全てを諦めた公爵令息の開き直り

key

文字の大きさ
上 下
34 / 369
第1章

34話 地下牢

しおりを挟む
地下牢に入れられて、どのくらい経っただろうか?
牢の前では数人の兵士が微動だにせず、警備の為に直立している。
だが、その目は一様に僕を憎々し気に睨み付けていて。
僕はその視線を受け止めきれずに、彼らに背を向けて横たわっていた。

両手には頑丈な手枷が嵌められている。
そんなモノも気にならないぐらい、僕は全身から気力が抜け落ちていた。

(シルヴィアの時でも、ここまではならなかった。……当たり前か。カレンにキツく当たっただけだったしな。)

それでも、婚約を破棄され、修道院行きを命じられたのだ。
その後、馬車の転落事故に遭い、死亡したのは想定外だっただろうが。

だが、今回は。
前回の反省を踏まえて、カイトには悪感情を抱かれない様に心を砕いたのだ。
王太子にだって、可能であれば拳の一発でもお見舞いしてやりたいぐらいだったが、そんな事をすればどんな目に遭うかも知れないので、ただただ関わらない様にした。

……昨日のアレは、もう、仕方ない。
事故の様なモノだ。

いや、そんな事よりも。
本当についさっきまで、馬鹿を言って笑っていたのに。
天真爛漫で笑ったり泣いたり怒ったり。
実に表情豊かな、あのカイトが。
あんな血の気の引いた顔で、血を吐いて倒れるなんて。

辛うじて息はしていたが、それでも虫の息だった……。
誰がどう見ても非常に危ない状態だ。

(カイト————ッ!!)

どうか、無事でいてくれ。
お前は生きて元の世界へ帰るんだろう?
こんな所で死んでは駄目だ、絶対に。

汚い床に横たわりながら、僕はただひたすら、彼の回復を祈るしかなかった。

暗い牢の中で、時間の感覚が鈍くなり過ぎて、気が遠くなりかけた時。
不意にガシャンという物音と共に、俄かに周囲のざわめきを耳にした。
僕は力なく振り返ると、そこに居たのは……。

「王太子…殿下……」

虚ろな目で、それでもその姿を確認すると、僕はなんとかそう呟いた。

「シリル……」

鉄格子の向こう側から、王太子がこちらを見下ろしている。
何とも苦し気な表情をして。

「殿…下……。このような汚らしい所…殿下が来られてはいけませんよ……。」
「そんな事はどうでもいい!シリル、答えてくれ。アレは君の仕業ではないんだろう?カイトがよく君の事を嬉しそうに話していたんだ。大事な友達なんだと。そんな彼を君が害する筈がない。…そうだろう?」

縋る様に尋ねて来る王太子に、僕はとても目を合わせられなかった。

シルヴィアの時は、一切何も信じてくれなかったのに。
分かろうとしてくれなかったというのに。
どうして今回は、こんなにも必死に尋ねて来るの?
……分からない。

「……分から…ないんです、僕にも。少し喋って、僕のグラスをアイツが勝手に飲み干して、そしたら、アイツは真っ赤になって……。ただ、一つ分かるのは、狙われたのは…僕かもしれません。僕が飲もうとしていたのをカイトが取ったのは、本当にただの偶然でしたから。彼に話しかけられるのがもう少し遅ければ、アレは僕が口にしていたでしょう……」
「だったら…!」

正直に感じた事を喋った僕に、王太子は希望を見出した様に…パッと声のトーンが明るくなったが。

「……そう証言した所で何になります?誰が信じるでしょう?…誰も信じやしませんよ。」

あの会場で浴びた、周囲からの視線。
王宮に連行されて来た時の周りの刺さる様な目。
直接殴って来ないだけ、理性的だとすら思えた。

「……僕が犯人で無いとして、殿下には誰か、心当たりでもあるんですか?」
「っ」

尋ねてみたが、王太子の表情を見上げるに、全く何も当てが無さそうだ。
やっぱりか。
あれば、此処へは来ない筈だから。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...