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第1章
34話 地下牢
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地下牢に入れられて、どのくらい経っただろうか?
牢の前では数人の兵士が微動だにせず、警備の為に直立している。
だが、その目は一様に僕を憎々し気に睨み付けていて。
僕はその視線を受け止めきれずに、彼らに背を向けて横たわっていた。
両手には頑丈な手枷が嵌められている。
そんなモノも気にならないぐらい、僕は全身から気力が抜け落ちていた。
(シルヴィアの時でも、ここまではならなかった。……当たり前か。カレンにキツく当たっただけだったしな。)
それでも、婚約を破棄され、修道院行きを命じられたのだ。
その後、馬車の転落事故に遭い、死亡したのは想定外だっただろうが。
だが、今回は。
前回の反省を踏まえて、カイトには悪感情を抱かれない様に心を砕いたのだ。
王太子にだって、可能であれば拳の一発でもお見舞いしてやりたいぐらいだったが、そんな事をすればどんな目に遭うかも知れないので、ただただ関わらない様にした。
……昨日のアレは、もう、仕方ない。
事故の様なモノだ。
いや、そんな事よりも。
本当についさっきまで、馬鹿を言って笑っていたのに。
天真爛漫で笑ったり泣いたり怒ったり。
実に表情豊かな、あのカイトが。
あんな血の気の引いた顔で、血を吐いて倒れるなんて。
辛うじて息はしていたが、それでも虫の息だった……。
誰がどう見ても非常に危ない状態だ。
(カイト————ッ!!)
どうか、無事でいてくれ。
お前は生きて元の世界へ帰るんだろう?
こんな所で死んでは駄目だ、絶対に。
汚い床に横たわりながら、僕はただひたすら、彼の回復を祈るしかなかった。
暗い牢の中で、時間の感覚が鈍くなり過ぎて、気が遠くなりかけた時。
不意にガシャンという物音と共に、俄かに周囲のざわめきを耳にした。
僕は力なく振り返ると、そこに居たのは……。
「王太子…殿下……」
虚ろな目で、それでもその姿を確認すると、僕はなんとかそう呟いた。
「シリル……」
鉄格子の向こう側から、王太子がこちらを見下ろしている。
何とも苦し気な表情をして。
「殿…下……。このような汚らしい所…殿下が来られてはいけませんよ……。」
「そんな事はどうでもいい!シリル、答えてくれ。アレは君の仕業ではないんだろう?カイトがよく君の事を嬉しそうに話していたんだ。大事な友達なんだと。そんな彼を君が害する筈がない。…そうだろう?」
縋る様に尋ねて来る王太子に、僕はとても目を合わせられなかった。
シルヴィアの時は、一切何も信じてくれなかったのに。
分かろうとしてくれなかったというのに。
どうして今回は、こんなにも必死に尋ねて来るの?
……分からない。
「……分から…ないんです、僕にも。少し喋って、僕のグラスをアイツが勝手に飲み干して、そしたら、アイツは真っ赤になって……。ただ、一つ分かるのは、狙われたのは…僕かもしれません。僕が飲もうとしていたのをカイトが取ったのは、本当にただの偶然でしたから。彼に話しかけられるのがもう少し遅ければ、アレは僕が口にしていたでしょう……」
「だったら…!」
正直に感じた事を喋った僕に、王太子は希望を見出した様に…パッと声のトーンが明るくなったが。
「……そう証言した所で何になります?誰が信じるでしょう?…誰も信じやしませんよ。」
あの会場で浴びた、周囲からの視線。
王宮に連行されて来た時の周りの刺さる様な目。
直接殴って来ないだけ、理性的だとすら思えた。
「……僕が犯人で無いとして、殿下には誰か、心当たりでもあるんですか?」
「っ」
尋ねてみたが、王太子の表情を見上げるに、全く何も当てが無さそうだ。
やっぱりか。
あれば、此処へは来ない筈だから。
牢の前では数人の兵士が微動だにせず、警備の為に直立している。
だが、その目は一様に僕を憎々し気に睨み付けていて。
僕はその視線を受け止めきれずに、彼らに背を向けて横たわっていた。
両手には頑丈な手枷が嵌められている。
そんなモノも気にならないぐらい、僕は全身から気力が抜け落ちていた。
(シルヴィアの時でも、ここまではならなかった。……当たり前か。カレンにキツく当たっただけだったしな。)
それでも、婚約を破棄され、修道院行きを命じられたのだ。
その後、馬車の転落事故に遭い、死亡したのは想定外だっただろうが。
だが、今回は。
前回の反省を踏まえて、カイトには悪感情を抱かれない様に心を砕いたのだ。
王太子にだって、可能であれば拳の一発でもお見舞いしてやりたいぐらいだったが、そんな事をすればどんな目に遭うかも知れないので、ただただ関わらない様にした。
……昨日のアレは、もう、仕方ない。
事故の様なモノだ。
いや、そんな事よりも。
本当についさっきまで、馬鹿を言って笑っていたのに。
天真爛漫で笑ったり泣いたり怒ったり。
実に表情豊かな、あのカイトが。
あんな血の気の引いた顔で、血を吐いて倒れるなんて。
辛うじて息はしていたが、それでも虫の息だった……。
誰がどう見ても非常に危ない状態だ。
(カイト————ッ!!)
どうか、無事でいてくれ。
お前は生きて元の世界へ帰るんだろう?
こんな所で死んでは駄目だ、絶対に。
汚い床に横たわりながら、僕はただひたすら、彼の回復を祈るしかなかった。
暗い牢の中で、時間の感覚が鈍くなり過ぎて、気が遠くなりかけた時。
不意にガシャンという物音と共に、俄かに周囲のざわめきを耳にした。
僕は力なく振り返ると、そこに居たのは……。
「王太子…殿下……」
虚ろな目で、それでもその姿を確認すると、僕はなんとかそう呟いた。
「シリル……」
鉄格子の向こう側から、王太子がこちらを見下ろしている。
何とも苦し気な表情をして。
「殿…下……。このような汚らしい所…殿下が来られてはいけませんよ……。」
「そんな事はどうでもいい!シリル、答えてくれ。アレは君の仕業ではないんだろう?カイトがよく君の事を嬉しそうに話していたんだ。大事な友達なんだと。そんな彼を君が害する筈がない。…そうだろう?」
縋る様に尋ねて来る王太子に、僕はとても目を合わせられなかった。
シルヴィアの時は、一切何も信じてくれなかったのに。
分かろうとしてくれなかったというのに。
どうして今回は、こんなにも必死に尋ねて来るの?
……分からない。
「……分から…ないんです、僕にも。少し喋って、僕のグラスをアイツが勝手に飲み干して、そしたら、アイツは真っ赤になって……。ただ、一つ分かるのは、狙われたのは…僕かもしれません。僕が飲もうとしていたのをカイトが取ったのは、本当にただの偶然でしたから。彼に話しかけられるのがもう少し遅ければ、アレは僕が口にしていたでしょう……」
「だったら…!」
正直に感じた事を喋った僕に、王太子は希望を見出した様に…パッと声のトーンが明るくなったが。
「……そう証言した所で何になります?誰が信じるでしょう?…誰も信じやしませんよ。」
あの会場で浴びた、周囲からの視線。
王宮に連行されて来た時の周りの刺さる様な目。
直接殴って来ないだけ、理性的だとすら思えた。
「……僕が犯人で無いとして、殿下には誰か、心当たりでもあるんですか?」
「っ」
尋ねてみたが、王太子の表情を見上げるに、全く何も当てが無さそうだ。
やっぱりか。
あれば、此処へは来ない筈だから。
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