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第16話 姉・合流

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「もくもくもくもく」

  エルの姉がマジャ芋を必死でかき込む。

 「むぐ! むんぐぐぐぐ!!」

 「あーもう、ほら水。ご飯はまだいっぱいあるから慌てないで」

  喉を詰まらせ苦しむ姉に水を差し出すエル。
  コレではどちらが姉か分かったものではない。

 「ゴクゴクゴク、プハーッ!」

  水を飲んで詰まった食事を流し込んだエルの姉は勢い良くテーブルの上のマジャ芋を鷲づかみにする。
  その拍子でエルの姉の豊満な胸がブルンブルンと揺れた。

 「おっほ!」

  思わずその光景に釘付けになるタカヤ。

  エルの姉は長く赤い髪をポニーテールにまとめた健康的な美人だ。
  何より目立つのはその巨大な胸。鍛冶仕事をするからなのか上着はタンクトップ一枚で下も短いスカートという少年のエロスを刺激してやまない恰好だ。
  タカヤの視線が釘付けになっても何の不思議も無い。

  そして数十分後。

 「ごちそーさん! 美味かったよ!」

  エルの姉はテーブルに用意された食事を全て平らげてしまった。
  いや、彼女だけで平らげた訳ではない。タカヤやアリシア、それにイミアも鉱山での戦闘で碌な食事をしていなかった。そしてそれは共に脱走したエルも同じだった。鉱山でまともな食事を与えられなかったエルもまた、その小さな体に見合わぬ量の食事を平らげていたのだ。

 「置いて来たマジャ芋を回収に戻って正解でしたね」

  エルの姉の食事を作る為、タカヤはアリシアに命じて野宿をした場所に置いて来たマジャ芋を回収させていた。
  タカヤと離れる事に強く反対したアリシアだったが、ピーシェンの兵士が逃げ出した事を理由に無理やり回収に向かわせたのだ。
  そうして作った食事の大半がエルの姉の腹に入ってしまったのだから驚きである。

 「いやー食べる物が無くってさー、もう少しで死ぬ所だったよ。ホント誰だか知らないけど助かったよ」

  餓死しかけていたにも関わらずエルの姉はケラケラと笑いながら礼を述べる。

 「もー、姉さんってば、いっつもそうなんだから。もう少し計画性を持って行動してよ!」

  エルが呆れながらも姉をたしなめる。

 「そう言わないでよエル、アタシだってエルが連れて行かれてショックだったんだから。それに追い討ちをかける様に鉱山からの鉄の搬入が無くなった所為でウチは開店休業状態。やる事といったら包丁を研ぐか農具の整備くらい。それもピーシェンのクソ野郎共の所為で食べる物も売る物も取上げられるから皆財布の紐が堅いったらありゃしない」

 「でも貯金は? 何かあった時の為にとって置いたお父さんのお金があったでしょ!?」

  エルに問われると何故かエルの姉は口笛を吹きながら目をそらした。

 「ま、まさか使っちゃったの? 全部!?」

 「いやーははは」

 「一体何に!?」

 「……酒」

 「姉さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 「おぶぶぶぶぶぶぶっ」

  怒ったエルに肩を揺らされてエルの姉が悲鳴を上げる。

 「おおおおぅ!」

  巨大な胸が凄まじい勢いでブルンブルンと揺れてタカヤも歓喜の悲鳴をあげる。

 「っは! エル、落ち着けって」

  タカヤ達がエルを引き剥がすとエルの姉が目を回しながら椅子にもたれかかる。

 「だってさーエルがピーシェンに連れて行かれちゃったんだよ? たった一人の家族なのにさー。もーねー、やってらんなかったんだよ。分かるエル?」

  そう言ってエルの姉はエルをじっと見つめる。

 「そ、そう言われると……」

 「所でさ」

 「何? 姉さん」

 「何でアンタここに居るの?」

 「今さらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  エルは姉を本気で殴った。

  ◆

「なるほどねー、そんな事があったんだ。成る程成る程」

  エルに殴られた後、エルの姉はアリシアの説明を聞いて事の顛末を理解した。

 「だからね、姉さんもタカヤさんに協力して欲しいんだ」

 「いいよ」

  さらりと了承するエルの姉。

 「そりゃイキナリそんな事言われて戸惑うのも仕方ないけど」

 「だから良いよ」

  再度了承するエルの姉。

 「でもタカヤさんに協力するのはピーシェンからこの国を取り戻すのに必要な事なんだよ!」

 「だから良いって」

  も一度了承するエルの姉。

 「何でちゃんと考えずに決めちゃうのさぁぁぁぁぁ!!」

 「だからさっきから良いって言ってたじゃん!!」

 「もっとちゃんと考えてよ。大事な事なんだよ!」

 「分かってるって。この兄さんと一緒に行かないとアタシの命も危ないんだろ? だったら一緒に行くしかないじゃないか。答えなんて始めっから決まってるんだって」

 「そ、そうだけど」

  あっさりと答えた姉の姿に今度はエルがタジタジになる。

 「でも一つ問題がある」

 「問題と言いますと?」

  アリシアの問いにエルの姉が答える。

 「この町は近くにある小さな畑でひっそりと生きてる状態だ。だから食料がドンドン足りなくなってる。取れた野菜もピーシェンの連中が金も払わずに持っくてからなお更なのさ」

