上 下
2 / 358
第1章

2話 学院

しおりを挟む
エウリルス王立学院。

14~16歳迄の有力貴族やかなり富裕層の子女が通う学院だ。
この国の貴族令息令嬢としての教養・歴史・礼儀作法等を養う為だ。
それ以外にももちろん、文学や算学等の学術も修得する。
それが普通科で、そこを経て成人となるのだ。

特に後継ぎとなる男子が多く在籍していた。
女子も若干名いるが、教育に熱心な家以外は、女子は通わせない家も未だに少なくない。
それより花嫁修業も兼ねて、王宮等に侍女見習いとして働かせる場合も多い様だ。

ともあれ、この学院は社交界で一人前の大人になる為の学びの場でもある。
卒業パーティーのしばらく後、女性はデビュタントが行われる。

此処で多くが卒業し、特に後継ぎの男子は領地へ帰り、各地の地元に合った領地経営等を学んでいく者がほとんどだが。
16歳迄の普通科から高等専門学科(専学科)へ進学する者も若干名いる。
より専門研究に特化した内容を学ぶ為で、18歳で卒業となる。
因みに王太子は専学科に在籍しており、彼の方もまた、今年目出度くご卒業となられるのだ。

因みに。
昔は魔術を使える者がそれなりにいた為、王立魔術学院と称されていたが、その使える力も徐々に弱まり、今ではポッと火を灯せたり、水滴を生み出せる程度の者しか出て来なくなった。
その為、今ではただの学問を究める学校でしかなくなってしまったのだ。

それでも、昔の名残で未だに魔術研究をする者や、魔術同好会を開いて少ない魔術をその魔力や知識で残していこうとする物好きも少数ながらいる。

かく言う僕もその一人だ。
人付き合いは最悪クラスに悪いが、魔術関連の本を読み漁ったり、魔術同好会にはたまに顔を出している。
……成果はまぁ、言わずもがな、だが。

「はぁ、くだらない。」
「何がです?」

学院へ向かう馬車の中で思わず呟いた僕は、向かいに座る従者に首を傾げられた。

「いや。こうして毎日真面目に通って、本も読み漁ったりしたのに、相変わらず魔術の才能はからっきしだな……と思って。」

その昔、学院がその名を冠していた肝心の、魔術がほぼ使えない。
自身の才能の無さに呆れるしかない。

「えー、シリル様は綺麗な氷結を出せるじゃないですかぁ。それだけでも充分に凄い事です。それで言ったら俺の方こそふわっとしたそよ風くらいしか出せないですし。」
「テオドール、君は例え魔術が無くとも剣術があるだろう?」
「そのお陰で貴方の従者になれたんですしね。」
「まぁ、それは僕が大人になるまでの箔付けって事で、適当にやってくれればいいさ。」

そう言ってフッと自嘲気味に嗤う僕に対し、テオは不満げな顔を隠さない。

「だから、貴方が卒業したら本格的に従者として就くんですから!そんな突き放す様な言い方しないで下さいよって、いつも…っ」
「あぁ、着いたぞ。それではまた帰りにな。」
「え、あ、ちょっとシリル様っ!」

まだ何か言いたそうにしているテオに、話はこれまでだ。とばかりに切って馬車を降り、僕はいつもの校舎へと歩いて行く。

「本当に無事卒業出来たら…いいんだけどな。」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...