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第一章
15ーグラムsideー
しおりを挟むーグラムsideー
「…厨房に何かご用でした?甘いものでしたら、言っていただければ俺が…」
「グラムが食べるの!」
………聖女様は予想外の回答をした。
「へ……?」
「だから!グラムが食べるのよ!」
…………俺が、食べ、る……?
意味を理解するのに、数秒かかった。
……いままで搾取されることはあっても、与えられることなどなかったから………。
俺が物心つく頃には、前の聖女様が聖女に君臨していた。
…けれど、前の聖女様と俺のお仕えしている聖女様は明らかに違う…。
孤児で、黒髪で、光魔法も初歩魔法しか使えない下っぱの俺にこんなに優しくしてくださる。
甘味……。
クリスマスや感謝祭に他の子がクッキーやマフィンを美味しそうに頬張るのを見て、うらやましく思った事がなかった訳ではない…。
けれど、食べなくても生きてこれた。
……戦争で困窮していた時代はそもそも食べるのに困っていたし…。孤児院に引き取られてからも、黒髪だという理由で最低限の食事しか与えられなかった。
孤児院は神殿が管理しているから、黒髪の子を忌むのは理解できる…。
光魔法が使えると言う理由で神殿に連れて来られてからも、それは続いていた…。
…ただ生かされているだけの人生だった。
聖女が黒髪を嫌うなら、俺は神にも見放された存在だと思っていた。
前の聖女様がお亡くなりになり、次の聖女様を召喚すると聞いた時、あの悪夢がまた始まるのだろうと思った。
それなのに…。
召喚の儀でチラリと盗み見た聖女様は、長い美しい黒髪の女性で。
(……俺と同じだ)
゙聖女"という存在をあんなに恐れていたというのに。……不思議な感覚がした。
目が合った瞬間、その一瞬で捕らわれてしまったような感覚…。
…しかし、神殿内にどれだけの神官がいる…?
しかも、俺は下っぱ中の下っぱ…
彼女と関わることもないだろう。
そう思っていたのに…。
運命とは不思議なもので…
…俺はかけがえのない、一生の主に出会えた。
彼女はまるで不思議な人だった。
「…ありがとう、ございます」
「………え、ちょ。やだ、泣かないでよ?」
………俺は貴女に会えて良かった。
本当に心の底から、そう思っているんです。
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