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【第四章】学園祭は、あなたと
34 祭の幕開け――色めく学園と“噂”の波
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朝の光が学園を照らし、いつもよりも浮き立つ空気を感じた。
王立学園で一年に一度行われる最大行事“学園祭”――その準備期間がついに佳境に入っている。校内には華やかな飾り付けが施され、通りには屋台用のテントが組み上げられ、各クラスやサークルが競うように企画を立ち上げていた。
廊下を歩くだけでも、文化祭前の高校のような(もっとも前世の日本の感覚だけれど)ワクワクとした熱量が伝わってくる。だが、私――セレナ・ルクレールは一筋縄では行かない気配を覚えていた。なにしろ、この世界は乙女ゲームの舞台。学園祭も“恋愛イベント”の宝庫であることは間違いないのだ。
「今年の学園祭は、いつにも増して盛り上がりそうね」
私が何気なく言葉を漏らすと、隣を歩いていたノエルが淡々と頷く。
「ええ、貴族の若い方々が積極的に出店を出すだけでなく、平民出身の生徒も食堂や演劇の出し物を盛り上げています。祭当日には保護者や市民の見学も許可されますから、相当な人出になるかと」
その一方で、ノエルの声はどこか警戒を含んでいる。彼は私の従者として、不測の事態に備えていつも神経をとがらせているのだ。
「セレナ様、リリィ嬢も大規模な“聖女の祈り”を祭のメインステージで行う予定とか。殿下に承諾を求めているらしく、詳しい話はおいおい発表されるそうです」
「やっぱり彼女、派手にやるつもりなのね……」
かすかな苛立ちを感じながら、私は返事をする。リリィが‘聖女’として光を浴びるイベントを学園祭で展開する――噂どおり、王家がそれを後押しする流れになれば、リリィの評価は一気に高まるだろう。
もっとも、アレクシスが同席するとは限らない。彼は私を舞踏会のパートナーに選ぶ、と明言しているし、おそらくそこは覆らないはず。
しかし、リリィが本当に“奇跡”を使いこなすのであれば、多くの人々が感嘆し、一夜にして聖女の地位を確固たるものにしてしまうかもしれない。そうなると、王家や貴族たちも逆らいがたい流れを作られてしまう可能性が高い。
「このままじゃ、まるで私のほうが脇役ね。……悪役令嬢として舞踏会で騒ぐ程度じゃ、リリィを倒しきれないかもしれないわ」
なんとなく自嘲気味に言うと、ノエルは「そんなことありません」ときっぱり返す。
「セレナ様は、すでに殿下から‘パートナー’と公言されている。それがどれだけ強い意味を持つか……学園の者たちはみな理解しているはずです」
ほかでもない王子が『公爵令嬢セレナと舞踏会に臨む』と示すことの影響力――それは、リリィが聖女のステージで注目されようとも、十分に拮抗しうる。私への悪評も一挙に払拭できるかもしれない。
でも、私はまだ気が抜けない。転生者として、そして“悪役令嬢”として、油断しては負けるという意識が染みついているのだ。
そんな思考に耽っていると、廊下の先でアレクシスがこちらを見つけて手を挙げた。相変わらず目立つ存在で、周囲の生徒から憧れの眼差しが集中している。
「セレナ、ノエル。ちょうどよかった、両名とも来てほしいところがある」
彼が私たちに声をかけると、周囲の視線が一層こちらに集まり、女子生徒たちは軽い羨望のため息を漏らす。
――王子から名指しで呼ばれるなんて、普通の乙女ゲームならヒロインの特権だろう。それを私が受けているのだから、そりゃ目立つわけだ。
「なにか用事? まさかリリィ絡みの話?」
私が問いかけると、アレクシスは少し眉を下げて首を横に振る。
「いや、リリィの件はまた別だ。……今は、学園祭の舞踏会会場について確認したい。貴族の令嬢方が意見を出し合っているようだが、どうにも収拾がつかなくなりつつあるらしい」
ああ、これは私も噂で聞いていた。各家の令嬢が自分の趣味や家名をアピールしようと企画を持ち寄り、舞踏会のテーマを巡って対立しているらしいのだ。お飾りや音楽、会場のレイアウトまですべて決めようと、それぞれ好き放題言い合っているらしい。
要は、誰が“主役”として君臨できるかの争い。学園祭の舞踏会は、上流階級のデビュタント的な意味合いもあるから、みんな気合を入れているのだろう。
「なるほど。みんなで意見をまとめてる最中なのに、纏まらないってわけね。……私が顔を出せば、ちょっとは落ち着くかしら?」
公爵令嬢としての立場を活かせば、多少は意見をまとめられるかもしれない。アレクシスも「それを期待している」と頷いてみせる。
「お前には迷惑をかけるが……頼む。俺が口を出すと、‘王子のお気に入りはこの家の趣向だ’ などと余計に混乱を呼びそうだからな」
そんなわけで、私はノエルを連れ、アレクシスとともに舞踏会の準備が行われているホールへと向かうことになった。
