39 / 336
第1章
39話 残酷な命令 ※
しおりを挟む
「こんなに手強いとは恐れ入ったなぁ…。剣術もろくに出来ないひ弱な坊ちゃんだ。少し脅せば直ぐに靡くと思ったのに。案外強情なんだなぁ~」
(少しって……これで?)
「蹴り飛ばしても効果が無いなら、やり方を変えるまでだ。おい、サフィル。」
どうやら暴力に訴えて脅す事は諦めたらしい。
もっとボコボコに殴る蹴るを繰り出してきそうだと思っただけに、予想外に早めに撤退してくれた。
そうだな。
殴り過ぎたら、そもそも後で自身の無実の罪を訴えるなんて事、出来なくなるしな。
そう、僕が安堵していると。
ロレンツォ殿下に呼ばれたアルベリーニ卿が、不意に殿下に胸倉を掴まれていた。
「おい、お前、ソイツを完全に屈服させろ。俺の提案を呑むまで犯し尽くしてやれ。」
「?!」
「え“っ……」
そっち……。
僕はもう唖然とするしかなかった。
死を覚悟した人間相手に、凌辱なんかしてどうする?
それも、公衆の面前で大いに辱めるとかならまだしも。
こうしてこの場に来ている事でさえ、彼らにとっては大きなリスクなのだ。
悠長に犯している場合か?
本当に大丈夫なのかコイツらは??
僕は、今から自分の身に起こる事よりも、彼らの方が心配になって来た。
主に、殿下のおつむが。
早くしろ!とロレンツォ殿下に顎でしゃくって促されるアルベリーニ卿は、明らかに動揺している。
やりたくないのが見え見えだ。
そりゃそうだろう。
美人な女の子ならともかく、さっきから蹴られて放り投げられまくって、あちこち泥だらけで汚い男に手を出すなんて。
僕だって願い下げだ。
あぁ。
せめてシルヴィアだったなら。
ここまでになる前に、この目の前の傲慢で嗜虐趣味の変態野郎も、もう少しマシな扱いをしてくれただろうか?
いや、彼女の時だったなら、穢される前に自害するな。
絶対に。
でも、悲しきかな。
今の僕は手枷を嵌められ、自ら死ぬ事もままならない。
舌を噛み切ればいいのだろうが、口内を切ってから、上手く力も入らない。
ただ、なすがまま。
されるがままだ。
なかなか決心がつかず、躊躇い続けているアルベリーニ卿は、仰向けになっている僕を恐る恐る見つめたまま、動けないでいた。
殿下が後ろでさっさとしろ!と急かしている。
これではまるで、どちらが凌辱を受ける側か分かったものではない。
このまま逡巡し続ければ、きっとロレンツォ殿下は。
アルベリーニ卿を蹴り飛ばして、自身で直接手を下そうとするだろう。
……それは嫌だな。
アイツ、絶対アッチも乱暴なだけな気がする。
それならまだ、この卿の方が絶対マシだ。
僕は大きく溜息をついて、腹を決めると。
上体を起こしてアルベリーニ卿を真正面から見やった。
「貴方も僕なんかでお嫌でしょうが、いい加減諦めた方が身の為ですよ。僕は明日死ぬ身なので、どうでもいいですが、貴方はこれからもあの王子様と付き合わないといけないんでしょう?それなら、もう少し上手な処世術を身に着ける事をお勧めしますね。」
「ハハハッ!言われているぞ、サフィル!」
「……僭越ながら。殿下はもう少し、部下の扱いを見直された方が良いと進言致します。窮鼠猫を噛むとも申しますし、何時如何なる所で、その足元を掬われるか分かりませんよ。」
アルベリーニ卿から自身に苦言の矛先が向いた事で、ロレンツォ殿下が苛立ちを見せるが、すかさず僕は続ける。
「だって、そうでしょう?僕がまさにそうなんですから……。」
呟く様にそう言って、僕は目を伏せる。
殊勝になった僕を殿下は心底愉快そうに見つめてきた。
本当にわっかりやすい御仁だ事。
数十分話しただけで、どうすれば彼が気に入るか否か、僕でも分かって来たのに。
アルベリーニ卿はきっとずっと長い間、彼を相手にして来たのだろう。
いい加減、彼を操縦する術を磨けばいいのに。
僕は再度溜息をつくと、今度こそ本当に覚悟を決めた。
もうこれ以上の引き延ばしは無理そうだし。
僕だって、これ以上この攻防が長引けば、折角決心した覚悟が揺らいでしまう。
けれど。
これまた悲しいかな。
僕はこれまでそういった経験が一度も無いのだ。
シルヴィアの時だって手を繋ぐまでだったし。
シリルとなった今では、昨日、王太子の唇をやけくそで奪ってやろうとして、失敗したばかりだし。
いっそ潔く自分で脱いでやりたいくらいだったが、手枷をされており、それも出来ない。
……どうすればいい?
