勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第140話 勇者、姫に剣を抜かせる

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「おお、トウヤ殿か。よくぞ無事に戻って来たな」

 眠っていたのであろうキュウさんはやや眠そうな感じで俺の呼び出しに答えてくれた。
 ちょっと申し訳ないが、今は緊急事態だからな。

「囚われの姫を救い出してきた」

「……なんと、もう見つかったのか!?」

 俺の言葉に眠気も吹っ飛んだのか、キュウさんは目を見開く。

「ああ、この子が神剣の認めた姫だ」

 そういって、俺は姫に着せたローブのフードを外した。

「うぉっ!?」

 うん、思わずそう言っちゃうよね。これは仕方ない。
 普通に考えたらこの顔は同じ人間とはとても思えないからだ。

「と、トウヤ殿!? これは一体……?」

 まぁ気持ちは分かるがもうちっと平静を保っておくれよ。
 仮にも相手は女の子なんだよ。
 俺も人の事は言えないけどさ。

「この子が捕らわれていた姫だ。ミカガミノツルギも認めている」

「はい、この少女からは皇族の血を感じます」

 俺の言葉をミカガミノツルギも肯定する。

「なんと……まさか……ううむ」

 まぁキュウさんが困惑するのも無理はない。
 普通捕らわれのお姫様と言ったら儚くて可憐で美しい姫を想像してしまうのは仕方がないだろう。
 だがこの少女はそもそも少女なのかすら怪しい見た目だ。
 かろうじて声のおかげで女の事分かるくらいなのだから。

「キュウさんにはこの子の保護をお願いしたい」

「う、うむ。そうだな。任せて貰おう」

「それと、この子の両親について知っている事があったら教えて欲しい」

「両親とな?」

「ああ、この子は自分の両親を知らないらしいんだ。物心ついた時からあのババァに使用人としてこき使われていたらしい」

「何だと!? 同じ皇族を使用人に!?」

 キュウさんもまさかそう来るとは思わなかったらしく、ババァのやり口に困惑する。

「一体何が目的で同じ皇族を!?」

 うん、俺もそれが疑問でしかたがない。

「ううむ……いやそれは後にしよう」

 答えの出ない問題は後回しにすると決めたキュウさんが姫に向き直る。

「改めまして姫君、私はクガワ・キュウノスケと申します。貴方様のお名前を教えては頂けませんか?」

「わ、私の名前ですか?」

「はい、貴方様のお名前が分かれば、姫君のご両親の事も分かるかと」

 しかし姫は何故か身を小さくして名前を名乗ろうとはしなかった。

「どうされましたか?」

 キュウさんの質問に、姫は意を決して口を開く。

「その、私には名前がありまえせんので……」

「「へっ?」」

 思わず二人して変な声が出た。

「名前がない?」

「それはどういう?」

俺達が問いかけると、姫はおずおずと口を開く。

「ユキ姫様からお前に名前など不要だと言われておりまして」

 ……あ・の・バ・バ・アァァァァァァァッ!!

「で、では普段はなんと呼ばれていらっしゃったのですか?」

「普段はお前とか、ゴミと呼ばれております」

 ビキッ!!!! っという音がした気がした。
 見れば俺達の正面に座っていたキュウさんが怖い表情になっている。
 怒りや憎しみの表情になった訳じゃあない。
 ただ真顔なのだ。
 真顔なのに、その顔は怒り狂っている様にしか見えなかった。

「ひうっ」

 あまりの怒気に姫が悲鳴を上げて後ずさる。
 これは仕方がない、勇者である俺だってゾワッとする程の殺気なのだ。
 戦士でもない姫に耐えられるものではない圧だった。

「キュウさん落ち着いて!」

 部屋の周囲がザワザワとしだす。
 どうやら屋敷の人間がキュウさんの怒気に跳び起きてしまったらしい。
 いやー、さすがは戦国時代に将軍の位まで上り詰めた男だわー。

 キュウさんは俺の叱責に我に返ると、慌てて姫に頭を下げた。

「あいや、申し訳ない! 怖がらせてしまいました」

「……ぁ、ぃ……」

 よほどショックだったのだろう。
 姫は意味のある言葉を発する事が出来ず、俺にしがみついてブルブルと震えるばかりだ。

「誠に申し訳ござらん。姫をお守りする立場である拙者が姫を怯えさせてしまうとは、不徳の至りにございます」

 キュウさんは尚も頭を下げて額を畳に擦り付ける勢いだ。

「ぁ……だ、だいじょ……ぅ……ぶです……」

 しかし姫は気丈にも言葉を絞ってキュウさんを宥める。
 うむ、自分よりも相手を気遣うなんて良い子じゃないか。

「だいじょ……うぶです……から……ゆるし……ってくだ……さい……」

前言撤回、これは本気で怯えている。
 しかも性質が悪いのは、これキュウさんに怯えているんじゃない。
 怒ったキュウさんの姿に、ババァ達虐待者の姿をみてやがる。

 どこまで虐げりゃ気が済むんだババァァァァァァァァァッッッッ‼
 絶対に報いを与えてやるぞババァ!!
 その後俺達はおびえる姫をなだめる事に全力を費やしたのだった。

「ともあれ、まずは神剣が抜けるかのチェックが先だな」

「うむ、姫が神剣を抜ければ諸々の問題は一気に解決するだろう」

「っっ……?」

 俺達の会話に姫は何の話だろうかと首をかしげる。
 まぁ実際のところはミカガミノツルギに頼んでわざと抜けてもらうので心配はない訳だが。

「あの、神剣ってなんですか?」

「ああ、コレのことだよ。ちょっとこの剣を抜いてもらえないかな?」

 そういってミカガミノツルギを鞘ごと取り出した俺は、姫に手渡す。

「これを抜けばよいのですか?」

「ああ、元気よく抜いてくれ」

「わかりました」

 俺から剣を受け取った姫は右手を剣の握り手に添えると、剣を鞘から抜き放つ。

「うーんっ! うーんっ!」

 抜き放……ってない?

「ちょ、おいミカガミノツルギ!?」

 おいおい、何してんだよ!? ここは抜けとく所だろう!? そういう約束だろう!?

「ふむふむ、成る程、そういう事ですか」

 しかしミカガミノツルギはなにやら意味ありげに頷くばかりで抜ける様子がまったくなかった。

「あの、この剣全然抜……」

「おおーっと!」

 抜けないと言いそうになった姫の言葉を慌てて大声で遮る。
 危ない危ない、いくらキュウさんの屋敷の中だとはいえ、誰に聞かれているかもわからないんだ。
 ここで姫自身の口から抜けないなんて言われたら、ミカガミノツルギとの取引が台無しになってしまう。

「もうすぐ抜けそうなんだろ? そうだろ?」

「あの、いえ……」

 姫に話しかけるフリをしつつ、俺は姫の持っているミカガミノツルギに話しかける。

「わかりましたよ主様」

 しかしミカガミノツルギはこちらの言葉など聞こえていない様に勝手に話し出す。

「この子、呪われています」

 うん? どういう意味ですか?
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