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第1章

8話 シルヴィアの最期の希望と現実

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「……はぁ、はぁ。またか。」

また、あの夢を見る。
自室のベッドの上で。
僕ははゆっくりと上半身を起こし、片手で頭を抱えたまま、深い溜息をついた。

王太子に断罪されて、救世の巫女に仲裁に入られて、惨めさに耐えきれずに自殺した夢。

でも、本当は違う。

これは、この夢は恐らく、シルヴィアの望む結末だったのだろう。
最期くらいは自分の意思で。
本当は、あのままあのパーティー会場を飛び出して、美しい思い出が残るあの湖畔で最期を迎えたかったのだろう。

でも、実際は違った。

会場を飛び出したまでは同じだ。
だが、入り口で門番に止められ、迎えで待っていた従者のテオに促され、馬車で邸宅まで帰った。
テオとレイラに事情を話し、二人は凄く怒っていた。
それはもう、物凄く。
相手は王太子だというのに、二人とも平気で名前を呼び捨てにし、悪口を吐いていた。
公爵代理の叔父も流石に止めたが、その顔は到底承服しかねていた。

そんな皆の反応を見て、些か気を取り直せたシルヴィアは、自分から修道院に行くと言った。
家族もテオもレイラも、そんなの聞く必要ないと止めたが、シルヴィアは考えを曲げなかった。

だって、殿下の言う通りに修道院に行って、誘拐の件は無実だったと証明出来れば、自分の身の潔白を堂々と証明出来るからと胸を張った。

それが虚勢でも、よかった。
例えそれでも殿下の婚約破棄を覆せなかったとしても、公爵令嬢の体裁はいくらか保てる。
また、国王夫妻に婚約破棄で被った不利益の一部でも補填してもらうのに、訴えやすくなる。
この茶番劇の後始末、こちらも納得のいく様に対応してもらわないと。

だから、自ら向かうのだ。
これからの自分の為に。公爵家の為に。

……そう、気持ちを切り替えて、馬車に乗り込み、意気揚々と向かった筈だった。
が、途中馬車の事故に遭い、そのまま虚しく。
まさに、両親と同じ目に合う事になり。
シルヴィアは命を落としたのだった……。

「シルヴィア…か」

未だに夢の様に思えるけれど。
彼女の怒りも悲しみも。
彼女のその生涯も、確かに自分のものだ。
そう感じる。
前世が女で、今世が男だし、名前も若干変わっているけども。

それでも、"同じ"なのだ。

(でも、状況が違う)

そうなのだ。
シルヴィアの時はユリウス王太子の婚約者で、救世の巫女に奪われ、その後命を落とした。

しかし、今回自分はその死の元凶の一人であるユリウスとは大した繋がりは無い。
彼は相変わらず立太子されたキラッキラの王子様だし。
自分は次期公爵となる公子だし。

ウチは王太子派だから、そういう意味では全く付き合いが無い訳ではなく、王宮等で顔を合わすとお茶に誘われる事もあるけれど。

(怖すぎて、絶対一人では対峙しない様に気を付けてたもんなぁ…。)

大変だった。と溜息をつく。

あからさまな敬遠はしない様に注意していたが、極力関わらない様に、細心の注意を払っていた。

そのおかげで僕は、ユリウスだけでなく、他の王太子派の人間にも目立たないつまらない奴と思われている。
それでいい。
あまり印象の残らない、地味な奴として、嘲笑ってくれていればいい。
実際そうだし。

シリルとして、2度目の人生を歩んでいる僕は。
シルヴィアの様な立派な公爵令嬢としての誇りも、王太子の婚約者としての矜持も…ない。
そんなものは、要らない。
ただ静かに、穏やかに日々を過ごしていきたいだけ。
だから、ユリウスに執着も、救世の巫子に仕返しをする気もない。
ただ、出来るだけ関わらずに居たいだけ。

……それなのに。
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