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第1章
6話 令嬢の矜持
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「それに……嫌がらせは、まだしも。誘拐の件はどういう事です?それは、私は存じ上げません。」
「えっ」
泣いてはいけない。
震えてはいけない。
これだけははっきりさせないと。
救世の巫女へ厳しい態度をとった事。
それは嫌がらせと受け取られても、百歩譲ってまだ認めよう。
でも、誘拐の件は違う。
先日、巫女が急に姿を消し。
何者かに誘拐された!大変だ!と学院内だけでなく、世間をも大いに賑わせた事件だ。
だが、巫女はすぐに救出され、犯人も素行の悪い荒くれ者だった様だが、即座に捕まり、事件はそれで解決した筈だ。
何故それが私の仕業にされている?
分からないが、自分がした訳でも、目下の者にやらせた覚えも全く無いので、これに関しては堂々と反論した。
すると、殿下の隣からこちらの様子を伺っていた巫女が、私の全く動じない様子に思わず驚きの声を上げていた。
ユリウス殿下もまた、私の様子に違和感を抱いた様だが。
「捕まえた犯人共を吐かせたら、君の名が出てきたが?」
「お疑いになるのは仕方御座いませんが、犯人の供述だけで黒幕にされるわけには参りません。私の存在を厭う者に、私を真犯人に仕立て上げる為に嘘の供述をでっち上げさせて、私を貶めようとしている可能性だって充分考えられますもの。」
「た、確かに。」
……この巫女本当にうるさい。
こちらは身の潔白を証明する為に、内心必死だというのに。
当の本人はケロッとした様子で、態度が一々軽い。
「そうだな。その件は君の言う通り、もう一度洗い直してみよう。」
私の反論が、それよりもその態度が、だろうか。
あまりに堂々としていたから、私の口から割らせるのは無理だと判断したのかどうなのか。
巫女誘拐の嫌疑は、今は保留にしてくれそうだ。
しかし。
「だが、エウリルスの救世主である救世の巫女の、その優しく繊細な心を苛み苦しめたのは確かだ。それを許すわけにはいかない。……シルヴィア・クレイン。やはり君との婚約は無かったことにさせてもらう。事件の沙汰が明らかになるまで、修道院にて修業し、己の過ちを振り返るがいい。」
そう言い放ったユリウス殿下の視線はどこまでも冷ややかだった。
そこに、かつての穏やかで優しい彼は居なかった。
もう……。
とうとう耐えていた涙を堪えきれなくて、溢れそうになった時。
「ちょ、ちょっと待って!ユリウス…殿下!」
張り詰めた私と殿下の間に割って入る様に、救世の巫女カレンが身を乗り出した。
「私を心配してくれたのは嬉しいけど、そうじゃないの!誘拐の件はともかく……他はいいの別に!シルヴィア嬢の言う通りよ。私が軽率だったの。婚約者がいる貴方との距離の取り方が良くなかった。私もこの世界に慣れるのとか救済の仕事とかでいっぱいいっぱいで、配慮が足らなかったの。だから、これは私が悪いの。私の落ち度なの。」
「カレン……やはり君は優しすぎる。」
「いやいや違うから!今そんな思いやり求めてない!思いやるならシルヴィア嬢にでしょ!ちょっと前にこの世界に転がり込んで、浮かれてはしゃいでた私なんかと違って、彼女は本当に貴方の為にずっと努力してきたんでしょ?!物心つくかつかないかの頃に、自分の意思と関係なく親の都合で婚約する事になったのに、貴方に相応しい相手になる為に寝る間も惜しんで王妃教育に励んで、学院生活では常に皆の見本になる様にって、成績だってずっと上位ばかりで……本当に素晴らしい女性なんだって、貴方言ってたじゃない。」
「えっ……」
カレンの必死に訴える話に、今度は私が呆気にとられた。
知らなかった。
殿下がそんな風に私の事を言ってくれていたなんて。
いつも優しく気遣ってはくれたけど、本人の口から、そんな風には聞いた事がなかったから。
よりにもよって。
この憎らしい恋敵に教えてもらう羽目になるなんて。
(なんて……惨めなのかしら。)
今度こそ本当に、耐えられなかった。
これ以上惨めな姿は晒したくない。
これ以上二人を見ていられなくなって、私は彼らに背を向けた。
「えっ」
泣いてはいけない。
震えてはいけない。
これだけははっきりさせないと。
救世の巫女へ厳しい態度をとった事。
それは嫌がらせと受け取られても、百歩譲ってまだ認めよう。
でも、誘拐の件は違う。
先日、巫女が急に姿を消し。
何者かに誘拐された!大変だ!と学院内だけでなく、世間をも大いに賑わせた事件だ。
だが、巫女はすぐに救出され、犯人も素行の悪い荒くれ者だった様だが、即座に捕まり、事件はそれで解決した筈だ。
何故それが私の仕業にされている?
