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【第五章】崩壊する聖女神話、暴かれる嘘
55 悪役令嬢の未来へ――もう二度と無関心じゃない
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後日。リリィは王都近郊の修道院に監禁され、王家から正式に禁術使用の容疑で取調べを受けることになったらしい。聖女の資格は当然剥奪され、彼女に寄り添っていた一部の貴族たちも処分を検討されている。
――王子との政略婚を狙うどころか、今後は王国で生きていくことすら難しい立場に陥るだろう。
学園内では“リリィは倒れて休学した”という表向きの噂が流されているが、いずれ真実が広まるかもしれない。――私が直接関与していることも、ある程度は知れ渡るだろう。
けれど、もう怖くはない。私は公爵令嬢として、そしてアレクシスの“真の婚約者”として、堂々と学園を卒業するまで過ごすつもりだ。
ある日の放課後、私は中庭の薔薇アーチの下でアレクシスと落ち合う。彼が私を見つけて微笑み、近くのベンチに腰掛ける。少し夕焼けが差し込んだ学園の庭は、平和そのもので、リリィの騒動など遠い昔のように感じられる。
「セレナ、そろそろ卒業後の進路を考えないといけないな。卒業するまであと半年くらいか……。お前はどうする?」
「私は公爵家に戻るけど、当然王宮にも通うことになるわね。あなたが呼んでくれれば、いつでも出向くわ」
私が率直に答えると、彼は少し照れたようにうなずく。
「俺も、正式にお前を后(きさき)に迎えるタイミングを考えるよ。父王はゆっくりでいいと言ってるが……早く一緒に暮らしたい気もする」
こんな甘い言葉を平然と口にするようになった彼は、もはや私が思っていた“冷徹王子”ではない。むしろ、不器用なほど一途な青年だ。
私のほうも、かつての“クールな悪役令嬢”の仮面を脱ぎ捨てて、正直な気持ちをさらけ出すことに抵抗がなくなっている。
「そうね……。もし私が后になるなら、もう少し女性としての嗜みも勉強しなくちゃ。あなたの隣に立って恥ずかしくないようにね」
「お前はそのままで十分だと思うが……。ま、俺も王としての学びを深める必要があるな。平和のために何ができるのか、リリィの事件を教訓にして考えたい」
そうして穏やかに未来を語り合う私たちを、ノエルが少し離れた場所から見守っている。彼の表情はどこか複雑そうだが、私に嫌な感情を抱いているわけではないようだ。
やがて私たちは立ち上がり、夕陽に染まる学園を並んで歩く。――今、この瞬間、私は確信している。もう二度と“無関心”ではいられないと。
リリィが抱いていた“ヒロイン”の意地や執着とは違い、私はアレクシスを自分の意志で選んだ。だから、この世界の運命がどう変わろうと、私たちが紡ぐストーリーは私たち自身で作り上げていけるのだ。
あのゲームのセオリーから逸脱し、悪役令嬢が勝ち取った未来――それこそが“私の物語”に他ならない。
(崩壊した聖女神話、暴かれたリリィの嘘。すれ違いと無関心から始まった私たちの愛は、ここに一つの形を得た。だけど、きっとまだ続く)
私はそっとアレクシスの腕に触れ、笑みを浮かべる。彼もまた笑い返し、私の手を包む。前世から憧れた“誰かと手をつないで歩く”幸せが、こんなにもリアルなものになるとは……。
夕暮れの校舎を抜け、私たちは学園の門をくぐる。そこにはもう、リリィの影も“ヒロイン”のご都合展開も存在しない。――私たちは私たちの足で、新しい世界へ踏み出すのだ。
もう決めたの。私は悪役令嬢でも、あなたを愛するわ。あなただって、最初から私しか見てなかったんでしょう?――なら、何の問題もないじゃない。
そう心で呟きながら、私はアレクシスと並んで歩く。
“崩壊する聖女神話、暴かれる嘘”――その先にあるのは、“悪役令嬢”だった私が誰よりも遅れて燃え上がる、本当の恋。
