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風狐と風雅一族
第12話 不思議な出会いと翡翠の泉
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その風狐には、屋敷すぐ近くにある森の中で出会った。火の国では良く見掛け、神の使いとされている妖狐の一種である風狐を間近で見たのはその時が初めてで、興奮したのを覚えている。
目の高さを合わせようとしゃがみこむと、薄茶の毛の中に薄緑の毛が混じった愛らしいその子狐は自らその短い足でてくてくと歩み寄って来た。
近付いてきたその子狐へゆっくりと腕を回してみれば、怖がる様子もなく大人しく私の腕の中に収まった。
可愛いやつだと思いながら頭を優しく撫でれば気持ち良さ気に目を細めるその姿を見ていると、ずっと感じていたストレスや焦燥感が霧の様にサッと晴れていく気がした。
このままずっと一緒にいてくれればいいのに、と無理な願いを考えてしまう。
すると子狐は、まるで私の切なさを感じ取ったのか不意に顔をペロペロと舐めてきた。
慰めてくれた子狐にありがとうとお礼を言い、近くの古株に座って膝上に乗せた。
「お前、親や群れの仲間はどうしたんだ?もしかして逸れたのか?」
例え風狐と言ってもまだ子狐だ。親から離れてしまえばこの森はすぐさまこの子狐に牙を剥くだろう。
そう思い、言葉は通じないだろうと内心考えながら話し掛けた。
すると子狐は私の言葉を理解したのかしていないのか、首を傾げるとスラリと膝上から飛び降りた。
もう行ってしまうのかと、胸が苦しくなる様な気がしたがそれを抑えて子狐を見送ろうと目を向けると、少し離れた所にこちらを振り返る姿があった。私がその姿を捉えたのを確認した後、数歩進みまた振り返る。
それはまるでおいでと私を誘っている様で、その愛らしさに負けた私は子狐について行く事にした。
それから幾らか経たった頃、子狐は足を止めた。先程までとは違い、振り返るのではなく完全に足を止めたのだ。
どうしたのかと子狐の視線を辿ってみる。
そしてその先にあるものを見て、私は瞳を輝かせた。
そこに有ったのは大きな大きな泉であった。森の中に隠れる様にして存在するその泉は木漏れ日を浴びてキラキラと輝いていて、何処か神々しさまでも垣間見える。一切の濁りもなく透き通る水は、美しい翡翠の色をしていた。
私は暫く、その美し過ぎる光景に見惚れていたのだった。
目の高さを合わせようとしゃがみこむと、薄茶の毛の中に薄緑の毛が混じった愛らしいその子狐は自らその短い足でてくてくと歩み寄って来た。
近付いてきたその子狐へゆっくりと腕を回してみれば、怖がる様子もなく大人しく私の腕の中に収まった。
可愛いやつだと思いながら頭を優しく撫でれば気持ち良さ気に目を細めるその姿を見ていると、ずっと感じていたストレスや焦燥感が霧の様にサッと晴れていく気がした。
このままずっと一緒にいてくれればいいのに、と無理な願いを考えてしまう。
すると子狐は、まるで私の切なさを感じ取ったのか不意に顔をペロペロと舐めてきた。
慰めてくれた子狐にありがとうとお礼を言い、近くの古株に座って膝上に乗せた。
「お前、親や群れの仲間はどうしたんだ?もしかして逸れたのか?」
例え風狐と言ってもまだ子狐だ。親から離れてしまえばこの森はすぐさまこの子狐に牙を剥くだろう。
そう思い、言葉は通じないだろうと内心考えながら話し掛けた。
すると子狐は私の言葉を理解したのかしていないのか、首を傾げるとスラリと膝上から飛び降りた。
もう行ってしまうのかと、胸が苦しくなる様な気がしたがそれを抑えて子狐を見送ろうと目を向けると、少し離れた所にこちらを振り返る姿があった。私がその姿を捉えたのを確認した後、数歩進みまた振り返る。
それはまるでおいでと私を誘っている様で、その愛らしさに負けた私は子狐について行く事にした。
それから幾らか経たった頃、子狐は足を止めた。先程までとは違い、振り返るのではなく完全に足を止めたのだ。
どうしたのかと子狐の視線を辿ってみる。
そしてその先にあるものを見て、私は瞳を輝かせた。
そこに有ったのは大きな大きな泉であった。森の中に隠れる様にして存在するその泉は木漏れ日を浴びてキラキラと輝いていて、何処か神々しさまでも垣間見える。一切の濁りもなく透き通る水は、美しい翡翠の色をしていた。
私は暫く、その美し過ぎる光景に見惚れていたのだった。
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