全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

31話 慟哭

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「…はぁ、うっ…」

あの部屋を出てから、無我夢中で走っていた。
途中で誰かとぶつかったが、すみません、と一言口にするだけで精一杯だった。
相手の顔も見ないまま、また一目散に走って行く。

足の赴くまま走り、辿り着いたのは。
僕のお気に入りのあの古びた噴水の場所だった。

「……うっ…うっ…うあぁぁぁっ————!」

此処なら誰の目も気にしなくていいから。
僕はどうしても耐えきれなくなり、その場に泣き崩れた。

「…うぐっ……うあぁぁぁ…あぁぁぁっ」

知らなかった。
こんな激しい感情が、自分の中にあったなんて。
どうしても涙が止まらない。
声にならない声を上げて、僕は心のままに泣き続けた。

何で、こんなに悲しいのか。
だって、僕は王太子の事、何とも思って無かったじゃないか。
むしろ、自分の死のきっかけにもなりかねず、恐ろしいとさえ感じていた、筈なのに。

(シルヴィアでは手に入らなかった……。シリルになっても、やっぱり手に入らないんだ……)

思い知らされた。
シルヴィアだったから、駄目だったんじゃない。
シリルとなった今でも、やっぱり駄目なのだ。
どうやったって、手に入らない。

どれだけ彼に尽くしても。
距離をとってみても。
変える事は出来ないのだ。
振り向かせる事は、出来ない。

それをこれでもかと、思い知らされたのだ。
……それだけの事。
それだけ、なのに。

どうしてこんなに苦しいの。

泣くだけ泣いて。
喉の奥から込み上げてくるモノがまだ落ち着かなくても、涙は枯れて出て来なくなった。
僕はフラフラと立ち上がり、帰路へ着いた。

馬車で迎えに来たテオや、邸宅で僕の帰宅を待ってくれていたレイラは、目の周りを真っ赤に泣き腫らした僕の顔を見て、一体何があったのかと驚いていたが。
僕は、明日の卒業を控えて色々と思い出に浸っていただけだと誤魔化した。
二人とも、全然信じてくれなかったけれど。
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