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第142話 勇者、解呪に成功する

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「ではこれより呪いの解呪を行います。主様、わたくしを手に取ってください」

「ああ」

 俺はミカガミノツルギの言うままに剣の姿に戻った彼女を手に取る。

「私の峰を姫に向けてください」

 いわれるままに剣を構えて姫に剣の峰を向ける。

「次に姫の額に私の峰を当ててください。そっとでいいですよ」

 指示通りに姫の額に峰を当てると、冷たかったのか姫がひゃっと声を上げた。

「大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫です」

「目を閉じて、私を通して姫の中を感じてください」

 ミカガミノツルギを通して? よくわからないが、とりあえず言うとおり目を閉じて姫の気配を感じようとする。

「ん?」

 すると目の前にいる筈の姫からどんよりとした感じを受ける。
 まるで水が詰まって淀んでいる様な間隔だ。

「なんだかどんよりした感じがする」

「はい、その通りです。その淀みが呪いの正体です」

「で、ミカガミはこれをどうやって解呪するんだ?」

 呪いの感覚はわかった。けど、この呪いは姫の体の隅々まで覆っているのを感じる。特に顔の辺りは酷い。なんというか大量に絡まった毛糸の玉みたいに姫の顔をグチャグチャに覆い尽くしているみたいだ。

 コイツの所為で姫の顔は特殊メイクみたいな感じにされてるのか?

「はい、私を使って呪いを切ってください」

 さらっと言ったよ。

「切る? 切るってどうやって?」

 さすがに漫画じゃないんだから、そのまま切ったら姫ごと真っ二つだよ。

「ご安心を主様。切るのは心の刃にて、です」

「心の刃?」

「はい。私の峰に刃があるイメージをしてください。その刃は呪いを断つ破邪の刃です」

「破邪の刃……」

 刀の峰に刃があるイメージ。いつも巨大な魔物を攻撃するために闘気で仮想刀身を展開する感じかな?

「そうです、良い感じです。イメージが出来ましたらわたくしをこのまま姫に振り下ろしてください。さすれば呪いだけを切り捨てる事が出来るでしょう」

 それだけ聞くとずいぶん簡単な感じに聞こえるな。
 ともあれ、やってみない事にはなんとも言えんか。

「ていっ!!」

 俺は気合とともにイメージした破邪の刃を振り下ろす。

「はい、解呪完了です」

 と、軽い口調でミカガミノツルギが声をかけてきた。

「はっ? これで?」

 あまりにもあっさりし過ぎて解呪が完了したとはとても信じられない。

「姫は何か変わった感じは……」

 ないか? そう聞こうと思った俺は、そのまま凍りついた。

「え? あ、あの、どうしたんですか?」

 目の前で姫? がオロオロとした様子で俺に語りかけてくる。
 だが、俺は何を言えばよいのかわからなくなっていた。

 俺の目の前には、ものすごい美女が居た。
 それはもうとんでもない美女だ。

 肌は真っ白だが病的ではないギリギリの白さである桜色の肌、長く黒い髪は艶を帯びており、しっとした黒絹のようなツヤをしている。
 なにより目を引くのはその容姿のすばらしさだ。
 人間の理想をこれでもかと詰め込んだその造詣は、一切の破綻がなかった。
 これまで顔に埋もれて見ることの出来なかった琥珀色の瞳はまるで宝石のような輝きを放っており、姫の美貌を彩る装飾品のようですらあった。
 そして体つきもこれまでのしょぼくれた感じは一切なく、下品にならない絶妙のバランスでボンキュッボンだった。

 一体誰がこんな事態になると分かっただろう?
 俺達の目の前には、もはや先ほどまでとは別人になった姫の姿があった。
 かろうじて姫の着ていたボロ服のおかげで本人であろうという事が判明したが、元の姿へと戻ったことでボロでは窮屈になり今では服のあちこちから肌色が飛び出しそうになっている。

「あの、どうされたんですか?」

 しかし姫のほうは自分の身に起きた出来事に気づいていないらしい。
 俺からしても解呪は全然手ごたえを感じなかったし、今だって別人と入れ替わったのかと疑う程なので、姫本人が気づかないのも無理からぬことだ。

「あー、ええと……ああ、そうだ」

 俺は魔法の袋から大きめの鏡を取り出すとそれを姫に見せる。

「え? その絵は何でしょうか? 凄く精巧な絵ですけど? ……あれ? いま絵が動いた様な……?」

 しかし姫は鏡を見せられてもそれが鏡と理解できないのかキョトンとしている。

「いや、これは絵じゃなくて鏡だから」

「鏡……?」

 俺の言葉の意味が分かっていない姫は鏡をじっと見つめたり手を前に差し出したりしてそれが本当に鏡なのかを確認する。

「あの、この中の絵が私と同じ動きをするんですけど? これは魔法の絵なんですか?」

 どうやら鏡に映っている人物が自分だとまだ気づかないみたいだ。
 もしかしたら気づくのが、いや確認するのが怖いのかもしれない。

「そうじゃなくて、その鏡に映っているのが君の本当の姿なんだ。君の体にかけられた呪いを解除された姿なんだよ」

「……これが……わたし?」

 姫はキョトンとした顔で再び鏡を見る。

「まさか……そんな筈はありませんよ。だって私は見るもおぞましい屑と言われていたんですよ?」

 あかん、今までの虐待生活の所為で現実を認識することを精神が拒んでる。
 きっとこれが嘘だったらと思って信じる事が出来ないんだろう。
 あのババァによって虐げられた弊害か。

「そうだ、キュウさんも証明してあげてくださいよ。これが姫の本当の姿だって」

 そう、俺以外の皆が認めてあげれば信じる事が出来る筈。
 俺はキュウさんの同意を得るべく振り返ると、キュウさんは先ほどの姫と同じく呆然とした顔で姫を見ていた。

「キュウさん?」

 しかしキュウさんは呆けた顔をして姫を見るばかりだった。

「えと……どうしました?」

 姫も自分がキュウさんに凝視されていることに気づいたのか、キュウさんに問いかける。
 それがきっかけとなったのか、キュウさんはハッとした顔になってわれに返る。

「あ、いえなんでもありません、春姫様!!」

 と、その時キュウさんは見知らぬ女性の名で姫を呼んだ。

「……春姫様?」

 姫も聞き覚えのない名前にキョトンとした顔になる。
 春姫、一体誰の事なんだ?
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