全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第2章

49話 止めどなく…

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「うわぁぁぁぁ————っ!!」

麗かな朝の陽ざしが差し込む部屋の中で、屋敷全体に響き渡る絶叫が木霊した。

「な、なな、何?!どうされました?!」
「どうされたんですかっ!」

その叫び声を耳にして、次の瞬間には、二人が飛び込んで来た。
一人は侍女の格好をした、見目麗しい女性。
もう一人は、従者の身なりをした、大きすぎないながらもしっかりした体つきをした男性だ。

「はぁっ……はぁっ…」

まるで全力疾走でもして来たかの様に息を切らして、声の主は肩を大きく上下させている。

「大丈夫ですか?!シリル様!!」
「しっかりして下さいっ!」

二人はその大声を発した主に、気を確かに持つよう声を掛けた。
言われた声の主……僕、シリルは。
喉を押さえ、頬に涙を伝わせて。
呆然と二人を見ていた。

「また……戻ったのか……」

僕は両手で顔を押さえ、嗚咽を漏らした。

未だかつて見た事も無い主人の取り乱し様に、侍女のレイラと従者のテオは。
互いに顔を見合わせたが。
二人でぎゅっと、主人を抱きしめていた。

実際には、背を撫でて宥める様なかんじだったが。

「落ち着きましたか?シリル様。」

少しして、ようやく顔を上げてくれた主人に、侍女と従者はホッと安堵の表情を示した。
すると、扉がバーンと大きく開かれ、小さい体が二人、飛び込んで来た。

「シリル兄さま!!」
「兄さま!」

未だベッドに座って出て来ない僕の上に、リチャードとシャーロットが二人して駆けつけて来たのだ。

「一体何があったんですか?!」
「兄さま、どうしたの?!」

心配した子供二人は僕の膝の上に身を乗り出し、驚きのあまりしがみ付いて来た。

「リック……ロティー……。僕、また…戻って来ちゃった……」

いつもの澄ました表情でもなく、子供二人には見せるデレデレの笑顔でもなく。
迷子の様な心許ない様子で、僕は二人を抱きしめて、また涙が溢れた。

「兄さま……」
「怖い夢でも…みたんですか?」

二人も今迄見た事の無い“兄さま”の様子に、不安を隠しきれない様だった。
リチャードは夢見の悪さを心配してくれたのだが、僕は否定も肯定も出来なかった。
夢のようで、現実の様で。

ただ二人の温もりを実感したくて、僕は二人をギュッと抱きしめる。
止まらない涙を拭う事もせず、まだ嗚咽を漏らしていると。

「シリル、どうした?!」
「大丈夫ですか、シリルさん!」

遂には叔父と叔母も。
それから、その後ろには家令のロバートも。
僕の部屋へ覗きに来てくれて。

皆の姿を見て、また僕は涙が溢れて止まらなかった。

戻って来た。
戻って来てしまった。
また、振り出しからのスタートだ……。
またしても、死ぬ為の道を歩まなければならないのか……。

訳も話せず泣き崩れる僕に、叔父達も背中をさすって慰めてくれた。
泣きたいならば泣けばいい。
堪えてしまっては、いつか吐き出す事も出来なくなってしまうから。
今は思う存分泣きなさい。
そう、言ってくれたのだった……。
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