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第7話 少女・素顔を晒す
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「腹減った」
「減りましたねぇ」
心なしかアリシアの前髪に力が無い。
あの後、屋敷中を探して食料を探したのだが、結局食べれる物は見つからなかった。
「やはりアレを食べるしかないのか」
「だ、駄目ですよ! アレは食べれないってタカヤ様も体験したじゃないですか!」
「だがこのままでは餓死するのみ、だったらもう一度チャレンジだ!」
そう言ってタカヤはテーブルの上に乗っていた歯形の付いたジャガイモと思しき食物を口にする。
「ああ!」
これから訪れる未来を予測してアリシアが耳を塞ぐ。
「……まっじぃぃぃぃぃ!!」
「だから言ったのに」
タカヤが食べたのは屋敷に残された種芋だった。
種芋とは通常繁殖用の芋で食用の芋は芽が出ないように処理されている。
これだけ聞くと種芋でも食べて問題ないと思われがちだが通常種芋は味や栄養を維持する為に殺菌処理を施してある。
ジャガイモは本来親芋と同じ味になるがウイルス感染によって味や栄養が劣化する。その為殺菌処理が必要不可欠なのだ。
そうした処理が施されている為に種芋は食用には向かないとされていた。
だがタカヤが食べた種芋の不味さはそう言う問題ではなかった。
まず異常に硬い。そして次に不味い。体が食べるのを拒否する程だ。
「芋は農民が畑に植えて栽培した物でないと食べられないんですよ」
「そう言う問題じゃねぇだろコレ」
たとえこの芋が食用になったとしても食べる事は出来ないと確信するタカヤ。
「とにかくコレが駄目ならどっかに食料を買いに行かないと。アリシア、近くに町は無いのか?」
「それが……」
「何だよ、もしかして無いのか?」
「いえ、あるにはあるのですが、近隣の町も村もピーシェンに支配されているのです。そこに私が行けばあっという間に敵にバレてしまいます」
タカヤは唸った。ピーシェンとの戦いでは酷い目にあったからだ。
自分が傷付いた訳ではないが、それでも再びアリシアを危険な目に合わせたくは無い。
「じゃあ俺が行くよ」
「だ、駄目です! 危険すぎますよ!!」
アリシアが大慌てで反対する。
「けど食べるものが無けりゃ餓死するだけだ。だったら俺が行ったほうがバレにくいだろ。なーに、変装すりゃ何とかなるさ」
「でも……」
なおも食い下がろうとするアリシア。
「王様命令! とにかく食べ物を手に入れるのが先決だ」
「……分かりました。ですが一つ問題が」
「今度は何だよ」
「お金がありません」
「……ワーオ」
◆
タカヤとアリシアは町へと向かっていた
タカヤは変装を兼ねて屋敷に残された男性用の衣装に着替えている。
アリシアは町の近くまで護衛をすると言って強引についてきた。
「タカヤ様、本当にそれを売る気なのですか?」
「しょうがないだろう。売る物がないんだから」
あの後、タカヤとアリシアは屋敷中を漁ってみたが、売り物になりそうな物は見つからなかった。
というのも金目の物は先代の王が死亡した際に逃げ出した家臣達が殆どを持ち出していたのだ。
辛うじて残った品もアリシアの生活費へと消え、とうとう残ったのはたった一個の種芋だけになっていた。
「ですが種芋がないと食料を作れません、それに種芋では大したお金にも……」
「それでも食べ物を買う為だから仕方ないだろ。その後の事はその時に考えよう」
「はぁ……」
タカヤの言葉は正論だった。農業の心得の無い二人ではたとえ芽が出たとしても芋が育つまで育てるのは困難だ。
更に言えば芋が育つまでタカヤ達の身が持たない。
「そういえばさ」
タカヤがアリシアの顔をじっと見る。
「な、なんですか?」
「いや、顔バレしてるって言ってたけど、変装したらどうなんだ?」
「わ、私がですか?」
「そうそう。前髪を上げてさ。目を見せればいいんじゃないかな?」
本音を言えば顔が見たいという奴である。
「だだだだだだ駄目ですよ!」
「何でさ?」
「なんででもです!」
「……」
拒絶された事で逆にイタズラ心が芽生えてくるタカヤ。
「アリシア、王様命令だ!」
「えええええええええぇぇぇぇ!?」
強権を発動させてアリシアの前髪を上げさせようとする。
「そそそそそそんな駄目ですよ!」
「駄目じゃない! アリシアは俺の命令を何でも聞いてくれるんだろう?」
