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第1章
47話 渇望
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「何だよ、何がしたいんだよっ!!」
僕は混乱した頭でただ、喚く事しか出来ずに叫ぶと。
「……うぅ、う…」
「?!」
背中からサフィルのすすり泣く嗚咽が聞こえて、ギョッとした。
「……何で、貴方が泣くの…」
僕は暴れるのを止め、全身の力が吸い取られる心地で、彼のすすり泣く声を聞いた。
「……お願いです。お願いですから……死なないで下さい…シリル様。私の事、どうぞ一生お恨みになって下さい。復讐でも、殺しに来られても、貴方様がお望みなら……どんな事でも私は喜んで受け入れますから……。だから、どうか……生きて下さいっ」
絞り出すような声で、そう訴えられて。
未だかつて、こんなにも強く望まれた事があっただろうか?
自身の命を差し出してでも、己に生きろと。
こんなにも熱烈に言われた事なんて、これまで一度も無かった。
「…っ」
僕は、喉の奥から何かが熱く込み上げて来るのを感じた。
失っていた熱を外からだけでなく、内側からも、思い出したように。
「……ふっ…うっ…うあぁぁぁっ……あぁぁぁっ————!!」
気が付いた時には声を上げて泣いていた。
幼い子供の様に。
緊張の糸が途切れて、安心してしまった幼子の様に。
「ひっ……ひぐっ…うあぁぁっ……」
僕は、もっと彼の温もりを求めて振り返り、彼の胸に体を小さく埋めて泣き付いた。
両親を亡くしてから、叔父や叔母にもこんな風に泣き付いた事は無かったのに。
ただひたすら甘える様に、彼の胸で心の限り泣きじゃくった。
そんな僕を、彼はひたすら甘やかすように撫でてくれる。
さっきまでの欲を持った愛撫ともまた違った、ただただ愛おしむ様な優しさで。
「僕だって!本当はそうしたい!……貴方の手を掴めれば、どんなに良かったか。でも、無理なんだよ、こうなってしまったらっ!……カイトは僕の意思で殺した訳じゃなくても、僕の所為で今、生死の境を彷徨ってるっ……。アイツはもう、この国では神の様な唯一無二の存在なんだ。それを、僕が引き金を引く形で、死の淵に追いやってしまった。だったら、その原因を作った僕が幕引きするしか無いんだよっ」
例え此処で生き延びても、もう陽の光を浴びる事は出来ない。
王太子に託したのだ。
自身の命と引き換えに、家は、家族の事は出来る限り守って欲しいと。
どこまでその願いが果たされるかは、実際には分からない。
けれども、それをふいにして今此処で逃げ出せば……家族は確実に窮地に立たされる。
両親を亡くしてから、ずっと公爵家の全てを担ってくれた叔父と叔母も。
僕を本当の兄の様に慕ってくれた可愛いあのいとこ達の……輝かしい未来も全て。
僕の所為で全て台無しにしてしまう事になるなんて……それこそ、耐えられない。
そんな事態になる前に、真犯人を見つけられれば、それまでだが。
何の手がかりも手段もない以上、それは絶望的だろう。
生憎、よもやこの様な事態になるとは思いもせず、自分は自身の死の原因から遠ざかる事ばかりに腐心し、その原因を探る為の努力は全くしなかった。
逃げるだけではいけなかったのに。
一歩踏み出す事が、出来なかった。
だから、貴方の僕への願いも、受け入れる事が……どうしても出来ない。
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ……!僕の所為だっ!僕がいけなかったんだ……。カイトだって、友として…ずっと手を差し伸べてくれたのに、信じきってやれなかった。貴方にだって。僕は……応える事が出来ないっ。……許して。どうか許してっ」
懇願する僕に、サフィルはもう、それ以上……僕に何も言わなかった。
ただ、僕に答える代わりに、僕の汚れてしまった額にどこまでも優しいキスを落としてくれた……。
僕は混乱した頭でただ、喚く事しか出来ずに叫ぶと。
「……うぅ、う…」
「?!」
背中からサフィルのすすり泣く嗚咽が聞こえて、ギョッとした。
「……何で、貴方が泣くの…」
僕は暴れるのを止め、全身の力が吸い取られる心地で、彼のすすり泣く声を聞いた。
「……お願いです。お願いですから……死なないで下さい…シリル様。私の事、どうぞ一生お恨みになって下さい。復讐でも、殺しに来られても、貴方様がお望みなら……どんな事でも私は喜んで受け入れますから……。だから、どうか……生きて下さいっ」
絞り出すような声で、そう訴えられて。
未だかつて、こんなにも強く望まれた事があっただろうか?
自身の命を差し出してでも、己に生きろと。
こんなにも熱烈に言われた事なんて、これまで一度も無かった。
「…っ」
僕は、喉の奥から何かが熱く込み上げて来るのを感じた。
失っていた熱を外からだけでなく、内側からも、思い出したように。
「……ふっ…うっ…うあぁぁぁっ……あぁぁぁっ————!!」
気が付いた時には声を上げて泣いていた。
幼い子供の様に。
緊張の糸が途切れて、安心してしまった幼子の様に。
「ひっ……ひぐっ…うあぁぁっ……」
僕は、もっと彼の温もりを求めて振り返り、彼の胸に体を小さく埋めて泣き付いた。
両親を亡くしてから、叔父や叔母にもこんな風に泣き付いた事は無かったのに。
ただひたすら甘える様に、彼の胸で心の限り泣きじゃくった。
そんな僕を、彼はひたすら甘やかすように撫でてくれる。
さっきまでの欲を持った愛撫ともまた違った、ただただ愛おしむ様な優しさで。
「僕だって!本当はそうしたい!……貴方の手を掴めれば、どんなに良かったか。でも、無理なんだよ、こうなってしまったらっ!……カイトは僕の意思で殺した訳じゃなくても、僕の所為で今、生死の境を彷徨ってるっ……。アイツはもう、この国では神の様な唯一無二の存在なんだ。それを、僕が引き金を引く形で、死の淵に追いやってしまった。だったら、その原因を作った僕が幕引きするしか無いんだよっ」
例え此処で生き延びても、もう陽の光を浴びる事は出来ない。
王太子に託したのだ。
自身の命と引き換えに、家は、家族の事は出来る限り守って欲しいと。
どこまでその願いが果たされるかは、実際には分からない。
けれども、それをふいにして今此処で逃げ出せば……家族は確実に窮地に立たされる。
両親を亡くしてから、ずっと公爵家の全てを担ってくれた叔父と叔母も。
僕を本当の兄の様に慕ってくれた可愛いあのいとこ達の……輝かしい未来も全て。
僕の所為で全て台無しにしてしまう事になるなんて……それこそ、耐えられない。
そんな事態になる前に、真犯人を見つけられれば、それまでだが。
何の手がかりも手段もない以上、それは絶望的だろう。
生憎、よもやこの様な事態になるとは思いもせず、自分は自身の死の原因から遠ざかる事ばかりに腐心し、その原因を探る為の努力は全くしなかった。
逃げるだけではいけなかったのに。
一歩踏み出す事が、出来なかった。
だから、貴方の僕への願いも、受け入れる事が……どうしても出来ない。
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ……!僕の所為だっ!僕がいけなかったんだ……。カイトだって、友として…ずっと手を差し伸べてくれたのに、信じきってやれなかった。貴方にだって。僕は……応える事が出来ないっ。……許して。どうか許してっ」
懇願する僕に、サフィルはもう、それ以上……僕に何も言わなかった。
ただ、僕に答える代わりに、僕の汚れてしまった額にどこまでも優しいキスを落としてくれた……。
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