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第9話 農民・種芋を植える

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 グーと大きな音が鳴った。
 タカヤは音の主を探す。アリシアを見ると彼女は自分では無いと首をブンブンと横に振った。
 となれば残るはひとり、横を向けばイミアが顔を真っ赤にして俯いていた。

「……すみません、もう四日も何も食べていなくて」

 確かに顔色も良くない。もしかしたら栄養失調寸前かもしれない。

「その、悪い。実は俺達も食料が無くてさ、近くの町に買出しに行こうと思っていたんだ」

「そうだったんですか。あの、近くの町まではどれくらいかかるのでしょうか?」

 自身も空腹の為タカヤ達に付いて行きたいのだろう。イミアが町までの距離を聞いてくる。

「3日らしいよ」

「……3日」

 イミアがガクリと崩れ落ちる。その姿は先程のタカヤのとうり二つであった。

「ああ、せめて種芋があれば……」

 イミアがポツリと呟く。

「え? 種芋ならここにあるけど。っつっても不味くて食えたモンじゃないぞ」

「有るんですか! 種芋?」

 突然立ち上がったイミアがタカヤに詰め寄る。

「あ、ああ。ほらコレ、一個は歯型が付いちまってるけど」

「こ、こんなに! これだけあれば直ぐに美味しいお芋が育てられますよ!!」

「いや、それは言い過ぎ……」

「イミアちゃん! 貴方まさか……農民なの?」

 突然大きな声を上げたアリシアに驚くタカヤ。大してイミアは真剣な顔で頷く。

「タカヤ様! この子を国民にしましょう!! 絶対役に立ちますから!! ね、タカヤ様!!」

 それは懇願というには余りにも必死だった。タカヤの肩を掴んでガクガクと揺らしながら説得する姿は、タカヤからしてみれば巨大なおっぱいに命令されているも同義だった。  

「タカヤ様、私、お役に立ちます。だからこのお芋を育てさせてください! お願いします!!」

 少女二人にお願いされしまってはタカヤも駄目とはいえない。
 どの道味方を増やすのは必須と考えたタカヤはソレを受け入れる。

「分かったよ。イミアを俺の国の国民にする。えっと、契約の儀式ってのをすればいいのか?」

 しかしソレを否定する声がタカヤの耳に届く。

『登録を完了しました。イミアはタカヤ=スメラギの農民になりました』

(またこの声か。いったいこの声は何なんだ?)

「タカヤ様! 私を国民にして頂いてありがとうございます!! これからはタカヤ様の為に誠心誠意畑を耕しますから期待しててください!!」

 元気一杯にイミアが挨拶をしてくる。

「ああ、よろしく頼むよ」

「ではタカヤ様。イミアちゃんに種芋を与えてください」

「あ、ああ、分かった」

 アリシアがやたらと機嫌良さそうに言ってくる。
 イミアはタカヤから全ての種芋を受け取ると腰の袋からスコップを取り出す。

「アリシア様、畑は何処ですか?」

 イミアはアリシアに畑の場所を聞くとアリシアは屋敷の手前の土地を指差す。

「屋敷の手前の土地はファーコミンの土地ですので。そこに畑を作ってください」 

 そこは先の戦闘でピーシェンから手に入れた土地だった。

「分かりました!!」

 意気揚々とイミアが平原の土地にスコップで穴を開け芋を植えていく。

「芋を植えたとして育つのは半年後くらいか。どの道食料の買出しは必須だなぁ」

 ソレまでの食料の調達に頭を抱えるタカヤ。しかしアリシアはそう思わなかった。

「半年もかかりませんよ。明日には一杯お芋が食べられますよ!」

「は?」

 イキナリおかしな事を言われて呆然とするタカヤ。

「おいアリシア……」

「アリシア様ー、ジョウロは有りますかー?」 

 畑の中からイミアが聞いてくる。

「はーい。今取ってきますから待ってて下さいねー」

 そう言って屋敷の中に入っていくアリシア。
 そうなると特にする事もなくなるので暇つぶしにとイミアの所に行く。

「なぁイミア。この芋は何ヶ月くらいで出来るんだ? アリシアの奴はなんか一日で出来るとかおかしな事を言ってたけど」

 農民のイミアなら正確な収穫時期が分かる。そう思ったタカヤはイミアに問いかけた。

「ハイ、このお芋なら1日で育ちますよ」

「……は?」

「1日で育ちますが、それが何か?」

「ああ、いや、うん楽しみだな」

「はい!」

(1日ってマジで言ってんのかコイツ等。アリシアはまぁ騎士って言う位だし、貴族だと思うから一般常識を知らないってのは理解できる。でもイミアは農民だろ? もしかしてこの子野菜を育てた事が無いとか? ありうる、凄く不器用とか動物の世話をしたことしかないとかか?)

