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第1章
5話 シルヴィア・クレイン公爵令嬢
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「シルヴィア・クレイン!君との婚約を破棄する!」
「なっ……正気ですか、殿下っ」
エウリルス王立学院、最大にして最後の晴れ舞台、卒業式のパーティーにて。
本来ならばその主役として一番華やいでいた筈の美しい令嬢————…私、シルヴィア・クレイン公爵令嬢は、幼い頃に将来を誓い合った仲であるこの国の王太子ユリウス・エル・エウリルス殿下から、今。
大勢の目の前で堂々と、その誓いを無いものとされた。
彼は、ユリウス殿下は、金髪碧眼のその美しい美貌を備え、その聡明さをひけらかす事も無く、いつも誰にも分け隔てなく柔和な笑みを絶やさない優しい人だ。
そうだった筈だ。
なのに、今彼は何と言った?
婚約を破棄する?
それも、こんな。
卒業する、最後の晴れ舞台で……皆が見ている前で。
その何もかもが信じられない様子で愕然とするしかなかった。
対するユリウスの隣で、まるで彼の恋人の様に振舞っている恥知らずのこの女。
救世の巫女カレンはと言うと。
「えぇっ……えぇ……」
何故か破棄された私よりも驚愕の表情をしている。
本当はその心の中で、誰よりも喜んでいるのではなくて?
それとも、騒然としている皆の耳目がある前で、殊勝に振舞っているだけなの?
誰からも美しいと讃えられる私の美貌も、自然と険しい顔にならざるを得ない。
それを不服と読み取ったのか、ユリウスが続ける。
「我が国の秘宝、カレン……救世の巫女。その彼女に行った嫌がらせの数々、及び誘拐と。君の悪行は既に把握している。その様な悪逆な行いをする者を私は妃に迎える事は出来ない。」
「……あぁ。アレはまぁ、流石にちょっとかなりムカついた。」
ユリウスが、私の生涯の伴侶となる筈だった愛しい人が。
仇でも見るような目つきで私を見下ろしている。
私は思わず溢れそうになる涙を堪えるのが精一杯で。
彼の隣の巫女は、彼の話に同調し、不機嫌な顔をしていたが。
「ちょっとお待ち下さい、ユリウス様!」
「……証拠は既に挙がっている。それでも言い逃れするか?」
今まで見たことも無い冷ややかな視線に、思わず竦みそうになる足を踏みしめ。
ギュッと胸に拳を作り、己を奮い立たせる。
「えぇ、言わせて頂きます!巫女様への嫌がらせと仰る件、確かに認めます。ですが、私からすると当たり前の事です!婚約者がいる男性と二人きりになるだけでなく、随分親密になさっていたではありませんか。注意をするのは当然ですが、彼女は態度を改めるどころか……殿下とお二人で視察にもお行きになって…。」
言いながら怒りよりも悲しみに沈みそうになる声を絞り出してそう訴えると。
「それは申し訳ないと思います。いや、本当に。」
まずい…という表情で巫女カレンは小声で呟いたが。
「それは誤解だと何度も説明した筈だ。彼女の巫女としての救済の役目を支える為に、仕事として同行し、それに関する事で話を詰めていただけだと。」
ユリウスは巫女も自分も何も非は無いと、相変わらず堂々とした態度で主張している。
「それを信じろと仰るのですか……」
殿下は何も分かってくれない。分かろうともしてくれない。
私のこの胸の内を。
最愛の人の、自分にだけ向けられる筈だった、その笑顔を奪われてしまう、その不安を。
無事に婚姻し、王太子妃となり、やがて彼は父君の跡を継ぎ、素晴らしい王となるだろう。
そうして、自分にもし後継ぎが出来なければ、いつかは側室を迎える事も充分にあり得るのだ。
それは分かっている。
その覚悟は、出来ている。
いつかは、自分だけの王子様では、いてくれなくなる。
そんな事は分かっている!
でも、でも今は。
今だけは。
互いに手を取り合い、結ばれるまでは、せめて。
せめて、私だけを見ていて欲しかったのに。
どんなに魔術を頑張って習得しようとしても、あの女の様な規格外のあんな力。
どう頑張っても、自分には出来ない。
いずれは王妃となる為に。
王妃教育を何年も何年もかけて、日夜努力してきたの。
貴方の為に。
それなのに、要らないなんてそんな簡単に言わないで。
……それに。
「なっ……正気ですか、殿下っ」
エウリルス王立学院、最大にして最後の晴れ舞台、卒業式のパーティーにて。
本来ならばその主役として一番華やいでいた筈の美しい令嬢————…私、シルヴィア・クレイン公爵令嬢は、幼い頃に将来を誓い合った仲であるこの国の王太子ユリウス・エル・エウリルス殿下から、今。
大勢の目の前で堂々と、その誓いを無いものとされた。
彼は、ユリウス殿下は、金髪碧眼のその美しい美貌を備え、その聡明さをひけらかす事も無く、いつも誰にも分け隔てなく柔和な笑みを絶やさない優しい人だ。
そうだった筈だ。
なのに、今彼は何と言った?
婚約を破棄する?
それも、こんな。
卒業する、最後の晴れ舞台で……皆が見ている前で。
その何もかもが信じられない様子で愕然とするしかなかった。
対するユリウスの隣で、まるで彼の恋人の様に振舞っている恥知らずのこの女。
救世の巫女カレンはと言うと。
「えぇっ……えぇ……」
何故か破棄された私よりも驚愕の表情をしている。
本当はその心の中で、誰よりも喜んでいるのではなくて?
それとも、騒然としている皆の耳目がある前で、殊勝に振舞っているだけなの?
誰からも美しいと讃えられる私の美貌も、自然と険しい顔にならざるを得ない。
それを不服と読み取ったのか、ユリウスが続ける。
「我が国の秘宝、カレン……救世の巫女。その彼女に行った嫌がらせの数々、及び誘拐と。君の悪行は既に把握している。その様な悪逆な行いをする者を私は妃に迎える事は出来ない。」
「……あぁ。アレはまぁ、流石にちょっとかなりムカついた。」
ユリウスが、私の生涯の伴侶となる筈だった愛しい人が。
仇でも見るような目つきで私を見下ろしている。
私は思わず溢れそうになる涙を堪えるのが精一杯で。
彼の隣の巫女は、彼の話に同調し、不機嫌な顔をしていたが。
「ちょっとお待ち下さい、ユリウス様!」
「……証拠は既に挙がっている。それでも言い逃れするか?」
今まで見たことも無い冷ややかな視線に、思わず竦みそうになる足を踏みしめ。
ギュッと胸に拳を作り、己を奮い立たせる。
「えぇ、言わせて頂きます!巫女様への嫌がらせと仰る件、確かに認めます。ですが、私からすると当たり前の事です!婚約者がいる男性と二人きりになるだけでなく、随分親密になさっていたではありませんか。注意をするのは当然ですが、彼女は態度を改めるどころか……殿下とお二人で視察にもお行きになって…。」
言いながら怒りよりも悲しみに沈みそうになる声を絞り出してそう訴えると。
「それは申し訳ないと思います。いや、本当に。」
まずい…という表情で巫女カレンは小声で呟いたが。
「それは誤解だと何度も説明した筈だ。彼女の巫女としての救済の役目を支える為に、仕事として同行し、それに関する事で話を詰めていただけだと。」
ユリウスは巫女も自分も何も非は無いと、相変わらず堂々とした態度で主張している。
「それを信じろと仰るのですか……」
殿下は何も分かってくれない。分かろうともしてくれない。
私のこの胸の内を。
最愛の人の、自分にだけ向けられる筈だった、その笑顔を奪われてしまう、その不安を。
無事に婚姻し、王太子妃となり、やがて彼は父君の跡を継ぎ、素晴らしい王となるだろう。
そうして、自分にもし後継ぎが出来なければ、いつかは側室を迎える事も充分にあり得るのだ。
それは分かっている。
その覚悟は、出来ている。
いつかは、自分だけの王子様では、いてくれなくなる。
そんな事は分かっている!
でも、でも今は。
今だけは。
互いに手を取り合い、結ばれるまでは、せめて。
せめて、私だけを見ていて欲しかったのに。
どんなに魔術を頑張って習得しようとしても、あの女の様な規格外のあんな力。
どう頑張っても、自分には出来ない。
いずれは王妃となる為に。
王妃教育を何年も何年もかけて、日夜努力してきたの。
貴方の為に。
それなのに、要らないなんてそんな簡単に言わないで。
……それに。
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