全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

41話 篭絡 ※

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彼のアメジスト色の揺れる瞳に魅入られ見つめていると、彼は僕の頭をフワッと自身の肩口に包み込む様にして抱きしめた。

「……お願いします。どうか、私達と共に来て下さい。我々の手を取って下されば、貴方をきっとお救い出来る筈です。死に急いだりしないで。私は貴方に生きて欲しい。」

………。
何で。
何を言っている、この男は。
優男だから、乱暴な手段に出られないとか?
心から、篭絡するつもりなのか。

……そんな事っ!

「……そんなの死んでも願い下げだ。正式な手続きも踏めないなんて、死ぬより恐ろしい目に遭いそうだからなっ」

きっと今迄で一番虚勢を張って、僕は苦々しい顔で吐き捨てた。

ちょっと優しく触れられたからって。
愛おしむ様に懇願されたからって。
こんな程度の演技に流されてはいけない。

ギリッと奥歯を噛み締めた時、アルベリーニ卿は深く傷付いた様な……悲しそうな表情を見せた。
しかし、僕に下手に出るのは意味が無いと理解したのだろう。

彼もグッと唇を噛み締めると、先程の優しく触れる様な手つきとは打って変わって。
流石、あのロレンツォ殿下の部下なだけあると感心させられる様な、実に乱暴な手つきで。
僕の礼服の上着もシャツも、ぞんざいに剥いでいった。

「…っ」

彼は、片手で軽々と僕の服ごと手枷をかけられている両手と共に一纏めにして床に押し付けると、もう片方の手で僕の頬から首、鎖骨を滑って胸へと触れて来る。
肌へ触れる手つきは優しいが、抑えつけられている両腕が若干痛い。
抵抗するつもりは無いが、拘束されている痛みに思わず身じろぎをしてしまうと。

「い“っ!!」

急に首の付け根辺りに鋭い痛みを感じた。その上には卿の白い歯が鋭く光って見えた。

噛まれたのか。
痛い。
ジンジンと増す痛みに、生理的な涙が溢れる。

すると、僕の首元に歯を立てていたアルベリーニ卿は、体を起こして僕の顔の上に被さった。
さっき噛まれたショックから、思わず身構えると。
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