分からないが、自分がした訳でも、目下の者にやらせた覚えも全く無いので、これに関しては堂々と反論した。
すると、殿下の隣からこちらの様子を伺っていた巫女が、私の全く動じない様子に思わず驚きの声を上げていた。
ユリウス殿下もまた、私の様子に違和感を抱いた様だが。
「捕まえた犯人共を吐かせたら、君の名が出てきたが?」
「お疑いになるのは仕方御座いませんが、犯人の供述だけで黒幕にされるわけには参りません。私の存在を厭う者に、私を真犯人に仕立て上げる為に嘘の供述をでっち上げさせて、私を貶めようとしている可能性だって充分考えられますもの。」
「た、確かに。」
……この巫女本当にうるさい。
こちらは身の潔白を証明する為に、内心必死だというのに。
当の本人はケロッとした様子で、態度が一々軽い。
「そうだな。その件は君の言う通り、もう一度洗い直してみよう。」
私の反論が、それよりもその態度が、だろうか。
あまりに堂々としていたから、私の口から割らせるのは無理だと判断したのかどうなのか。
巫女誘拐の嫌疑は、今は保留にしてくれそうだ。
しかし。
「だが、エウリルスの救世主である救世の巫女の、その優しく繊細な心を苛み苦しめたのは確かだ。それを許すわけにはいかない。……シルヴィア・クレイン。やはり君との婚約は無かったことにさせてもらう。事件の沙汰が明らかになるまで、修道院にて修業し、己の過ちを振り返るがいい。」
そう言い放ったユリウス殿下の視線はどこまでも冷ややかだった。
そこに、かつての穏やかで優しい彼は居なかった。
もう……。
とうとう耐えていた涙を堪えきれなくて、溢れそうになった時。
「ちょ、ちょっと待って!ユリウス…殿下!」
張り詰めた私と殿下の間に割って入る様に、救世の巫女カレンが身を乗り出した。
「私を心配してくれたのは嬉しいけど、そうじゃないの!誘拐の件はともかく……他はいいの別に!シルヴィア嬢の言う通りよ。私が軽率だったの。婚約者がいる貴方との距離の取り方が良くなかった。私もこの世界に慣れるのとか救済の仕事とかでいっぱいいっぱいで、配慮が足らなかったの。だから、これは私が悪いの。私の落ち度なの。」
「カレン……やはり君は優しすぎる。」
「いやいや違うから!今そんな思いやり求めてない!思いやるならシルヴィア嬢にでしょ!ちょっと前にこの世界に転がり込んで、浮かれてはしゃいでた私なんかと違って、彼女は本当に貴方の為にずっと努力してきたんでしょ?!物心つくかつかないかの頃に、自分の意思と関係なく親の都合で婚約する事になったのに、貴方に相応しい相手になる為に寝る間も惜しんで王妃教育に励んで、学院生活では常に皆の見本になる様にって、成績だってずっと上位ばかりで……本当に素晴らしい女性なんだって、貴方言ってたじゃない。」
「えっ……」
カレンの必死に訴える話に、今度は私が呆気にとられた。
知らなかった。
殿下がそんな風に私の事を言ってくれていたなんて。
いつも優しく気遣ってはくれたけど、本人の口から、そんな風には聞いた事がなかったから。
よりにもよって。
この憎らしい恋敵に教えてもらう羽目になるなんて。
(なんて……惨めなのかしら。)
今度こそ本当に、耐えられなかった。
これ以上惨めな姿は晒したくない。
これ以上二人を見ていられなくなって、私は彼らに背を向けた。
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