まだ道半ばだが、確かな幸福を感じながら、私たちは静かに校門を出た。夕陽がオレンジ色に照らす街道の向こうには、きっと予想もつかない未来が待っているだろう。
――王子との政略婚を狙うどころか、今後は王国で生きていくことすら難しい立場に陥るだろう。
学園内では“リリィは倒れて休学した”という表向きの噂が流されているが、いずれ真実が広まるかもしれない。――私が直接関与していることも、ある程度は知れ渡るだろう。
けれど、もう怖くはない。私は公爵令嬢として、そしてアレクシスの“真の婚約者”として、堂々と学園を卒業するまで過ごすつもりだ。
ある日の放課後、私は中庭の薔薇アーチの下でアレクシスと落ち合う。彼が私を見つけて微笑み、近くのベンチに腰掛ける。少し夕焼けが差し込んだ学園の庭は、平和そのもので、リリィの騒動など遠い昔のように感じられる。
「セレナ、そろそろ卒業後の進路を考えないといけないな。卒業するまであと半年くらいか……。お前はどうする?」
「私は公爵家に戻るけど、当然王宮にも通うことになるわね。あなたが呼んでくれれば、いつでも出向くわ」
私が率直に答えると、彼は少し照れたようにうなずく。
「俺も、正式にお前を后(きさき)に迎えるタイミングを考えるよ。父王はゆっくりでいいと言ってるが……早く一緒に暮らしたい気もする」
こんな甘い言葉を平然と口にするようになった彼は、もはや私が思っていた“冷徹王子”ではない。むしろ、不器用なほど一途な青年だ。
私のほうも、かつての“クールな悪役令嬢”の仮面を脱ぎ捨てて、正直な気持ちをさらけ出すことに抵抗がなくなっている。
「そうね……。もし私が后になるなら、もう少し女性としての嗜みも勉強しなくちゃ。あなたの隣に立って恥ずかしくないようにね」
「お前はそのままで十分だと思うが……。ま、俺も王としての学びを深める必要があるな。平和のために何ができるのか、リリィの事件を教訓にして考えたい」
そうして穏やかに未来を語り合う私たちを、ノエルが少し離れた場所から見守っている。彼の表情はどこか複雑そうだが、私に嫌な感情を抱いているわけではないようだ。
やがて私たちは立ち上がり、夕陽に染まる学園を並んで歩く。――今、この瞬間、私は確信している。もう二度と“無関心”ではいられないと。
リリィが抱いていた“ヒロイン”の意地や執着とは違い、私はアレクシスを自分の意志で選んだ。だから、この世界の運命がどう変わろうと、私たちが紡ぐストーリーは私たち自身で作り上げていけるのだ。
あのゲームのセオリーから逸脱し、悪役令嬢が勝ち取った未来――それこそが“私の物語”に他ならない。
(崩壊した聖女神話、暴かれたリリィの嘘。すれ違いと無関心から始まった私たちの愛は、ここに一つの形を得た。だけど、きっとまだ続く)
私はそっとアレクシスの腕に触れ、笑みを浮かべる。彼もまた笑い返し、私の手を包む。前世から憧れた“誰かと手をつないで歩く”幸せが、こんなにもリアルなものになるとは……。
夕暮れの校舎を抜け、私たちは学園の門をくぐる。そこにはもう、リリィの影も“ヒロイン”のご都合展開も存在しない。――私たちは私たちの足で、新しい世界へ踏み出すのだ。
もう決めたの。私は悪役令嬢でも、あなたを愛するわ。あなただって、最初から私しか見てなかったんでしょう?――なら、何の問題もないじゃない。
そう心で呟きながら、私はアレクシスと並んで歩く。
“崩壊する聖女神話、暴かれる嘘”――その先にあるのは、“悪役令嬢”だった私が誰よりも遅れて燃え上がる、本当の恋。
まだ道半ばだが、確かな幸福を感じながら、私たちは静かに校門を出た。夕陽がオレンジ色に照らす街道の向こうには、きっと予想もつかない未来が待っているだろう。
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