ。
死に戻りだって、起こってもおかしくはないだろう。
そう、自分を勇気付け、僕はおもむろに口を開いた。
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