やっぱり完全に身を委ねるしかない。
僕は思い切って、アルベリーニ卿の肩口に顔を埋めた。
さっさとしてくれ。
避けられないで良かった。と少しホッとしたが、それよりも彼に先を促したかった。
(少しって……これで?)
「蹴り飛ばしても効果が無いなら、やり方を変えるまでだ。おい、サフィル。」
どうやら暴力に訴えて脅す事は諦めたらしい。
もっとボコボコに殴る蹴るを繰り出してきそうだと思っただけに、予想外に早めに撤退してくれた。
そうだな。
殴り過ぎたら、そもそも後で自身の無実の罪を訴えるなんて事、出来なくなるしな。
そう、僕が安堵していると。
ロレンツォ殿下に呼ばれたアルベリーニ卿が、不意に殿下に胸倉を掴まれていた。
「おい、お前、ソイツを完全に屈服させろ。俺の提案を呑むまで犯し尽くしてやれ。」
「?!」
「え“っ……」
そっち……。
僕はもう唖然とするしかなかった。
死を覚悟した人間相手に、凌辱なんかしてどうする?
それも、公衆の面前で大いに辱めるとかならまだしも。
こうしてこの場に来ている事でさえ、彼らにとっては大きなリスクなのだ。
悠長に犯している場合か?
本当に大丈夫なのかコイツらは??
僕は、今から自分の身に起こる事よりも、彼らの方が心配になって来た。
主に、殿下のおつむが。
早くしろ!とロレンツォ殿下に顎でしゃくって促されるアルベリーニ卿は、明らかに動揺している。
やりたくないのが見え見えだ。
そりゃそうだろう。
美人な女の子ならともかく、さっきから蹴られて放り投げられまくって、あちこち泥だらけで汚い男に手を出すなんて。
僕だって願い下げだ。
あぁ。
せめてシルヴィアだったなら。
ここまでになる前に、この目の前の傲慢で嗜虐趣味の変態野郎も、もう少しマシな扱いをしてくれただろうか?
いや、彼女の時だったなら、穢される前に自害するな。
絶対に。
でも、悲しきかな。
今の僕は手枷を嵌められ、自ら死ぬ事もままならない。
舌を噛み切ればいいのだろうが、口内を切ってから、上手く力も入らない。
ただ、なすがまま。
されるがままだ。
なかなか決心がつかず、躊躇い続けているアルベリーニ卿は、仰向けになっている僕を恐る恐る見つめたまま、動けないでいた。
殿下が後ろでさっさとしろ!と急かしている。
これではまるで、どちらが凌辱を受ける側か分かったものではない。
このまま逡巡し続ければ、きっとロレンツォ殿下は。
アルベリーニ卿を蹴り飛ばして、自身で直接手を下そうとするだろう。
……それは嫌だな。
アイツ、絶対アッチも乱暴なだけな気がする。
それならまだ、この卿の方が絶対マシだ。
僕は大きく溜息をついて、腹を決めると。
上体を起こしてアルベリーニ卿を真正面から見やった。
「貴方も僕なんかでお嫌でしょうが、いい加減諦めた方が身の為ですよ。僕は明日死ぬ身なので、どうでもいいですが、貴方はこれからもあの王子様と付き合わないといけないんでしょう?それなら、もう少し上手な処世術を身に着ける事をお勧めしますね。」
「ハハハッ!言われているぞ、サフィル!」
「……僭越ながら。殿下はもう少し、部下の扱いを見直された方が良いと進言致します。窮鼠猫を噛むとも申しますし、何時如何なる所で、その足元を掬われるか分かりませんよ。」
アルベリーニ卿から自身に苦言の矛先が向いた事で、ロレンツォ殿下が苛立ちを見せるが、すかさず僕は続ける。
「だって、そうでしょう?僕がまさにそうなんですから……。」
呟く様にそう言って、僕は目を伏せる。
殊勝になった僕を殿下は心底愉快そうに見つめてきた。
本当にわっかりやすい御仁だ事。
数十分話しただけで、どうすれば彼が気に入るか否か、僕でも分かって来たのに。
アルベリーニ卿はきっとずっと長い間、彼を相手にして来たのだろう。
いい加減、彼を操縦する術を磨けばいいのに。
僕は再度溜息をつくと、今度こそ本当に覚悟を決めた。
もうこれ以上の引き延ばしは無理そうだし。
僕だって、これ以上この攻防が長引けば、折角決心した覚悟が揺らいでしまう。
けれど。
これまた悲しいかな。
僕はこれまでそういった経験が一度も無いのだ。
シルヴィアの時だって手を繋ぐまでだったし。
シリルとなった今では、昨日、王太子の唇をやけくそで奪ってやろうとして、失敗したばかりだし。
いっそ潔く自分で脱いでやりたいくらいだったが、手枷をされており、それも出来ない。
……どうすればいい?
やっぱり完全に身を委ねるしかない。
僕は思い切って、アルベリーニ卿の肩口に顔を埋めた。
さっさとしてくれ。
避けられないで良かった。と少しホッとしたが、それよりも彼に先を促したかった。
117
お気に入りに追加
1,598
あなたにおすすめの小説
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる