62 / 85
【第六章】ヒロイン、覚醒。そして暴走
62 騒めく学内――リリィの記憶と新学期
しおりを挟む
教室棟に近づくにつれ、私とアレクシスを見つめる視線が増えてくる。リリィが抜けた後の学園には、まだ“聖女”の影響が色濃く残っているのだろう。あちこちでヒソヒソ声が飛び交い、
「殿下が戻ってきたって……じゃあもうリリィは……?」
「セレナ様は学園祭の主役になったとか? どんな顔してるのかしら」
――そんな断片を耳にする。
無理もない。リリィの失踪、私とアレクシスの婚約強化……短期間でいろいろ変わりすぎて、学生たちも混乱しているのだ。
アレクシスはそんな周囲の反応を気にするでもなく、私の歩幅に合わせて悠々と歩く。ノエルが少し離れた位置で警戒しながらも、特に危険の気配はなさそうだ。
「セレナ様、お帰りなさいませ」
すると、何人かの令嬢が声をかけてきた。先日のフランシーヌも含まれる。私にぎこちない笑みを向けながら、「あの……お体、大丈夫ですか?」と尋ねる。
おそらく、リリィとの対決で火傷を負った話は広まっているのだろう。私は軽く微笑んで返す。
「ええ、もう平気よ。心配してくれてありがとう。……皆さん、新学期がもうすぐね。学園全体もまた落ち着くといいんだけど……」
私が口にすると、令嬢たちも「本当ですよね」と次々に頷く。しばらく雑談が続いたあと、彼女たちはアレクシスに向かって軽く会釈をし、「また何かありましたら、お手伝いしますわ」と言い残して去っていった。
その対応の素早さからは、“リリィ派に乗りかけていた人々が、今度は私にすり寄りたい”という思惑も感じられる。世渡りが巧みだなと思うが、貴族社会では珍しくない。
「……嫌にならないか、ああいうの」
アレクシスが微苦笑して私に尋ねる。私は肩をすくめて答える。
「まあ、嫌ってほどじゃないわ。むしろ、前みたいに嫌がらせされるよりは、全然マシよ」
それに、私はもうこの程度の表面上の変化には動揺しないくらいには成長した。転生前は“陰口”に弱かったけれど、今は堂々と受け止められる。
アレクシスも頷き、「お前が強くなってくれて良かった」と素直に言う。その言葉が妙に胸に沁みて、私は少しだけ顔を赤らめる。
やがて、教室前に到着し、アレクシスは軽く門下を見回す。彼は本日の視察の要件があり、教師と打ち合わせをするとのこと。
「お前は午後の講義に出るんだろう? 俺は教師と話してから、夕方にまた迎えに来るよ」
「うん、ありがとう。……また後でね」
そう言って別れようとすると、ふいに彼が軽く私の手を握る。周囲には生徒たちがいるが、目はあまり気にしていない様子だ。私が戸惑うほど、以前のクールな王子像とは変わったと思う。
「セレナ……またあとで。あんまり無理するなよ」
小さな声でそれだけ言い、彼は教師の待つ職員室棟へ向かっていく。私は頬を熱くしながら、周囲の視線を感じつつ教室へ入る。――すると、クラスメイトたちが一斉に私を見て固唾をのんでいるのがわかる。
恥ずかしいが、ここで曖昧に逃げるわけにはいかない。私は胸を張り、自然な微笑みをつくる。
「お久しぶり。私も今日からまた学園に通うわ。よろしくね」
クラスメイトの何人かが「セ、セレナ様、お帰りなさいませ」などと慌てて挨拶し、すぐにまた自分の席へ戻っていく。――リリィがいた頃とは空気が全然違う。今や私が“クラスの象徴”のような扱いを受けているのだ。
かつてなら「悪役令嬢」と揶揄され、皆から怯えられていたのに……と思うと、不思議な感慨が込み上げる。何よりもリリィの姿がないクラスは、とても静かで、平和だ。
「殿下が戻ってきたって……じゃあもうリリィは……?」
「セレナ様は学園祭の主役になったとか? どんな顔してるのかしら」
――そんな断片を耳にする。
無理もない。リリィの失踪、私とアレクシスの婚約強化……短期間でいろいろ変わりすぎて、学生たちも混乱しているのだ。
アレクシスはそんな周囲の反応を気にするでもなく、私の歩幅に合わせて悠々と歩く。ノエルが少し離れた位置で警戒しながらも、特に危険の気配はなさそうだ。
「セレナ様、お帰りなさいませ」
すると、何人かの令嬢が声をかけてきた。先日のフランシーヌも含まれる。私にぎこちない笑みを向けながら、「あの……お体、大丈夫ですか?」と尋ねる。
おそらく、リリィとの対決で火傷を負った話は広まっているのだろう。私は軽く微笑んで返す。
「ええ、もう平気よ。心配してくれてありがとう。……皆さん、新学期がもうすぐね。学園全体もまた落ち着くといいんだけど……」
私が口にすると、令嬢たちも「本当ですよね」と次々に頷く。しばらく雑談が続いたあと、彼女たちはアレクシスに向かって軽く会釈をし、「また何かありましたら、お手伝いしますわ」と言い残して去っていった。
その対応の素早さからは、“リリィ派に乗りかけていた人々が、今度は私にすり寄りたい”という思惑も感じられる。世渡りが巧みだなと思うが、貴族社会では珍しくない。
「……嫌にならないか、ああいうの」
アレクシスが微苦笑して私に尋ねる。私は肩をすくめて答える。
「まあ、嫌ってほどじゃないわ。むしろ、前みたいに嫌がらせされるよりは、全然マシよ」
それに、私はもうこの程度の表面上の変化には動揺しないくらいには成長した。転生前は“陰口”に弱かったけれど、今は堂々と受け止められる。
アレクシスも頷き、「お前が強くなってくれて良かった」と素直に言う。その言葉が妙に胸に沁みて、私は少しだけ顔を赤らめる。
やがて、教室前に到着し、アレクシスは軽く門下を見回す。彼は本日の視察の要件があり、教師と打ち合わせをするとのこと。
「お前は午後の講義に出るんだろう? 俺は教師と話してから、夕方にまた迎えに来るよ」
「うん、ありがとう。……また後でね」
そう言って別れようとすると、ふいに彼が軽く私の手を握る。周囲には生徒たちがいるが、目はあまり気にしていない様子だ。私が戸惑うほど、以前のクールな王子像とは変わったと思う。
「セレナ……またあとで。あんまり無理するなよ」
小さな声でそれだけ言い、彼は教師の待つ職員室棟へ向かっていく。私は頬を熱くしながら、周囲の視線を感じつつ教室へ入る。――すると、クラスメイトたちが一斉に私を見て固唾をのんでいるのがわかる。
恥ずかしいが、ここで曖昧に逃げるわけにはいかない。私は胸を張り、自然な微笑みをつくる。
「お久しぶり。私も今日からまた学園に通うわ。よろしくね」
クラスメイトの何人かが「セ、セレナ様、お帰りなさいませ」などと慌てて挨拶し、すぐにまた自分の席へ戻っていく。――リリィがいた頃とは空気が全然違う。今や私が“クラスの象徴”のような扱いを受けているのだ。
かつてなら「悪役令嬢」と揶揄され、皆から怯えられていたのに……と思うと、不思議な感慨が込み上げる。何よりもリリィの姿がないクラスは、とても静かで、平和だ。
61
あなたにおすすめの小説
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
他小説サイトにも投稿しています。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)
放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」
公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ!
――のはずだったのだが。
「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」
実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!?
物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる!
※表紙はNano Bananaで作成しています
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる