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第113話 勇者、新たな王の誕生を見届ける

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「陛下、失礼致します」

 突然現れたハイジアン王子が、執務中であった国王の下へとやってくる。

「ど、どうしたのだハイジアンよ!? 連絡も無しに来るとは一体何事だ!?」

 国王は遠く離れた領地から突然現れたハイジアン王子の来訪に驚きの声を上げる。

「アレ……いえファブリズの件についてはご存知ですか?」

「何? ファブリズがどうしたのだ?」

 国王はファブリズの名前を出されて首を傾げる。

「ご存知無いのか!?」

 ハイジアン王子が殊更に大げさな演技で国王が何も知らない事に驚く。
 いや実際マズイよね、事を未だに理解してないってさ。

「ファブリズは酒に泥酔し、隣国であるツギノ王国の第二王子に傷を負わせたのですぞ!」

「な、何だと!? ハイジアン、冗談だとしても悪質過ぎるぞ!」

 あまりにもアレな内容に、国王はハイジアン王子の悪い冗談だと思ったみたいだ。
 残念な事に事実なんですけどね。

「残念ですが事実です。私の手の者が現場を確認しておりましたので。幸い致命傷ではありませんでしたので、即座に部下が王子の第二治療を行い、ファブリズを私の元に保護させました。陛下には急ぎツギノ王国に謝罪を行う為の交渉をお願い致します」


「謝、謝罪だと!?」

 展開が速すぎて状況について行けない国王が何故だとハイジアン王子に問いかける。

「第二王子への凶行は町の住人だけでなく、婚姻の儀の招待客とその家臣達にも目撃されております。国際会議を無事に終える為にはツギノ王国がわが国を非難する前に全てを丸く終わらせる必要があります」

「そ、そんな事……」

 できるわけ無い、国王は以前ハイジアン王子が無理だと言った内容と同じ事を言おうと口を開く。
 だがその言葉を口にする前にハイジアン王子が機先を制する。

「私に考えがあります。私に任せて頂ければツギノ王国の怒りを鎮め、周辺国にスキを与えずに会議を終わらせてご覧にいれましょう」

 まさにビッグマウス。ハイジアン王子は自信満々に不可能以外の何者でもない事を口にする。

「誠に良策があると言うのか!?」

 国王の疑問にハイジアン王子は大きく頷いた。

「はい、私に全権を委任していただければ確実に。ただしその為には一つ国王の名の下に約束をしていただきたく存じます」

「何を……望むのだ?」

「当然、時期王位継承者の座……いえ、国王の座を譲って頂きたい!」

 ハイジアン王子のとんでもない要求に、国王の傍に控えていた家臣達が書類を取り落とす。
 慌てて書類をかき集める家臣達を尻目に国王は立ち上がってハイジアン王子に何かしら言おうとしているが、驚きのあまりに上手く言葉にならない。

「陛下の言いたい事は理解できます。ですが、現状兄上は陛下と共に民の信頼を失っております。そしてファブリズは此度の件で周辺国から凶状持ちとして警戒されるでしょう。となればこの件を穏便に収めれる私以外に国王に相応しい人間はおりません。更に国家の状況を考えるに、新王の即位は早い程良い。ご理解くださいませ」

 早口でまくし立て、反論の余地を与えないハイジアン王子。事実第一王子とファブリズが王に相応しくないのは事実だ。
 勇者を使い捨てようとした王が選んだ跡継ぎと隣国の王子に襲い掛かった凶状持ちの王子が国王になどなったら、周辺国どころか自国の貴族達ですらいう事を聞かないだろう。
 それ故、この無理難題を治めたハイジアン王子が王位を継ぐ事が一番周辺国と自国の貴族達への楔になるとハイジアン王子は言いたいのだ。

 そして、国王は優秀な人間ではなかったが、自分が晒された状況がどうしようもなく詰んでいる事を理解できる程度には無能ではなかった。

 そう、国王は理解してしまったのだ。
 今なら全ての重責から逃げる事ができると。

 追い詰められた人間のする事は多くない。
 一つは何もかも捨てて逃げる事、もう一つは抱えきれない責任を背負ったまま潰れる事だ。
 しかし国王には背負い続けるだけの決意と責任感など無かった。

「……分かった。全てを解決出来たなら、お前に王位を譲ろう」

 極短期間で心労に心労を重ね、あらゆる責任を背負う事を強要されていた男は、全てを捨てて楽になる事を選んだのだった。

「お言葉、確かに聞き届けました。後は!」

 こうして、とても静かにハジメデ王国の王位継承権争いは終結したのであった。
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