全てを諦めた公爵令息の開き直り

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第1章

25話 夜

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「はぁ…疲れた。」
「フフッ今日はお疲れ様でしたね、シリル様。」

部屋では侍女のレイラが優しい笑みで労いの言葉をかけてくれた。

「全くだよ。昨日の今日で本当に来るし。何仕出かすか分からんから気が気じゃないしな。」

ソファーにどっかりと腰を下ろして愚痴る僕に、レイラはクスクスと笑う。

「お館様も皆様も、本当に嬉しそうでいらっしゃいましたよ。あの方が救世の巫子というのはもちろん凄い事ですが、何よりシリル様にお友達が出来た事。」
「もういいってその話は。それより、疲れたから風呂に入ってもう寝る。」

此処でまたムキになって怒ると、余計に揶揄われるだけなのは目に見えている。
僕は彼女を冷たくあしらって、さっさと風呂で汗を流す事にした。

湯上りの後、いつもコップ一杯の白湯を用意しておいてくれる。
それを指差し、意識を集中する。
すると。

カラン。
と、一口大の氷が白湯の中に浮かんでいた。
僕の使える唯一の魔術だ。
僕は差し詰め、歩く小型製氷機。

見た目もそう。
黒目黒髪で人懐っこいカイトや、金髪碧眼で優美な笑顔を常に絶やさない王太子などと違い。
寒々しい銀色の髪と、宵闇や深海を思わせる様な暗い藍色の瞳。
見た目からして冷たい雰囲気で、近寄りがたいと思われている様だ。
それでも、シルヴィアの時はまだそれなりに交友関係もあった筈だがなぁ。

そんな事を考えて、僕はかぶりを振った。
レイラにまであんな事を言われたからって。
気にしてどうする。

窓から見える月を見ながら、ふう。とため息をついていると。

コンコンッと。
扉を叩く音がした。

「シリル様、宜しいですか?」

扉の外から聞こえて来たのはテオの声だ。

「どうした?」

彼にはカイトの護衛をする様、命じていた筈なのに。
まさか、何かあったのか?!

「失礼致します。」

緊張した面持ちの僕とは裏腹に、テオはいつもののんびりした声で扉を開けて。

「やっほー!シーリル…ぅ…」

テオの後ろから出てきたのは、呑気な声で現れたカイトだった。

「……」
「何だ、一体どうした?!」

元気な顔を見せたかと思うと、カイトは言葉も忘れて僕の顔をじっと見つめて来た。
何なんだ。
様子のおかしいカイトを訝しむと。

「…あぁ!ごめんごめん!あんまりシリルが美人さん過ぎて、思わず見惚れちゃったぁ…」
「ハハッ……女性に言うなら効果あるだろうが、僕に言われてもな。この人たらし。」
「そんな、お世辞じゃなくて本当だよ!髪が月の光に映えてキラキラしてる。めちゃくちゃモテそうなのになぁ~。」

なのに何で、浮いた話の一つも無いの?と聞いてくる。
知るか。
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