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第117話 勇者、恋人達に財宝を与える

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「とりあえずはこんなものですね」

 サリア達が全ての財宝の鑑定を終え一息つく。

「大体の物は私達の知識で鑑定できましたけど、それでもわからない品がいくつかありましたね」

帝国の皇女であるクロワさんですら知らない財宝なんてあるんだなぁ。
 帝国って並の王国数個分の大きさの領地を持ってるのに。

「マジックアイテムの類も結構多かったわね。正直なんでコレがある事をあの時に言わなかったのかと、あの時のアンタに問い正したいわ」

 エアリアさんが無茶をおっしゃる。

「でもさすが勇者の財宝ですね。金銭では図れないほどの財宝が沢山ありました」

 なにやらミューラが脂汗をたらしているが、大丈夫だろうか? 何か変な品でもあったか?

「……」

そんな中、シルファリアだけはじっと静かなままだった。

「シルファリア?」

「……」

 返事をしない。ただの褐色魔族美少女の様だ。

「おーい!」

 なので耳元で大声を上げてみたよ。

「うきゃあ!?」

 意外に可愛い悲鳴をあげるシルファリア。
 いや、二人きりの時は結構可愛い悲鳴あげてくれるんだけどね。

「な、何だ一体!?」

 おお、正気に戻った。

「黙り込んでどうしたんだ? 何か良いお宝でもあったのか?」

「え!? あ、いや、そういう訳ではないが……」

「そうか? 欲しい物があれば言ってくれれば適当に持っていって良いぞ」

「「「「「え?」」」」」

 エアリア達が目を丸くしてこちらを見てくる。

「財宝の由来や価値を調べてくれたんだからな、礼はしないといけないだろ」

 そう、労働には対価が必要だ。友達価格でタダとかは絶対にしてはいけない。アレは友情を壊すと歴史の先生も言っていた。何があった先生。

「ほ、本当に良いの!?」

 エアリアさんがっつき過ぎです。まぁ女の子と距離が近いというのは良いことだね。フワリと良い匂いがする。

「ああ、かまわないよ」

 実際、彼女達が特定のお宝を鑑定している時だけ妙に食い入るように眺めていたのを覚えていたからだ。
そこまで気に入ったのならあげてもかまわないだろう。どうせ俺が持っていても貴族達との取引で適当に使うだけだしな。
 
「え、ええと、それではこの金色の盃など頂いてもよろしいのですか?」

 ミューラが金で出来た大きな杯を大事そうに抱えながら聞いてくる。
 ふむ、普段ならそういった成金趣味の装飾品とかにはまったく興味のなさそうなミューラが珍しいな。
金の盃とか、最初手に入れた時はこれを作らせたヤツは豊臣秀吉かよ! とつっこんだもんだが。
 でも金と言えば、地球上でもっとも安定した金属と言われているからな、もしかしたら錬金術とかで重要な意味があるのかもしれない。なにせこの世界にはリアルポーションとか実在するくらいだしな。

「ああ、好きにしてくれ」

「……あ、ありがとうございます! ぜ、絶対に大切に保管しますから!」

 なにやら妙にかしこまられてしまった。
 単なる金の杯なんだし、プレゼントと言うほどロマンチックな物でもないわけでも……って、そうか、そういう事か!
 我ながらうかつだった。
 このお礼は唯のお礼じゃない。彼女たちにとってコイツは俺からのプレゼント、つまり
は『恋人からのプレゼント』という事になるからだ!
 これはしまった。このままでは付き合い始めてから初めてのプレゼントがなんかよくわからんツボやらなんやらになってしまう。
 いくら高価な品であったとしても、これはロマンスが足りなさ過ぎる。

