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第1章
17話 助けてくれ
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「カイトッ!!」
「あれ?シリルだー。珍しー。賑やかなトコ来たがらないクセにぃー。」
学友達と食堂で昼食のひと時を楽しんでいたカイトは、呑気に僕を見つけて笑っていたが。
「そんな事はどうでもいい!助けてくれ!」
彼とは対照的に、鬼気迫る様子でやって来た僕に、流石のカイトも何事かと目の色を変えて立ち上がった。
「どこ?」
「こっちだッ」
大勢の前で詳しい事情は追及せず、自分は何処に行けばいいのかだけ尋ねてくれたカイトに感謝しながら、僕は彼をさっきの場所まで急いで誘導した。
しかし————…。
「あれ?……居ない…。」
「え?居ないの?」
目的の場所に辿り着いたのに、ついさっきの出来事だったのに。
さっきの場所で倒れていた男性の姿は消え去っていた。
「……ねぇ、何だったの?シリル。」
急に連れて来られて首を傾げるカイトに、僕はしどろもどろになるしかなかった。
「いや、さっきここで昼食をとろうとしたら、言い争っている声が聞こえて、覗いてみたら……ここに男の人が倒れていたんだ。歳は近く見えたから、恐らく専学科の先輩辺りだと思うんだが……。」
「えっ……そうなの?この学院って、良いとこの坊っちゃんばっかりだから、殴り合いの喧嘩とか、想像出来なかったんだけど……やっぱ陰ではあんの?」
「いや、喧嘩じゃない……。殿下って言ってた声が聞こえたから…」
「えぇ?!ユリウス殿下が喧嘩?!」
うっそぉ!と声を上げるカイトに、僕は違うと即座に諫めた。
「そうじゃない。声が全然違った。多分だけど、アデリート王国から留学に来てるロレンツォ殿下とその部下らしい人だ。……発音の訛り方にしても、そうだと思う。」
「アデリート?あぁ、あの貿易が盛んって言われてる国?」
最近勉強したよー。と、カイトは呑気に答える。
「ロレンツォ殿下って、結構やり手っていうか……やんちゃそうな雰囲気あったよね。あー、機嫌悪かったら部下とか蹴るかもぉ……。やだねーすぐ手が出る奴って。」
「ロレンツォ殿下は専学科で、王族という事で特別に護衛騎士が1人、同行を許可されてる。あと、同学年に子爵令息を連れ立って、共に在籍していた筈……。」
僕が思い出しつつ説明すると、カイトは感心していた。
「凄いね。専学科の先輩の情報まで把握しているなんて。」
「彼らは特別だろ。他国からの留学生だ。卒業して帰国すればそれで終わりじゃない。その後の友好関係にも関わって来るんだ。」
「んー、なら、そんな大事な外交の場で、問題を起こすなんて、よっぽど何かあったのかな?」
「いや、ここは普段人の目に付かない場所だし、単に殿下の虫の居所が悪かっただけかもしれない…。でも、その責められて倒れてた人に声を掛けたら、一瞬僕の顔を見たけど反応しなくなったから、これはマズいと思って、急いでお前を呼びに行ったんだ。でも……」
かなり急いで戻って来たにも拘らず。
既に姿をくらましていたなんて。
さっき声を掛けた時は、反応すらしなかったのに。
「そっか……。心配だけど、居ないならどうしようもないね…。」
申し訳なさそうに言ってくれるカイトに、こちらこそ、楽しい昼食の時間を奪ってしまって、申し訳なくなる。
「そんな……僕こそ、騒ぎ立ててすまなかった。」
「いや、いいよ。俺を頼ってくれたの嬉しかったし。役には立てなかったけど。また何かあったら言って。シリルには借りがあるからね。」
そう言って、カイトは僕の肩を軽く叩くと、元居た場所へ戻って行った。
僕は持参したパンも食べる気になれず、さっきまで横たわっていた筈のあの人の事を思い出していた。
(ロレンツォ殿下は離れて行ったから、無いとして…。彼のお付は護衛騎士と同行の子爵令息。そのどちらかがあの倒れてた人なら、もう一人の人が……僕がカイトを呼びに行ってる間に、回収したのかな。)
確かに、同国人同士だとしても、この学内で暴力沙汰でも起こせば問題になる。
だから、それに気付いたもう一人の部下が、この件をもみ消す為に彼を回収していったのだろう。
それなら、彼の側を離れない方が良かったのだろうか?
