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第40話 接触貧乳

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「この町か」

  ローラ様から依頼を受けた俺は、ネメシスラという町にやって来ていた。
  この町は俺の住む国トリアドと隣国バルネスとの国境ぞいにある町だ。
  町はバルネスの軍が攻めてきても耐えられるように強固な城壁で囲まれている。
  俺の目的は、その町を治める貴族ドットーレ家の調査だった。
  ドットーレ家は裏でバルネスと繋がっていて、色々と工作活動に協力してきた疑惑があるそうだ。
  俺が戦った強盗団もそうやって活動資金を得ていたらしい。

  そして前回戦ったミニオンモンキーもそうだ。
  あの魔物は本来バルネスとの国境付近にある森に住む魔物で、王都付近にはいない筈の魔物だった。
  ミニオンモンキーを殲滅した後、その事を不審に思ったローラ様が徹底的に調査する様に命じた。
  その結果、妙にうるさい動物の鳴き声がする馬車を見たとの情報が入った。
  それは王都付近の町にある宿屋の従業員からの証言だった。その人いわく、馬車置き場の掃除をしていたらへんな泣き声が聞こえた気がした。最初は気のせいかと思ったのだが、ガコンという音と共に急に大きな鳴き声が聞こえてきて、慌てて宿の主人を呼びにいったとの事だ。
  ペットとして売る為の動物が入っていた容器に穴が開き、そこから泣き声が漏れていたという話だったらしいが。
  ローラ様は、時期的に考えてソレがミニオンモンキーの入っていた容器だと判断した。
  そしてその馬車が流れてきたルートを辿ると、この町に繋がっていたという訳だ。

  ◆ 

  トリアドはバルネスとは定期的に戦っている。
  互いの国力が疲弊すると、どちらからとも無く休戦を申し出て数年間は平和になるのだとか。
  ただ、その間はお互い影で行動して互いの国力を削りあうらしい。
  休戦を行う際にどれだけ国力が残っているかで休戦の時に有利な条件がつけれるからだとか。
  だから強盗団を使って村々を滅ぼそうとしたり、魔物を使って深刻な被害を出そうとしていたようだ。
  そうした証拠をドットーレ家から見つけ出し、ロ-ラ様に報告するのが俺の役目だ。

 「ライト様、早く行きましょう」

  町を見ながら考え事をしていた俺に、リップが語りかける。
  そう、俺はこの町にリップだけを連れてやって来ていた。
  彼女は連絡役兼斥候役として校長から派遣されてきたのだ。
  ローラ様も校長の推薦があった為、俺の従者として付いていく事を許可した。
  かなり苦々しい顔をしていたが。

 「そうだな。ここでじっとしていても意味は無いし、行くか」

  虎穴にいらずんば虎児を得ずである。

  ◆

「賑わっていますねー」

 「だな」

  俺達は入場料を支払い、町の中に入った。
  基本壁があるような大きな町は入場料を求められる。
  これは壁を維持するためであり、魔物や盗賊から護ってやるから金払えという事だ。

  この町は隣国が近い為、ドーレンの町では見かけなかった品が多い。
  それに王都にある品よりも安いな。
  多分輸送費があまりかかっていないからだろう。

 「まずは宿か」

 「こんな昼間からなんてハズかしいです」

  リップが頬を染める。

 「アホな事いうな。ただの寝床確保だ」

  軽く小突いてやった。

 「冗談ですよぉー」

  大げさに頭を抱えて痛がるリップ。
  大げさなヤツだ。

  ◆

 手近な宿を取った俺達は作戦会議としゃれ込む。

 「それでこれからどうするんですか?」

 「貴族の娘をコマす」

 「イキナリ最悪の答えが帰ってきましたよ」

  ジト目で俺を睨むリップ。

 「いや、真面目な話だ。ドットーレ家がどこか探したら怪しまれるだろう? だから適当にぶらついて見つけた貴族の娘と仲良くなって、そこから他の貴族を紹介してもらおうと思ってさ」

 「本気で言ってます? 今のご主人様は貴族ではなく、ただの冒険者なんですよ」

  リップの言いたい事は分かる。
  今の俺は相手を警戒させない様に平民として行動している。
  普通に考えれば貴族の娘と仲良くなるなんて不可能だ。
  普通ならな。
  だが俺には【貧乳モテ】スキルがある。だから顔さえ合わせてしまえば相手を虜に出来る自信があるのさ!