 「酷い」

  イミアが怒りに満ちた目で呟く。彼女も生活が出来なくなった事で逃げてきた身。ツーコンの住民の気持ちは痛いほど理解できた。

 「あとアタシは鍛冶屋だ。加工する鉄が無けりゃ仕事が出来ない」

 「あっ!」

  そうだったとエルが頭を抱える。

 「すみませんタカヤさん。僕一番大事な事を忘れていました」

  エルが項垂れながら謝罪をしてくる。
  しかしタカヤはその謝罪を受け入れる事は無かった。

 「それなんだけどさ、良い物があるんだよね」

 「?」

  アリシア達がタカヤの顔を見る。

  ◆

「おおおおおおおおおおおっ!!」

  エルの姉は興奮していた。
  タカヤに連れられて町の外れまでやってきたアリシア達は、タカヤが鉱山から回収した物の正体を漸く知る事が出来たのだ。

 「鉄がこんなに! しかもかなりいい鉄じゃないか!!」

 「姉さんこっちには石炭もあるよ!」

 「でかした!!」

  エル達は目を輝かせながら容器の中を物色して行く。

 「あの箱の中身は鉄だったんですね」

 「鉱山だからな。ただの石を一つ所に仕舞ったりしないと思って持ってきたのさ。

 「さすがタカヤ様!」

  アリシアに褒められてかなり悪くない気分になるタカヤ。

 「コレだけの鉄があれば何だって作ってやるよ!!」

  エルの姉が大はしゃぎしながらやってくる。

 「じゃあ俺達の仲間になってくれるか?」

 「ああ、家臣だって何だってなってやるさ! アタシはオリビア、オリビアでいいよ。ミスもさんもいらない」

 「分かったよオリビア。俺もタカヤで良い」

 「ぼ、僕もタカヤさんの家臣して下さい!!」

  エルも頭を下げてタカヤに懇願してくる。

 「分かった。じゃあ二人は今日から俺の家臣だ!」

 『登録を完了しました。エルはタカヤ=スメラギの鍛冶屋になりました』

 『登録を完了しました。オリビアはタカヤ=スメラギの鍛冶屋になりました』

  いつものマシンボイスがタカヤの耳に届く。

 「後は食べ物の問題だな」

 「それでしたら私がいっぱいお野菜を作ります!!」

  イミアが手を上げて宣言をしてくる。自分もタカヤの役に立ちたくて仕方ないのだろう。

 「でもイミアちゃん。城の前の畑だけじゃ町の人を養うにはとても足りないわ」

 「あっ」

  アリシアに指摘されイミアが悲しそうな顔になる。

 「くそっ! せめて畑に使える土地があれば!」

 「? どういう事だ? 土地ならそこら中にあるじゃないか」

  タカヤはオリビアが悔しがる理由が分からなかった。

 「タカヤ様、この世界では農民は自国の領地でしか食べ物を育てられないのです」

 「だから私はタカヤ様のお屋敷の前の畑でしか食べ物が作れないんです」

 「そんなの常識だろ?」

  アリシアとイミアの説明を聞くタカヤを不思議そうに見るオリビア。

 「ああ、そこら辺は色々あって、まぁ後で説明するよ。それより畑なんだけどさ、さっきの戦闘でピーシェンの兵士が逃げてったらこの町と屋敷までの土地がファーコミンの土地になったみたいだぞ」

 「「「「え?」」」」

  タカヤの言葉を聞いたアリシア達が周囲をきょろきょろと見回す。

 「「「「ホントです(だ)!!」」」」

 「え? 見て分かるモンなのか!?」

  異世界人の感覚に戸惑うタカヤであった。

 「さすがはタカヤ様! こんなに早く町を開放するだなんて!!」

 「コレで食べ物がいっぱい作れます!! 直ぐに畑をお芋でいっぱいにしますね!!」

 「よーし! じゃあ早速町の連中にも伝えないとね!!」

 「僕町長に教えて来る!!」

  エルとオリビアが我先にと町に向けて走り出す。
  士気が高まるアリシアに畑を作るべく燃えるイミア。

 「そろそろチュートリアルも終わって、本格的にバトル開始って感じだな」

  タカヤはこれから始まる激戦の日々をゲーム気分で待ち望むのだった。
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