 普通に考えれば野菜を育てるには長い時間がかかる。
 食べ物を安定して供給できる様にするにはノウハウも必要だ。
 ソレを1日で育つと言われればタカヤでなくとも不安になるというものだ。

「イミアちゃーん、ジョウロもってきましたよー」

「あ、ありがとうございまーす」

 残りの種芋を植えていたイミアが、アリシアから水のタップリ入ったジョウロを受け取る。

「はーい美味しいお水ですよー。皆スクスク育ってねー」

 すると驚愕すべき出来事が起こった。
 なんとイミアが水をかけた直後に地面から芽が出たのだ。

「っ!?」

 驚愕するタカヤ。

「ちょ、芽? 芽が出た? どう言う事? 早い? いや早いとかそう言う問題じゃないだろ?」

 驚きすぎて言葉がまともに出ない。
 そんなタカヤをアリシア達は不思議そうな顔で見る。

「どうされたのですかタカヤ様? 何かおかしな事でも?」

「おかしいっておかしすぎだろ! なんで植えたばっかりの芋から芽が出るんだよ!!」

「それはイミアちゃんが農民だからですよ」

 タカヤは開いた口が塞がらなかった。

(そう言うものなのか? 異世界だからなのか? もしかしてこの世界じゃ農民もアリシアみたいに特殊能力を持っているのか?)

「タカヤ様、これで明日には一杯お芋が食べられますよ!!」

 イミアが待ちきれないといった顔でタカヤに語りかける。
 そのキラキラとした目にタカヤは脱力せざるを得なかった。
 自然とその手はイミアの頭に載せられる。

「ありがとうなイミア」

 そう言って幼子を慈しむ様に頭を撫でるタカヤ。

「……えへへ」

 褒められた事が嬉しかったのか顔を真っ赤にするイミアだった。

「食料の心配も無くなった事ですし、お風呂にしましょうか!」

「オフゥロゥ!!」

 アリシアの突然の爆弾発言にネイティブなイントネーションで反応するタカヤ。

「はい、イミアちゃんかなり汚れていますから。それに私も先の戦闘で埃を被ってしまいましたし」

「う、うん。それじゃあ仕方ないな。よし、オフゥロにしよう!」

 イミアの手を引いて屋敷に戻るアリシア。そしてそれについていくタカヤ。

 ◆

「って、タカヤ様は駄目です!」

 脱衣所に入った所でアリシアに追い出されるタカヤ。

「何でだよ。俺だって汚れてるからオフゥロ入りたいんだけど。卑猥な事は一切ありません」

「何でって、だってタカヤ様は男の方……」

 そういってイミアは顔を赤くする。
 コレだけでも儲けた気分になるタカヤ。だが彼は漢である、漢たるもの時に犠牲を恐れず突き進まなければいけない。

「アリシア、コレは王様命令だ!!」

「「えええええっ!!」」

 驚くアリシアとイミアに畳み掛けるタカヤ。

「いいかいアリシア。俺の故郷では風呂とはただ体を洗う場所じゃない。共に同じ湯で体を洗い、暖め、そして触れ合う事で心の距離を近づける場所でもあるんだ。異世界の風習に抵抗はあるだろう。けれど俺は出会ったばかりの君達ともっと心を触れ合いたいんだ!」

「そ、そうなのですか?」

「はわわわっ」

 でっち上げで作った異世界の常識に混乱するアリシアとイミア。

「だから俺はあえて王の強権を使う。君達と心の底から繋がる深い絆を結ぶ為に!!」

「…………」

「…………」

 アリシアとイミアは言葉を紡ぐ事無くタカヤをチラチラと見ていた。
 顔は真っ赤になり、タカヤと視線が合うと直ぐにそらす。 

「タ、タカヤ様の故郷の風習なのであれば仕方……ない……ですね」

「お、王様の命令です……し」

 二人から肯定の言葉が出る。

「よっし、それじゃあ一緒に入ろう!!」

(やったー! 王様サイコー!! チョロインすぎぃぃぃ! しかしコレで美少女の生着替えが拝めるぞ!! いや着替えだけでなくそれ以上の事だって!!)

 タカヤの妄想は止まらなかった。年相応の欲望なのか、人並みはずれてスケベなのか。
 しいて言えばタカヤはアグレッシブなスケベだった。

「じゃ、早速着替えを、何だったら俺が脱がせて……」

「いえ、タカヤ様がお先にお入り下さい。私共はタカヤ様にお使えする者ですので、主より先に入る訳には行きません」

 真面目だった。二人とも共に風呂に入る事は受け入れたものの、タカヤが先に入るまでは服を脱ぐ事すらしそうにない。
 生着替えを見れなかった事に落胆するタカヤだったが、その先にある天国を考えそうそうに浴室へと入っていった。

「じゃあ、先に入ってるから」 

(ふふふ、これからは目くるめくオッパ、お風呂タイムだ。だがその前にもう1つ重要なイベントがある。それは)

「覗きだ!」

 タカヤは小声で叫んだ。
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