 「俺にまかせておけ!」

  という訳で俺は早速町の中を散策する事にした。

  ◆

 で、俺はいまドットーレ家にいる。
  貴族の娘を探して高級住宅街を彷徨っていたら、偶然ドットーレ家の人間と遭遇してしまったのだ。
  不審者として護衛に警戒されたが、道に迷ったと伝えた所、後で宿まで送るから話を聞かせて欲しいといわれて屋敷に案内された。
  後で分かった事だが、ネメシスラは隣国と近すぎる為、ドットーレ家しか貴族がいないのだそうだ。
  好き好んで敵対する国が近い国境沿いの町に住むヤツは居ないって事だ。
  だから貴族を探すとドットーレ家しか見つからない訳だ。ドーレンの町は貴族が多かった事を考えるとこっちは気楽で良いね。

 「僕はこの町の外から出た事がない。だから是非ともラッドさんの体験した旅のお話を聞かせて欲しいんです!」 

  ドットーレ家の一人息子サミア=ドットーレが目をキラキラさせながら俺の話を求めてくる。
  サミアは美しく、男と知らなければ女の子と勘違いしていただろう。その位可愛かった。
  だが彼は男だった。男だったのだ。ドットーレ家の子供は男だったのだ。
  【貧乳モテ】スキルで篭絡するという俺の計画は一瞬で崩壊した。そうだよね、子供が貧乳の娘とは限らないよね。
  男だった事は仕方がない、俺は彼を利用して多くの情報を得ようとした。
  だが彼の傍にいる護衛がソレを許してはくれなかった。
  彼等はどこの馬の骨とも知れないオレとサミアが二人きりにならないように、必ず一人は護衛についていたからだ。
  まぁ当然だわな。
  なのでここは大人しくサミアが望む冒険の話をしてやった。
  最初はつまらない仕事から始めた事、仲間達と協力してランクを上げていった事、初めて危険な魔物を退治した事。
  オレの他愛ない話を聞く度にサミアが目をキラキラさせため息を吐く。
  それだけ外の情報に飢えているのだろう。
  無理も無い、ドーレンの町はレッカ遺跡の利権を得る為、多くの貴族が住んでいた。そのお陰で貴族の子供同士で遊ぶ事が出来たが、サミアはこの町でたった一人の貴族の子供だ。
  遊びたくても相手が居ないのだろう。
  だから俺が仲間の話をする度にサミアの瞳は輝きを増した。
  もしかしたら冒険者に憧れているのかもしれない。

  ◆

「サミア様。稽古のお時間でございます」

  護衛の一人がサミアに語りかける。
  ソレを聞いたサミアは嫌そうな顔をしたが、渋々その言葉に従った。

 「わかったよ。ごめんなさいラッド様、せっかく来て頂いたというのに」

 「いえいえ、楽しんで頂けたのなら何よりです」

  サミアが躊躇いがちに俺を見る。

 「その、ラッド様は何時までこの町に?」

 「もう数日はこの町に滞在しますよ。旅費も稼がないといけませんからね」

  オレの言葉に顔をほころばせるサミア。
  心なしか瞳が潤んでいる気がする。

 「それは良かった! またお会いして頂けますか?」

 「ええ、かまいませんよ。御用があれば【鉄壁のゆりかご亭】までご連絡下さい」

  こうして俺はドットーレ家の跡継ぎ息子とのファーストコンタクトに成功した。
  問題はこの後だな。
  町への滞在期間はあまり長く出来ない。
  その間に町を調べ、サミアを篭絡して情報を手に入れなければ。
  その為にも護衛をなんとかしないとな。
  よし、ここは彼の冒険への憧れを刺激させて貰うとするか。
  宿に帰った俺は、サミアをおびき寄せる為の餌を用意するのだった。
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