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第1章
19話 大事な話
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「失礼致します。」
「あぁ、シリル。」
僕は帰宅早々、服も着替えずに従者のテオを伴い、叔父が居る執務室へと向かった。
中では仕事中の叔父と、叔父の側近で家令のロバートが資料片手に話し込んでいた。
恐らく、領地に関する事だろう。
「帰ったんだね。おかえり。」
ニッコリと笑い僕を迎えてくれる叔父に、僕は軽く礼をした。
「はい、ただ今帰りました。……すみません、お仕事中に。」
「いや、かまわないよ。でも、どうしたんだい?着替えもせずに珍しいね。」
叔父は、手にしていた資料の束を机の上に置き、僕を手前のソファーへ座る様に促した。
はい。と頷き、僕がソファーへ腰を下ろし、テオはその後ろに立って控える。
叔父は僕の右隣に同じく腰を下ろした。
家長である公爵が座る席だ。
両親を亡くした後からずっと叔父が公爵代理を務めており、だから、さっきもこの執務室で公爵としての仕事をこなしていたのだ。
が、僕の急な来訪で、それは一時休憩となり、共に仕事をしていた家令のロバートは、僕と叔父の邪魔にならない様、部屋の隅へ控えようとしてくれたが。
「すまない、ロバートも座ってくれ。急で大変申し訳ないんだが、大事な話があるんだ。」
そう言って、僕は向かい側の席に座る様、ロバートを促す。
彼は目を丸めたが、僕の言う通りにしてくれた。
「大事な話って?学院で何かあったのかい?」
心配そうに尋ねてくれる叔父に、既に顔を顰めていた僕は、更に眉間に皺を寄せた。
その表情を見て驚いた顔を見せた叔父は、ぐっと低い声で呟いた。
「……まさか、虐められているのか?」
え?
虐められてる?
僕が虐めて問題を起こしているんじゃなく?
険しい表情をしてしまっていた僕は、思わずポカンと間抜けな顔になってしまった。
……随分、信頼されているんだな。
やっぱり叔父様は叔父様だ。
まだ幼かった頃、両親と共に僕を可愛がってくれていた昔の叔父様そのものの様に思えた。
「いえ、違います。そもそも虐められる程、クラスメイトとそう関わる事も無いですし。」
「それはそれでどうなんだい。」
シレッと返す僕に、叔父は今度は呆れた声で言う。
「それに、これでも一応僕も公爵令息ですから。それでも構わず手を出してくる様な愚か者は、そもそもあの学院には来ませんよ。」
叔父様もご存知でしょう?と言外に言うと、「まぁ、それはそうだけど…」と口ごもった。
が、そうだった…と、僕はガックリと項垂れた。
「……いえ、それが居るんです一人、その愚か者が…。」
「え?!誰だい、シリル。言いなさい。場合によっちゃ、学院に…」
抗議しに行かねば!と腰を上げかけた叔父の腕を掴み、座る様に促した。
「……いくら叔父様でも無理です。何ならこの国の誰もがアイツの傍若無人さには敵わないでしょう…。」
「……どういう事だい。」
「……それがそのぉ……急にうちに来ると言い出したんです、ソイツが。『明日泊まりに行くからよろしく。』と、僕に断りもなく勝手に。」
あのぐしゃぐしゃにした紙切れに書かれた内容を思い出して、僕はまた怒りが込み上げてきた。
「え、明日?泊まりに来る?」
虐めている相手の家に泊まりに来るとは、一体どんな神経をしているのか。
意味が分からない。と困惑している叔父の顔には書いてあった。
「あ、その、すみません。虐められてはいませんよ。ただ面倒な奴ってだけで。」
「うん?」
「どういう事です?シリル様。」
僕の話に、叔父だけでなくロバートも困惑した様子で尋ねてきた。
「はぁ……それが。今巷で話題になっているでしょう?各地を飛び回って人々を救済して回っている、救世の巫子の事。」
「…えぇ。」
「……ソイツが、来るって言うんです。明日、うちに、泊まりに。」
まるで罪を告白するかの如く力なくそう答えた僕に、叔父と家令のロバートは僕の言葉がまるで理解出来ない様子で固まっていた。
「あぁ、シリル。」
僕は帰宅早々、服も着替えずに従者のテオを伴い、叔父が居る執務室へと向かった。
中では仕事中の叔父と、叔父の側近で家令のロバートが資料片手に話し込んでいた。
恐らく、領地に関する事だろう。
「帰ったんだね。おかえり。」
ニッコリと笑い僕を迎えてくれる叔父に、僕は軽く礼をした。
「はい、ただ今帰りました。……すみません、お仕事中に。」
「いや、かまわないよ。でも、どうしたんだい?着替えもせずに珍しいね。」
叔父は、手にしていた資料の束を机の上に置き、僕を手前のソファーへ座る様に促した。
はい。と頷き、僕がソファーへ腰を下ろし、テオはその後ろに立って控える。
叔父は僕の右隣に同じく腰を下ろした。
家長である公爵が座る席だ。
両親を亡くした後からずっと叔父が公爵代理を務めており、だから、さっきもこの執務室で公爵としての仕事をこなしていたのだ。
が、僕の急な来訪で、それは一時休憩となり、共に仕事をしていた家令のロバートは、僕と叔父の邪魔にならない様、部屋の隅へ控えようとしてくれたが。
「すまない、ロバートも座ってくれ。急で大変申し訳ないんだが、大事な話があるんだ。」
そう言って、僕は向かい側の席に座る様、ロバートを促す。
彼は目を丸めたが、僕の言う通りにしてくれた。
「大事な話って?学院で何かあったのかい?」
心配そうに尋ねてくれる叔父に、既に顔を顰めていた僕は、更に眉間に皺を寄せた。
その表情を見て驚いた顔を見せた叔父は、ぐっと低い声で呟いた。
「……まさか、虐められているのか?」
え?
虐められてる?
僕が虐めて問題を起こしているんじゃなく?
険しい表情をしてしまっていた僕は、思わずポカンと間抜けな顔になってしまった。
……随分、信頼されているんだな。
やっぱり叔父様は叔父様だ。
まだ幼かった頃、両親と共に僕を可愛がってくれていた昔の叔父様そのものの様に思えた。
「いえ、違います。そもそも虐められる程、クラスメイトとそう関わる事も無いですし。」
「それはそれでどうなんだい。」
シレッと返す僕に、叔父は今度は呆れた声で言う。
「それに、これでも一応僕も公爵令息ですから。それでも構わず手を出してくる様な愚か者は、そもそもあの学院には来ませんよ。」
叔父様もご存知でしょう?と言外に言うと、「まぁ、それはそうだけど…」と口ごもった。
が、そうだった…と、僕はガックリと項垂れた。
「……いえ、それが居るんです一人、その愚か者が…。」
「え?!誰だい、シリル。言いなさい。場合によっちゃ、学院に…」
抗議しに行かねば!と腰を上げかけた叔父の腕を掴み、座る様に促した。
「……いくら叔父様でも無理です。何ならこの国の誰もがアイツの傍若無人さには敵わないでしょう…。」
「……どういう事だい。」
「……それがそのぉ……急にうちに来ると言い出したんです、ソイツが。『明日泊まりに行くからよろしく。』と、僕に断りもなく勝手に。」
あのぐしゃぐしゃにした紙切れに書かれた内容を思い出して、僕はまた怒りが込み上げてきた。
「え、明日?泊まりに来る?」
虐めている相手の家に泊まりに来るとは、一体どんな神経をしているのか。
意味が分からない。と困惑している叔父の顔には書いてあった。
「あ、その、すみません。虐められてはいませんよ。ただ面倒な奴ってだけで。」
「うん?」
「どういう事です?シリル様。」
僕の話に、叔父だけでなくロバートも困惑した様子で尋ねてきた。
「はぁ……それが。今巷で話題になっているでしょう?各地を飛び回って人々を救済して回っている、救世の巫子の事。」
「…えぇ。」
「……ソイツが、来るって言うんです。明日、うちに、泊まりに。」
まるで罪を告白するかの如く力なくそう答えた僕に、叔父と家令のロバートは僕の言葉がまるで理解出来ない様子で固まっていた。
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