「えっと……トウヤさん、私はこの剣を頂いて宜しいですか?」

 だが事態は深刻だ。こんどはクロワさんが古臭い剣を欲しがりだした。剣から放たれる雰囲気から魔剣の類のようだが、護身用として欲しいという体で欲しがってるのだろう。
昔の魔剣の中には今のマジックアイテムよりもはるかに高性能な品があるとエアリアが言っていたからな。
 代々伝わってきた伝説の魔剣も、後継者が生まれず継承者が途切れたり、継承しても実力不足で死んでしまう事は割とあるらしい。

 だが、だがだ! こんな色気の欠片もない物をプレゼントにしてしまうのはさすがにどうかと思うんだ!
 すでにあげると約束してしまった以上、いまさら撤回する訳には行かない。
 だがここで話をなぁなぁにしてしまっては勇者の名折れ!
 財宝をしまい終わったら急いで皆へのプレゼントを買いに行かねば!
 こういう時、バルザックが居たらいろいろと教えてもらえたんだろうが、すでに袂を分かってしまった以上、あいつに頼る事はできない。
幸い、そういう事に協力してくれそうな王族の知り合いが二人ほど出来たのは行幸といえる。
 プレゼントについては彼らの協力を仰ごう。

『私はこの薬が欲しいです』

 今度は薬か。まったく色気がないにも程が……
 だが、それを欲しがったのは俺の可愛い恋人達ではなく、穴から液体の触手が生えた木箱だった。

「……あー」

 うん、そもそもコイツは恋人じゃないです。

「えーと、薬のお前が薬を欲しがるのか?」

 なんという矛盾。

『私の薬としての本能がこの薬に並々ならぬ興味を示しています。是非ともこの薬をお譲り頂きたいと考えております』

 薬が本能とか何の冗談ですかね?

「まぁ別にいいけど」

『感謝します』

 よくゲームとかで宝箱から薬が出るじゃん? でもあれってさ、ゲームだと調べなくても名前が分かるし、鑑定スキルとかあるならそれで判明するけど、現実ではなんだかよく分からない薬が冷凍保存もされずに入ってるんだよな。
 しかも製造年月日が不明。
 そんな薬を飲もうと思いますか?
 答えは断じてノゥ! だ!
 結果、この様な怪しい薬は使われる事なく死蔵されるのであった。
 当然だよね!
 今回は在庫整理が出来たと思おう。

 結局、エアリアはよく分からない黒い石を、サリアはリヴァイアサンの腹をかっさばいた時に俺が回収したお宝から、自分の船に乗っていた思い出の絵画を求めてきたので快く譲ってやった。
 やはりアレだ。二人も遠慮してプレゼントと言うには明らかに色気のないものを欲しがった。
 指輪とかネックレスとか、もっと良い物はいっぱいあるのにさ。
 エアリアはニマニマと黒い石を見てうっとりし、サリアは懐かしそうに絵画を見ている。
 ミューラは緊張した面持ちで金の杯を抱え、クロワさんは古い剣を後生大事に抱えている。そこのモニモニ小踊りしている薬は何を考えているのかわからんのでパス。

「あれ?」

 気がつけばシルファリアがいない。
 彼女にも欲しい物があったら譲ろうと思っていたんだが。
 物には興味が薄かったのかな? 魔族の貴族としての知識で財宝を教えてくれていた彼女はいつのまにか姿を消していた。
彼女にも後で礼をしないとな。

 だが今の俺には最優先でしなければいけない事がある!
 そう、彼女達に恋人としてのプレゼントをしないと!
 幸い、指のサイズなどは全員把握している。
 プレゼントする品のサイズを今から調べる必要がなくて良かった。

「俺ちょっと出かけてくるから」

「「「「『行ってらっしゃーい』」」」」

 彼女達の言葉を背に、俺は転移魔法でハジメデ王国へと向かった。プレゼントの品を買う為に。

 だが俺は気づかなかった。
 この勘違いが原因で世界を揺るがす大事件が起きてしまう事を。
 あとちょっぴりびっくりする出来事がいくつか起きることも。
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