祭の華やかさと、リリィとの暗闘。――私の運命が、また少し忙しなく動きだした。
王立学園で一年に一度行われる最大行事“学園祭”――その準備期間がついに佳境に入っている。校内には華やかな飾り付けが施され、通りには屋台用のテントが組み上げられ、各クラスやサークルが競うように企画を立ち上げていた。
廊下を歩くだけでも、文化祭前の高校のような(もっとも前世の日本の感覚だけれど)ワクワクとした熱量が伝わってくる。だが、私――セレナ・ルクレールは一筋縄では行かない気配を覚えていた。なにしろ、この世界は乙女ゲームの舞台。学園祭も“恋愛イベント”の宝庫であることは間違いないのだ。
「今年の学園祭は、いつにも増して盛り上がりそうね」
私が何気なく言葉を漏らすと、隣を歩いていたノエルが淡々と頷く。
「ええ、貴族の若い方々が積極的に出店を出すだけでなく、平民出身の生徒も食堂や演劇の出し物を盛り上げています。祭当日には保護者や市民の見学も許可されますから、相当な人出になるかと」
その一方で、ノエルの声はどこか警戒を含んでいる。彼は私の従者として、不測の事態に備えていつも神経をとがらせているのだ。
「セレナ様、リリィ嬢も大規模な“聖女の祈り”を祭のメインステージで行う予定とか。殿下に承諾を求めているらしく、詳しい話はおいおい発表されるそうです」
「やっぱり彼女、派手にやるつもりなのね……」
かすかな苛立ちを感じながら、私は返事をする。リリィが‘聖女’として光を浴びるイベントを学園祭で展開する――噂どおり、王家がそれを後押しする流れになれば、リリィの評価は一気に高まるだろう。
もっとも、アレクシスが同席するとは限らない。彼は私を舞踏会のパートナーに選ぶ、と明言しているし、おそらくそこは覆らないはず。
しかし、リリィが本当に“奇跡”を使いこなすのであれば、多くの人々が感嘆し、一夜にして聖女の地位を確固たるものにしてしまうかもしれない。そうなると、王家や貴族たちも逆らいがたい流れを作られてしまう可能性が高い。
「このままじゃ、まるで私のほうが脇役ね。……悪役令嬢として舞踏会で騒ぐ程度じゃ、リリィを倒しきれないかもしれないわ」
なんとなく自嘲気味に言うと、ノエルは「そんなことありません」ときっぱり返す。
「セレナ様は、すでに殿下から‘パートナー’と公言されている。それがどれだけ強い意味を持つか……学園の者たちはみな理解しているはずです」
ほかでもない王子が『公爵令嬢セレナと舞踏会に臨む』と示すことの影響力――それは、リリィが聖女のステージで注目されようとも、十分に拮抗しうる。私への悪評も一挙に払拭できるかもしれない。
でも、私はまだ気が抜けない。転生者として、そして“悪役令嬢”として、油断しては負けるという意識が染みついているのだ。
そんな思考に耽っていると、廊下の先でアレクシスがこちらを見つけて手を挙げた。相変わらず目立つ存在で、周囲の生徒から憧れの眼差しが集中している。
「セレナ、ノエル。ちょうどよかった、両名とも来てほしいところがある」
彼が私たちに声をかけると、周囲の視線が一層こちらに集まり、女子生徒たちは軽い羨望のため息を漏らす。
――王子から名指しで呼ばれるなんて、普通の乙女ゲームならヒロインの特権だろう。それを私が受けているのだから、そりゃ目立つわけだ。
「なにか用事? まさかリリィ絡みの話?」
私が問いかけると、アレクシスは少し眉を下げて首を横に振る。
「いや、リリィの件はまた別だ。……今は、学園祭の舞踏会会場について確認したい。貴族の令嬢方が意見を出し合っているようだが、どうにも収拾がつかなくなりつつあるらしい」
ああ、これは私も噂で聞いていた。各家の令嬢が自分の趣味や家名をアピールしようと企画を持ち寄り、舞踏会のテーマを巡って対立しているらしいのだ。お飾りや音楽、会場のレイアウトまですべて決めようと、それぞれ好き放題言い合っているらしい。
要は、誰が“主役”として君臨できるかの争い。学園祭の舞踏会は、上流階級のデビュタント的な意味合いもあるから、みんな気合を入れているのだろう。
「なるほど。みんなで意見をまとめてる最中なのに、纏まらないってわけね。……私が顔を出せば、ちょっとは落ち着くかしら?」
公爵令嬢としての立場を活かせば、多少は意見をまとめられるかもしれない。アレクシスも「それを期待している」と頷いてみせる。
「お前には迷惑をかけるが……頼む。俺が口を出すと、‘王子のお気に入りはこの家の趣向だ’ などと余計に混乱を呼びそうだからな」
そんなわけで、私はノエルを連れ、アレクシスとともに舞踏会の準備が行われているホールへと向かうことになった。
祭の華やかさと、リリィとの暗闘。――私の運命が、また少し忙しなく動きだした。
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