全てを諦めた公爵令息の開き直り

第１章

４６話 抱擁

（？！…何でっ……）

もう、僕になんて失望したんじゃないのか。
だから、あんな、モノを扱う様な乱暴な動きで、僕の中を一方的に抉っていたんじゃないのか。
それなのに、彼は最後まで致してすらいない。
なのに、またこの優しい……キス。

僕はカタカタと体を震わせた。
一度震え出すと、全然収まらなくて。
背中の彼に、知られたくないのに。

サフィルが気付かない筈も無く、先程までの乱暴な動きは嘘の様に、後ろから僕をギュッと抱きしめてきた。

（えっ……）

……何で。
何でそんなに優しいの。
どうして、こんなに温かいの。
冷たくなってしまった僕の全身は、サフィルに優しく包まれて、思い出した様にじんわりと温もりを取り戻していく。

————嫌だ、こんなの。

震えが収まってきた僕は、またギリッと強く奥歯を噛み締めて、顔だけ後ろを振り返った。

「……離せっ！離してくれっ！！」

急に強い口調で、噛みつく様に吠える僕に、サフィルはまた泣きそうな表情を見せる。

「何だよ、その顔！もう終わったんだろ？！いい加減離してくれっ！！」

そう叫ぶのに、サフィルはまた何も言わずに僕のうなじに顔を埋めて、僕の身を強く抱きしめた。

……やめてくれ。
貴方の熱を、もう僕に移さないでくれ。

「離せっ！離せったら！！」

まるで駄々をこねる子供の様に、僕は手枷をされたまま一生懸命暴れるが。
背中のサフィルはビクともしない。
僕が暴れれば暴れる程、より一層強く抱きしめてくる。