勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠

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第110話 勇者、仲裁案を考える

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「王位継承権を持つ王子を傷つけられたツギノ王国の怒りを静める策……それは」

 俺はツギノ王国との和解案をハイジアン王子に告げる。

「ファブリズ王子の首をツギノ王国に差し出せば、向こうもびっくりしてそれ以上は言えなくなるんじゃないですかね」

 私に良い考えがあると言ったな。アレは嘘だ。
 そんな都合良く良いアイデアなんて出るか。

 いや、割りと本気でアリだと思うんだ。
 アホは居なくなるし王位継承者の首を差し出せばツギノ王国のメンツもハジメデ王国のメンツも保たれるし、向こうも法外な慰謝料や戦争をする為の大義名分を要求する事はできなくなる。
 結構本気で良い策だと思わない?

「正直心から惹かれる提案だが却下だ。仮にも王位継承者を差し出したとなれば、わが国の弱腰な態度が周辺国に嘗められる原因となる。和解とは自分の弱みを極力見せない事が重要なのだ」

 ちぇー、結構良い案だと思ったんだけどなぁ。


「ではまずファブリズ王子はなんらかの原因で正気を失っていたとして廃嫡させてはどうですか? 王位継承者を廃嫡させるのはわりと重い処罰だと思いますが。そこに詫びとして示談金を用意すると」

 とりあえずマジメな案も出しておく。

「順当ではあるが、他国の王子を傷つけた以上慰謝料は相当なものになるだろう。世界的に復興を推し進めている今現在、それほどの大金を支払えば他国に復興で大きく後れを取る。そうなれば復興が終わった後の時代での国家間戦争で劣勢になるのは必定だ」

 後の事を考えると金を支払うという行為自体が問題な訳か。もしくはなるべく安く済ませたい。
 これが普通の貴族なら裏取引で手打ちにする方法はあったのだろうが、いかんせん今回は色々と悪条件が重なりすぎた。
 更に言えば他国の使者達やスパイの目にも付いてしまっている。
 周りが納得するレベルの和解が行わなければツギノ王国が他国から嘗められるだろう。
 だからツギノ王国が手心を加えてくれる可能性は皆無。
 と言うか、間違いなく全力で毟り取りに来る。

「いっそ誰かに国を侵略されるか滅ぼされればいいんじゃないですか? それなら責任を取る必要はないでしょう」

 もう半ばヤケみたいな発言だが、ある意味これも正しい手段と言える。他国に滅ぼされない様に力を持った国にわざと取り込まれてそれなりの権力を持った貴族として迎え入れてもらう方法だ。

 しかしハイジアン王子は呆れてものも言えないみたいで、黙りこくってしまった。
 イカンイカン、そろそろ本気でなんか考えんとな。

「……ふむ、アリかもしれんな」

 え? マジ? 8割冗談で言ったんだが。

「本気ですか?」

「割りと本気だ。侵略者がそれに相応しい圧倒的な力を持っていたのなら、確かに周辺国も賠償どころではないだろうからな」

 んー? しかし侵略者と言ってもどこよ? 西側諸国は何処もどっこいな感じっていうか、だからこそ西側諸国なんていわれてる訳で。魔族は魔王と四天王を失っているから、統一した意思で団体行動をするなんてとても出来ないだろう。基本あいつ等アウトローだからね。
 ミナミッカ群島は飯が無くならない限り自分から侵略する事なんて無いだろうし、帝国は新しい皇帝に代わったばかりだから侵略なんて二の次だろう。そもそも帝国は遠い。
 だとすれば、ハイジアン王子の言う圧倒的な力を持った侵略者とは一体?

「一体それはどこの国なんですか? 魔族もしばらくは手を出して来ない筈ですよ?」

 まぁ分からない事は聞くのが一番だ。
 ハイジアン王子に教えてもらおう。

「この国を侵略するのは国ではない」

 国じゃない? となるとドラゴンの様な強力な魔物か? 確かにかつて海で戦った超巨大魚の魔物リヴァイアサンの様な超ド級の魔物が現れれば下手な侵略者などとは比べ物にならないだろう。
 けどそんなヤバい魔物なんて居たっけ?

「それは何処に生息する魔物ですか? 俺の記憶が確かなら、この辺りにはそんなヤバい魔物は居ない筈ですが」

 ってか、居たら魔王軍が利用していた筈だからな。
 魔物は基本獣なので、強力な固体ほど強い自我を持っている。
 知恵を持っていると言っても良い。
 わりと間違われやすいのだが、魔族と魔物は別の生き物である。
 人間を襲う同じ名前に【魔】がつく存在なので魔族の尖兵として考えられているが、アレは人間が馬や牛を飼う様に飼育しているに過ぎない。
 そしてドラゴンなどの強力な魔物は地球で言えばものすごくデカくて火を吐く凶暴なライオンや鮫みたいなものだ。地球でそんなヤバイ生き物が居たら間違いなく軍隊が出動するけどな。

「いや、魔物でもないよ」

 魔物でもない? 魔族や国でもなく魔物でもないとなると、一体何者だ?

「もったいぶらずに教えてくださいよ」

 俺がシビレを切らして答えをせがむと、ハイジアン王子はニヤリと口元を歪めた。

「私が想定するこの国の侵略者、それは……」

 ハイジアン王子の目が俺をまっすぐ見つめる。

「君だよ勇者トウヤ=ムラクモ」
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