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第1章
38話 愉悦
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「ハハッ!いいねぇ~その目!もっと俺に見せてくれよ!!」
あ、この御方はまだ悦に入ってる。
ロレンツォ殿下はまたご機嫌になっていらっしゃった。
……どうしよう、この人かなり危険だ。
かなりの嗜虐趣味だぞ。
そんなの今の僕なんて、格好の餌食じゃないか。
痛いのは嫌なんだが!
罵りたければ好きなだけ罵ればいいが、暴力は嫌だ!
前に、気絶したアルベリーニ子爵令息の姿を目の当たりにしたからこそ、余計にそう思う。
いや、いっそ彼の様に気絶してしまえば、痛みを感じる事も無いかな…。
……なんて取り留めもなく考えていると、殿下がその赤い目をギラギラさせて、こちらを向いた。
いやいや、警備兵達はどこ行った?!
殿下に買収でもされたのか?
いくら明日死ぬ奴だからって、こんなザルな警備、脱走でもしたらどうするつもりだよ!
嫌な予感がして、僕は此処を守ってくれない兵士達へ心の中で不満を訴えた。
でも、戻ってくる気配は一向にない。
思わず身を固くする僕に、ロレンツォ殿下が邪悪な顔をしてニヤリと口角を上げた。
「なぁ、公爵令息殿。」
皮肉交じりにそう呼ばれると、また顎を強く掴まれる。
それ止めてくれないかな、本当に。
「アンタ、本当は巫子を殺(や)っちゃいないんだろ?」
「え?」
「実はあの時、アンタの事ずっと見てたから知ってんだよ。巫子にグラスを渡したんじゃなくて、取られてただろ。本当だったら、アンタがあの毒を煽ってた。」
「……。」
ずっと見ていた……だと?
恐ろしい事この上無いんだが。
何で、特に接点も無いロレンツォ殿下が僕の事を見ていたんだ。
目を付けられる要素なんて、僕には何もない筈だぞ?!
ただただ混乱している僕に、殿下は甘い誘惑の様に悪魔の提案を仕掛けて来る。
「どうする?このままだと、アンタはあと数時間後には首と胴体が切り離される。だから、そうならん様に自分の無実を訴えてみろ。そうしたら俺も加勢してやろう。で、処刑を無事免れれば、巫子を連れて来い。何、悪い様にはしない。あの者の力がちょっと必要なだけだ。」
あぁ、そういう……。
カイトの救済が必要なんだな。
それなら、こんな危うい手段を使わなくたって、もっと早くに、彼に直接頼めば良かったのに。
それとも、このエウリルスに留まり続ける様に望まれていたカイトを母国に連れ出すには、強硬手段に出るしか無かったのかな。
……事情を話せば陛下だって、お認めになるだろうに。
どうして、そうしないのだろう?
このどうしようもなく性格のひん曲がった王子様を前に、僕もまた同じくらいひねくれた答えを返した。
「どうもしません。殺(や)ったのは僕ですから。貴方にはそう見えたかもしれませんが、救世の巫子を殺そうとしたのは明らかに僕です。……鬱陶しかったんですよ。度々寄って来られるのがね。」
僕は顎をしゃくって殿下の手から逃れると、吐き捨てる様に言ってやる。
その返答に、殿下は顔を曇らせ、アルベリーニ卿は……信じられない、といった顔をしていた。
「チッ」
「がっ!!」
ロレンツォ殿下は舌打ちすると、苛立ち紛れに僕の腹を蹴った。
僕は、軽く吹っ飛ばされ、壁に強かに背中を打つと、そのまま床に倒れて蹲った。
「うぐっ…」
い、痛い。
煽り過ぎたか…。
完全にお怒りだ。
だが、彼の提案に乗る事も否だ。
悪魔でも蘇らせる気か。
きっと、碌でもない事にカイトが使われてしまう。
そんな事、カイトにとっても悲劇だし、エウリルスにとってもそうだろう。
そんな事の為に生き延びて、何になる。
ロレンツォ殿下にとって、僕を引き入れればカイトが付いてくると踏んだのかもしれないが。
その僕がそもそも、やる気が無いのだ。
目論見が外れた事で、彼の計算が狂ったらしい。
見るからに苛立っているが、隣のアルベリーニ卿は酷く顔を歪ませている。
……一体、どういう事だ?
「っ」
蹲る僕の胸倉を掴んで、仰向けになる様にロレンツォ殿下は僕を放り投げた。
もう本当に嫌だ、この暴力王子!
いっそ頭を強く打ち付けてくれないかな。
そうすればさっさと意識を手放せられるだろうに。
そんな事はしてくれない。
ただ、おもちゃを乱暴に扱っているだけなのだ。
さっきから乱暴に扱われ続けている僕は、もうさっさと死ぬか気絶をしたいとしか考えられなかったが。
仰向けに呻いていた僕の顔を覗き込むと、ニヤリとまた嫌な笑みを浮かべた。
身の毛もよだつその雰囲気に、呑まれそうな僕の顔を見て。
殿下は少し溜飲を下げた様に見えた。
それで満足してくれれば良かったのだが。
告げられたのは、信じられない内容だった……。
あ、この御方はまだ悦に入ってる。
ロレンツォ殿下はまたご機嫌になっていらっしゃった。
……どうしよう、この人かなり危険だ。
かなりの嗜虐趣味だぞ。
そんなの今の僕なんて、格好の餌食じゃないか。
痛いのは嫌なんだが!
