転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球

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【第五章】崩壊する聖女神話、暴かれる嘘

52 夜明け前の静寂――王子と小さな誓い

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打ち上げパーティが終わったのは夜半過ぎ。片づけを手伝いながら、私とアレクシスは最後まで残っていた。学園の先生方も暗黙の了解で見逃してくれており、生徒たちは思い思いに語り合ってから寮や自宅へ戻る。
ノエルは気遣って「お先に失礼します」と去り、私とアレクシスだけが校舎の裏門付近を歩いていた。提灯の頼りない明かりだけが足元を照らす。
お互い、今夜はいろいろありすぎて、まだ興奮が冷めやらない。火傷の痛みもあるが、なぜか眠れる気がしないのだ。

「セレナ……少し休んだほうがいいんじゃないか? お前の怪我、心配だ」

「大丈夫よ。ひどい火傷でもないし、今は痛み止めも効いてるから。……それより、あなたこそ眠らなくて平気?」

「俺も同じだ。こんな夜は、すぐに眠れそうにない……」

そう言い合いながら、二人で裏門の前のベンチに腰を下ろす。時折吹く夜風が熱気を洗い流してくれる。遠くの空が少しずつ薄明るくなってきた気がする。祭の余韻に浸りながら、もうすぐ夜が明けるのだ。

「本当に、いろいろあった学園祭だったわね……。リリィは暴走するし、私も怪我するし。それでも、最後はあなたと踊れて……」

言いかけて、感慨が込み上げ、声が震える。アレクシスはそんな私をそっと抱き寄せるように肩に手を回してくる。
「お前が転生者だなんて、未だによくわからないが……こうして感じる温もりは本物だ。俺はもう、自分の気持ちに嘘はつかない。お前を……誰よりも大事にしたい」

ああ、そんな言葉を聞かされるたび、胸が苦しくなる。私も本当は、ちゃんと好意を抱いているのに、まだ戸惑いが拭えない。悪役令嬢として転生した私が、王子と幸せになっていいのか?
それでも、アレクシスは待っていてくれる気がする。だから、私はいつかちゃんと彼に“好き”と言えるはずだ。

「……私も、あなたのこと……大切に思ってるわ。最初は興味なんてなかったけど、こうして助け合ってるうちに、いつの間にか離れられない存在になってしまった」

そう白状すると、アレクシスは苦笑し、私の頬に手をやる。
「素直じゃないところが、お前らしいよ。……でも、ありがとな」

ふと沈黙が訪れる。お互い、これ以上言葉はいらないと思うくらい、穏やかで心地よい空気が流れていた。
頭上に星が瞬き、東の空が青みを帯び始める。まるで新しい日が訪れるのを告げるように。

私はそっと心の中で誓う。――リリィとの闘いを経て、私の運命は変わった。前世の私にはなかった絆や感情を知った以上、もう同じ場所には戻れない。
悪役令嬢だったかもしれない私が、これから王子と“無関心同士”のすれ違いを解消し、本当の愛を育んでいく。――その道は、他の誰でもない私たちが選び取った未来なのだと。

アレクシスと肩を寄せ合いながら、ゆっくりと東の空を見上げる。やがて、一番星がかすかに消え、夜明けの光が差し込み始めた。
学園祭の最後の夜が終わる。けれど、私たちの物語はこれから先、まだまだ紆余曲折を迎えることになるだろう。王家の思惑、リリィの罪、そして公爵令嬢としての責任……いずれにしても、一筋縄ではいかない。

しかし私はもう逃げない。アレクシスの手の温かさを感じる限り、私はここで踏みとどまって、悪役令嬢としての定めを超える道を歩んでいく。
――リリィの“聖女神話”は崩壊したが、私にとっての“本当の愛”はこれからだ。まだ遠い先にある未来へ向け、私は彼と共に明るい空を見上げる。

(ありがとう、転生してくれて。ありがとう、アレクシス……。悪役だとしても、私の人生は私が選ぶ。誰にも奪われるものか)

そう心で呟き、私は彼の肩にもたれるようにして、ゆっくりと夜明けを待った。
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