「そ、それは……」
騎士の制約を盾に取られたアリシアが言葉に詰まる。
タカヤはソレをチャンスと見てアリシアの腰に手を回しその体を抱き寄せる。
その瞬間、舞い上がるアリシアの匂い。香水か石鹸か、花の様な香りにめまいがする。
湧き上がる劣情を堪えてタカヤはアリシアの前髪に手をかける。
「さぁ、アリシア、君の素顔を見せてく……痛ってぇぇぇ!!」
タカヤがアリシアの前髪に触れた途端強力な静電気を受けたような痛みが手に走る。
「なっ!?」
『アリシア=ディクスシスのメカクレはデフォルトの為変更できません』
タカヤの耳元に再びあの声が聞える。
「デフォルト!? なんだそりゃ!?」
「だから駄目なんです。私は騎士だからこの姿を定められているんです」
「定められてるって誰に?」
「神様にです」
「メカクレ髪が?」
「はい」
(どういう意味かさっぱりわからん。そもそもメカクレ髪を定める神って何だ神なのか? 神か……)
地球の常識では計り知れない異世界の常識に混乱するタカヤ。
彼の平常心はマイナスに差し掛かっていた。
「あの、そんなに私の顔が見たいんですか?」
「そりゃそうさ!」
一切の躊躇いも無く肯定するタカヤの姿に顔を真っ赤に染めるアリシア。
「……分かりました。少しだけ、少しだけなら……良いですよ」
「え? マジ? でも髪型を変えられないんじゃないの?」
「ちょっと前髪を上げるくらいなら違反にはなりません。ちょっとなら」
どうやら先程の痛みは変装の為に髪型を変えようとしたからいけなかったのだとタカヤは理解する。
「じゃあお願いします!」
真正面に回りこんでアリシアの顔を凝視するタカヤ。
そんな彼の視線を前にアリシアの羞恥心は頂点に達していた。
「…………ぇぃ」
一瞬、ほんの一瞬だけアリシアの前髪が舞い上がる。
刹那の素顔。だが幾多のゲームで鍛えられたタカヤの動体視力と認識能力を盛ってすればその刹那で十分すぎる程だった。
「……ど、どうでしたか? タカヤ様……」
一瞬の刹那であっても素顔を晒した事を恥ずかしがり顔を真っ赤にさせるアリシア。
それに対してタカヤは眩しいばかりの笑顔で応える。
「ベリーグッド!!」
右手の親指を天に掲げ、彼はサムズアップのポーズを取った。
アリシアの素顔、それはタカヤの心の中だけに大事にしまわれたのだった。
「減りましたねぇ」
心なしかアリシアの前髪に力が無い。
あの後、屋敷中を探して食料を探したのだが、結局食べれる物は見つからなかった。
「やはりアレを食べるしかないのか」
「だ、駄目ですよ! アレは食べれないってタカヤ様も体験したじゃないですか!」
「だがこのままでは餓死するのみ、だったらもう一度チャレンジだ!」
そう言ってタカヤはテーブルの上に乗っていた歯形の付いたジャガイモと思しき食物を口にする。
「ああ!」
これから訪れる未来を予測してアリシアが耳を塞ぐ。
「……まっじぃぃぃぃぃ!!」
「だから言ったのに」
タカヤが食べたのは屋敷に残された種芋だった。
種芋とは通常繁殖用の芋で食用の芋は芽が出ないように処理されている。
これだけ聞くと種芋でも食べて問題ないと思われがちだが通常種芋は味や栄養を維持する為に殺菌処理を施してある。
ジャガイモは本来親芋と同じ味になるがウイルス感染によって味や栄養が劣化する。その為殺菌処理が必要不可欠なのだ。
そうした処理が施されている為に種芋は食用には向かないとされていた。
だがタカヤが食べた種芋の不味さはそう言う問題ではなかった。
まず異常に硬い。そして次に不味い。体が食べるのを拒否する程だ。
「芋は農民が畑に植えて栽培した物でないと食べられないんですよ」
「そう言う問題じゃねぇだろコレ」
たとえこの芋が食用になったとしても食べる事は出来ないと確信するタカヤ。
「とにかくコレが駄目ならどっかに食料を買いに行かないと。アリシア、近くに町は無いのか?」
「それが……」
「何だよ、もしかして無いのか?」
「いえ、あるにはあるのですが、近隣の町も村もピーシェンに支配されているのです。そこに私が行けばあっという間に敵にバレてしまいます」
タカヤは唸った。ピーシェンとの戦いでは酷い目にあったからだ。
自分が傷付いた訳ではないが、それでも再びアリシアを危険な目に合わせたくは無い。
「じゃあ俺が行くよ」
「だ、駄目です! 危険すぎますよ!!」
アリシアが大慌てで反対する。
「けど食べるものが無けりゃ餓死するだけだ。だったら俺が行ったほうがバレにくいだろ。なーに、変装すりゃ何とかなるさ」
