転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球

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【第六章】ヒロイン、覚醒。そして暴走

62 騒めく学内――リリィの記憶と新学期

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教室棟に近づくにつれ、私とアレクシスを見つめる視線が増えてくる。リリィが抜けた後の学園には、まだ“聖女”の影響が色濃く残っているのだろう。あちこちでヒソヒソ声が飛び交い、
「殿下が戻ってきたって……じゃあもうリリィは……?」
「セレナ様は学園祭の主役になったとか? どんな顔してるのかしら」
――そんな断片を耳にする。

無理もない。リリィの失踪、私とアレクシスの婚約強化……短期間でいろいろ変わりすぎて、学生たちも混乱しているのだ。
アレクシスはそんな周囲の反応を気にするでもなく、私の歩幅に合わせて悠々と歩く。ノエルが少し離れた位置で警戒しながらも、特に危険の気配はなさそうだ。

「セレナ様、お帰りなさいませ」
すると、何人かの令嬢が声をかけてきた。先日のフランシーヌも含まれる。私にぎこちない笑みを向けながら、「あの……お体、大丈夫ですか?」と尋ねる。
おそらく、リリィとの対決で火傷を負った話は広まっているのだろう。私は軽く微笑んで返す。

「ええ、もう平気よ。心配してくれてありがとう。……皆さん、新学期がもうすぐね。学園全体もまた落ち着くといいんだけど……」

私が口にすると、令嬢たちも「本当ですよね」と次々に頷く。しばらく雑談が続いたあと、彼女たちはアレクシスに向かって軽く会釈をし、「また何かありましたら、お手伝いしますわ」と言い残して去っていった。
その対応の素早さからは、“リリィ派に乗りかけていた人々が、今度は私にすり寄りたい”という思惑も感じられる。世渡りが巧みだなと思うが、貴族社会では珍しくない。

「……嫌にならないか、ああいうの」
アレクシスが微苦笑して私に尋ねる。私は肩をすくめて答える。
「まあ、嫌ってほどじゃないわ。むしろ、前みたいに嫌がらせされるよりは、全然マシよ」

それに、私はもうこの程度の表面上の変化には動揺しないくらいには成長した。転生前は“陰口”に弱かったけれど、今は堂々と受け止められる。
アレクシスも頷き、「お前が強くなってくれて良かった」と素直に言う。その言葉が妙に胸に沁みて、私は少しだけ顔を赤らめる。

やがて、教室前に到着し、アレクシスは軽く門下を見回す。彼は本日の視察の要件があり、教師と打ち合わせをするとのこと。
「お前は午後の講義に出るんだろう? 俺は教師と話してから、夕方にまた迎えに来るよ」

「うん、ありがとう。……また後でね」

そう言って別れようとすると、ふいに彼が軽く私の手を握る。周囲には生徒たちがいるが、目はあまり気にしていない様子だ。私が戸惑うほど、以前のクールな王子像とは変わったと思う。
「セレナ……またあとで。あんまり無理するなよ」

小さな声でそれだけ言い、彼は教師の待つ職員室棟へ向かっていく。私は頬を熱くしながら、周囲の視線を感じつつ教室へ入る。――すると、クラスメイトたちが一斉に私を見て固唾をのんでいるのがわかる。
恥ずかしいが、ここで曖昧に逃げるわけにはいかない。私は胸を張り、自然な微笑みをつくる。

「お久しぶり。私も今日からまた学園に通うわ。よろしくね」

クラスメイトの何人かが「セ、セレナ様、お帰りなさいませ」などと慌てて挨拶し、すぐにまた自分の席へ戻っていく。――リリィがいた頃とは空気が全然違う。今や私が“クラスの象徴”のような扱いを受けているのだ。
かつてなら「悪役令嬢」と揶揄され、皆から怯えられていたのに……と思うと、不思議な感慨が込み上げる。何よりもリリィの姿がないクラスは、とても静かで、平和だ。
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