でも、あそこでただ留まっていたって、どうにもならない。
今はただ、倒れていた彼が無事である事を祈るしか出来なかった————…。
「あれ?シリルだー。珍しー。賑やかなトコ来たがらないクセにぃー。」
学友達と食堂で昼食のひと時を楽しんでいたカイトは、呑気に僕を見つけて笑っていたが。
「そんな事はどうでもいい!助けてくれ!」
彼とは対照的に、鬼気迫る様子でやって来た僕に、流石のカイトも何事かと目の色を変えて立ち上がった。
「どこ?」
「こっちだッ」
大勢の前で詳しい事情は追及せず、自分は何処に行けばいいのかだけ尋ねてくれたカイトに感謝しながら、僕は彼をさっきの場所まで急いで誘導した。
しかし————…。
「あれ?……居ない…。」
「え?居ないの?」
目的の場所に辿り着いたのに、ついさっきの出来事だったのに。
さっきの場所で倒れていた男性の姿は消え去っていた。
「……ねぇ、何だったの?シリル。」
急に連れて来られて首を傾げるカイトに、僕はしどろもどろになるしかなかった。
「いや、さっきここで昼食をとろうとしたら、言い争っている声が聞こえて、覗いてみたら……ここに男の人が倒れていたんだ。歳は近く見えたから、恐らく専学科の先輩辺りだと思うんだが……。」
「えっ……そうなの?この学院って、良いとこの坊っちゃんばっかりだから、殴り合いの喧嘩とか、想像出来なかったんだけど……やっぱ陰ではあんの?」
「いや、喧嘩じゃない……。殿下って言ってた声が聞こえたから…」
「えぇ?!ユリウス殿下が喧嘩?!」
うっそぉ!と声を上げるカイトに、僕は違うと即座に諫めた。
「そうじゃない。声が全然違った。多分だけど、アデリート王国から留学に来てるロレンツォ殿下とその部下らしい人だ。……発音の訛り方にしても、そうだと思う。」
「アデリート?あぁ、あの貿易が盛んって言われてる国?」
最近勉強したよー。と、カイトは呑気に答える。
「ロレンツォ殿下って、結構やり手っていうか……やんちゃそうな雰囲気あったよね。あー、機嫌悪かったら部下とか蹴るかもぉ……。やだねーすぐ手が出る奴って。」
「ロレンツォ殿下は専学科で、王族という事で特別に護衛騎士が1人、同行を許可されてる。あと、同学年に子爵令息を連れ立って、共に在籍していた筈……。」
僕が思い出しつつ説明すると、カイトは感心していた。
「凄いね。専学科の先輩の情報まで把握しているなんて。」
「彼らは特別だろ。他国からの留学生だ。卒業して帰国すればそれで終わりじゃない。その後の友好関係にも関わって来るんだ。」
「んー、なら、そんな大事な外交の場で、問題を起こすなんて、よっぽど何かあったのかな?」
「いや、ここは普段人の目に付かない場所だし、単に殿下の虫の居所が悪かっただけかもしれない…。でも、その責められて倒れてた人に声を掛けたら、一瞬僕の顔を見たけど反応しなくなったから、これはマズいと思って、急いでお前を呼びに行ったんだ。でも……」
かなり急いで戻って来たにも拘らず。
既に姿をくらましていたなんて。
さっき声を掛けた時は、反応すらしなかったのに。
「そっか……。心配だけど、居ないならどうしようもないね…。」
申し訳なさそうに言ってくれるカイトに、こちらこそ、楽しい昼食の時間を奪ってしまって、申し訳なくなる。
「そんな……僕こそ、騒ぎ立ててすまなかった。」
「いや、いいよ。俺を頼ってくれたの嬉しかったし。役には立てなかったけど。また何かあったら言って。シリルには借りがあるからね。」
そう言って、カイトは僕の肩を軽く叩くと、元居た場所へ戻って行った。
僕は持参したパンも食べる気になれず、さっきまで横たわっていた筈のあの人の事を思い出していた。
(ロレンツォ殿下は離れて行ったから、無いとして…。彼のお付は護衛騎士と同行の子爵令息。そのどちらかがあの倒れてた人なら、もう一人の人が……僕がカイトを呼びに行ってる間に、回収したのかな。)
確かに、同国人同士だとしても、この学内で暴力沙汰でも起こせば問題になる。
だから、それに気付いたもう一人の部下が、この件をもみ消す為に彼を回収していったのだろう。
それなら、彼の側を離れない方が良かったのだろうか?
でも、あそこでただ留まっていたって、どうにもならない。
今はただ、倒れていた彼が無事である事を祈るしか出来なかった————…。
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