「でも……」
なおも食い下がろうとするアリシア。
「王様命令! とにかく食べ物を手に入れるのが先決だ」
「……分かりました。ですが一つ問題が」
「今度は何だよ」
「お金がありません」
「……ワーオ」
◆
タカヤとアリシアは町へと向かっていた
タカヤは変装を兼ねて屋敷に残された男性用の衣装に着替えている。
アリシアは町の近くまで護衛をすると言って強引についてきた。
「タカヤ様、本当にそれを売る気なのですか?」
「しょうがないだろう。売る物がないんだから」
あの後、タカヤとアリシアは屋敷中を漁ってみたが、売り物になりそうな物は見つからなかった。
というのも金目の物は先代の王が死亡した際に逃げ出した家臣達が殆どを持ち出していたのだ。
辛うじて残った品もアリシアの生活費へと消え、とうとう残ったのはたった一個の種芋だけになっていた。
「ですが種芋がないと食料を作れません、それに種芋では大したお金にも……」
「それでも食べ物を買う為だから仕方ないだろ。その後の事はその時に考えよう」
「はぁ……」
タカヤの言葉は正論だった。農業の心得の無い二人ではたとえ芽が出たとしても芋が育つまで育てるのは困難だ。
更に言えば芋が育つまでタカヤ達の身が持たない。
「そういえばさ」
タカヤがアリシアの顔をじっと見る。
「な、なんですか?」
「いや、顔バレしてるって言ってたけど、変装したらどうなんだ?」
「わ、私がですか?」
「そうそう。前髪を上げてさ。目を見せればいいんじゃないかな?」
本音を言えば顔が見たいという奴である。
「だだだだだだ駄目ですよ!」
「何でさ?」
「なんででもです!」
「……」
拒絶された事で逆にイタズラ心が芽生えてくるタカヤ。
「アリシア、王様命令だ!」
「えええええええええぇぇぇぇ!?」
強権を発動させてアリシアの前髪を上げさせようとする。
「そそそそそそんな駄目ですよ!」
「駄目じゃない! アリシアは俺の命令を何でも聞いてくれるんだろう?」
「そ、それは……」
騎士の制約を盾に取られたアリシアが言葉に詰まる。
タカヤはソレをチャンスと見てアリシアの腰に手を回しその体を抱き寄せる。
その瞬間、舞い上がるアリシアの匂い。香水か石鹸か、花の様な香りにめまいがする。
湧き上がる劣情を堪えてタカヤはアリシアの前髪に手をかける。
「さぁ、アリシア、君の素顔を見せてく……痛ってぇぇぇ!!」
タカヤがアリシアの前髪に触れた途端強力な静電気を受けたような痛みが手に走る。
「なっ!?」
『アリシア=ディクスシスのメカクレはデフォルトの為変更できません』
タカヤの耳元に再びあの声が聞える。
「デフォルト!? なんだそりゃ!?」
「だから駄目なんです。私は騎士だからこの姿を定められているんです」
「定められてるって誰に?」
「神様にです」
「メカクレ髪が?」
「はい」
(どういう意味かさっぱりわからん。そもそもメカクレ髪を定める神って何だ神なのか? 神か……)
地球の常識では計り知れない異世界の常識に混乱するタカヤ。
彼の平常心はマイナスに差し掛かっていた。
「あの、そんなに私の顔が見たいんですか?」
「そりゃそうさ!」
一切の躊躇いも無く肯定するタカヤの姿に顔を真っ赤に染めるアリシア。
「……分かりました。少しだけ、少しだけなら……良いですよ」
「え? マジ? でも髪型を変えられないんじゃないの?」
「ちょっと前髪を上げるくらいなら違反にはなりません。ちょっとなら」
どうやら先程の痛みは変装の為に髪型を変えようとしたからいけなかったのだとタカヤは理解する。
「じゃあお願いします!」
真正面に回りこんでアリシアの顔を凝視するタカヤ。
そんな彼の視線を前にアリシアの羞恥心は頂点に達していた。
「…………ぇぃ」
一瞬、ほんの一瞬だけアリシアの前髪が舞い上がる。
刹那の素顔。だが幾多のゲームで鍛えられたタカヤの動体視力と認識能力を盛ってすればその刹那で十分すぎる程だった。
「……ど、どうでしたか? タカヤ様……」
一瞬の刹那であっても素顔を晒した事を恥ずかしがり顔を真っ赤にさせるアリシア。
それに対してタカヤは眩しいばかりの笑顔で応える。
「ベリーグッド!!」
右手の親指を天に掲げ、彼はサムズアップのポーズを取った。
アリシアの素顔、それはタカヤの心の中だけに大事にしまわれたのだった。
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