罵りたければ好きなだけ罵ればいいが、暴力は嫌だ!
前に、気絶したアルベリーニ子爵令息の姿を目の当たりにしたからこそ、余計にそう思う。
いや、いっそ彼の様に気絶してしまえば、痛みを感じる事も無いかな…。
……なんて取り留めもなく考えていると、殿下がその赤い目をギラギラさせて、こちらを向いた。
いやいや、警備兵達はどこ行った?!
殿下に買収でもされたのか?
いくら明日死ぬ奴だからって、こんなザルな警備、脱走でもしたらどうするつもりだよ!
嫌な予感がして、僕は此処を守ってくれない兵士達へ心の中で不満を訴えた。
でも、戻ってくる気配は一向にない。
思わず身を固くする僕に、ロレンツォ殿下が邪悪な顔をしてニヤリと口角を上げた。
「なぁ、公爵令息殿。」
皮肉交じりにそう呼ばれると、また顎を強く掴まれる。
それ止めてくれないかな、本当に。
「アンタ、本当は巫子を殺(や)っちゃいないんだろ?」
「え?」
「実はあの時、アンタの事ずっと見てたから知ってんだよ。巫子にグラスを渡したんじゃなくて、取られてただろ。本当だったら、アンタがあの毒を煽ってた。」
「……。」
ずっと見ていた……だと?
恐ろしい事この上無いんだが。
何で、特に接点も無いロレンツォ殿下が僕の事を見ていたんだ。
目を付けられる要素なんて、僕には何もない筈だぞ?!
ただただ混乱している僕に、殿下は甘い誘惑の様に悪魔の提案を仕掛けて来る。
「どうする?このままだと、アンタはあと数時間後には首と胴体が切り離される。だから、そうならん様に自分の無実を訴えてみろ。そうしたら俺も加勢してやろう。で、処刑を無事免れれば、巫子を連れて来い。何、悪い様にはしない。あの者の力がちょっと必要なだけだ。」
あぁ、そういう……。
カイトの救済が必要なんだな。
それなら、こんな危うい手段を使わなくたって、もっと早くに、彼に直接頼めば良かったのに。
それとも、このエウリルスに留まり続ける様に望まれていたカイトを母国に連れ出すには、強硬手段に出るしか無かったのかな。
……事情を話せば陛下だって、お認めになるだろうに。
どうして、そうしないのだろう?
このどうしようもなく性格のひん曲がった王子様を前に、僕もまた同じくらいひねくれた答えを返した。
「どうもしません。殺(や)ったのは僕ですから。貴方にはそう見えたかもしれませんが、救世の巫子を殺そうとしたのは明らかに僕です。……鬱陶しかったんですよ。度々寄って来られるのがね。」
僕は顎をしゃくって殿下の手から逃れると、吐き捨てる様に言ってやる。
その返答に、殿下は顔を曇らせ、アルベリーニ卿は……信じられない、といった顔をしていた。
「チッ」
「がっ!!」
ロレンツォ殿下は舌打ちすると、苛立ち紛れに僕の腹を蹴った。
僕は、軽く吹っ飛ばされ、壁に強かに背中を打つと、そのまま床に倒れて蹲った。
「うぐっ…」
い、痛い。
煽り過ぎたか…。
完全にお怒りだ。
だが、彼の提案に乗る事も否だ。
悪魔でも蘇らせる気か。
きっと、碌でもない事にカイトが使われてしまう。
そんな事、カイトにとっても悲劇だし、エウリルスにとってもそうだろう。
そんな事の為に生き延びて、何になる。
ロレンツォ殿下にとって、僕を引き入れればカイトが付いてくると踏んだのかもしれないが。
その僕がそもそも、やる気が無いのだ。
目論見が外れた事で、彼の計算が狂ったらしい。
見るからに苛立っているが、隣のアルベリーニ卿は酷く顔を歪ませている。
……一体、どういう事だ?
「っ」
蹲る僕の胸倉を掴んで、仰向けになる様にロレンツォ殿下は僕を放り投げた。
もう本当に嫌だ、この暴力王子!
いっそ頭を強く打ち付けてくれないかな。
そうすればさっさと意識を手放せられるだろうに。
そんな事はしてくれない。
ただ、おもちゃを乱暴に扱っているだけなのだ。
さっきから乱暴に扱われ続けている僕は、もうさっさと死ぬか気絶をしたいとしか考えられなかったが。
仰向けに呻いていた僕の顔を覗き込むと、ニヤリとまた嫌な笑みを浮かべた。
身の毛もよだつその雰囲気に、呑まれそうな僕の顔を見て。
殿下は少し溜飲を下げた様に見えた。
それで満足してくれれば良かったのだが。
告げられたのは、信じられない内容だった……。
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