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第155話 勇者、真なる魔王を倒す
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― ― 汝の野望の終わりの時である。神を詐称する意思持つ穢れよ ― ―
現世に降臨した天空の女神と大地の母神が、静かに真なる魔王に告げた。
真なる魔王が我知らず後ずさる。
だが、すぐにその口元を歪ませると嗤いだした。
『無理だ! 無理だ無理だ無理だ無理だ! たとえ二対の神器で二柱の神を呼ぼうとも、神器程度の回廊では神の力を十全に振るうことなど不可能! 神たる我の魂を滅ぼす事は出来ん! 現にここに現れた貴様らの神気は、かつての貴様等とは程遠いぞ!』
真なる魔王が、降臨した神々の復活は完全でないと、自分を滅ぼすことは出来ないとだんげんする。
だが何故か、不可能だと叫ぶその言葉は、寧ろ不可能であってくれと願っているようにも聞こえた。
≪確かに。お前が言う通り、神器による降臨ではその魂を滅ぼし尽くすは叶わぬ。現世においてその魂を滅ぼすにはあと一柱の神が必要である≫
って、ええ!? ここまで来てそれ!?
「神様が三人って、いくら何でもそれは無理だろ……」
神様が二人も来たってだけでも凄いのに、更に三人目の神様なんてどうやって呼ぶんだよ?
てゆーか、神様が二人でも駄目じゃ降臨し損じゃん!? 何の解決にもなってないじゃんかよ!?
『ふ、ふははははははっ! やはりな! そんな事だと思ったわ! 三柱目の神を降ろすなど、お前達には絶対に出来ぬ! 出来る筈が無いのだ!』
女神達の衝撃の言葉に、真なる魔王が勝ち誇る。
『神界という上位世界から神が降臨すれば、神界からの膨大なエネルギーがこの下位世界へと流れこむ。 現世の生物が耐えきれない膨大なエネルギーがな! 神界から神が加護を与える為にごく小規模な力しか解放出来ない様に作られた神器ならまだしも、神本体が世界を渡る為には巨大な通路を開かねばならん! だからこそ貴様らは現世への影響が最小限になるよう、結界を張り、神器を介して最小限の現界にとどめたのだろう?』
なるほど、それで真なる魔法が暴れていても神々は直接介入してこなかったわけか。
『勇者の使う魂の力をあてにしていたのだろうが、残念だったな。この者の攻撃を受けてみて分かった。我に多少の痛みを与える事ならば可能だが、この者では三柱目の神の代わりとなることは出来ない! つまり、我を滅ぼす事は不可能という事だ! せっかく神器を使い潰したというのに残念だったな! お前達は我をこの世界から追放する為の武具を無駄に減らしただけだったぞ!』
俺の力では神の代わりになれないと体で感じ取った事で、真なる魔王は勝利を確信していた。
事実、聖剣と神剣が神の降臨の為に壊れてしまった今、ここで真なる魔王を世界から追放したとしても、次に奴が復活した時には魔王と戦う為の武器が無い事になる。
それは明らかな戦力不足だ。
だが、その言葉を受けても、女神達は動じなかった。
そして静かに告げる。
≪否、お前を滅ぼす事は可能である≫
『なんだとっ!?』
絶対に無理だと確信したにも関わらず、自分を滅ぼす事が出来ると言われ、真なる魔王が動揺する。
『で、出来る筈がない! 三柱目の神の降臨は不可能なのだぞ!?』
≪確かに三柱目の神の降臨は不可能である。しかし、降臨の必要など初めからないのだ≫
降臨の必要が初めから無い? どういう意味だ?
真なる魔王も女神達の言葉の真意を掴めず、訝し気な表情を浮かべる。
そして、女神達が衝撃的な言葉を発する。
≪何故なら、三柱目の神は、既にこの世界に誕生しているのだから≫
「『三柱目の神がこの世界に誕生している!?』」
あまりの発言に、俺と真なる魔王の言葉がハモる。
『あ、ありえぬ! 三柱目の神だと!? ありえるわけがない! そんなものが現世に誕生しすれば、世界が神の力に耐えきれず崩壊するぞ! 神器と結界による仮初の現界ならまだしも、現世に干渉出来る存在が地上に顕現し続けることなど出来るわけがないっ!!』
≪それこそが我等が長きにわたる計画』
≪この世界に三柱目の神を産み出し、お前を葬る為の計画≫
世界に三柱目の神を産み出す計画だって!?
神様達は真なる魔王を滅ぼす為に、そんな計画をしていたのか!?
≪神を騙る穢れよ、三柱目の神は既にこの場に存在している≫
≪悟れ、何故勇者の力がお前に苦痛を与える事が出来たのかを≫
え? 俺の力?
「俺の力はメルクリオとゴールドに覚醒させてもらった訳だから……もしかしてメルクリオかゴールドが三柱目の神で、その力を俺に分けていたから!?」
だが女神達はゆっくりと首を横に振って否定する。
≪否、かの者達は我等の意思を現世に伝える為の巫女である。勇者の力は勇者の内よりいずるもの≫
魂の力は俺の中から出るもの……って事はメルクリオ達は関係ない訳で、じゃあまんま俺が真なる魔王にダメージを与えていた? でもそれだと神様がわざわざ真なる魔王にダメージを与える事が出来た理由なんて言い方はしないよな?
『……っ!? ま、まさか!?』
と、そこで真なる魔王が驚愕の表情で俺を見る。
『まさかこの小僧が三柱目の神だというのか!?』
「はっ!?」
待て待て待て、いきなり何言ってんだよお前!? 俺が神とかある訳ねーだろ!
俺はただの人間ですよ!?
≪然り、勇者こそ、三柱目の神として研磨された魂である≫
「ほらみろ……って、えぇーーーっ!?」
待って、俺が三柱目の神!? 何の冗談!?
≪聖剣と神剣を利用した我等の降臨計画は、数千年前には概要が決まっていた≫
≪それは異世界から神へと神化する素質を持った者を勇者として召喚し、戦いを経て神に相応しい魂へと磨き上げる事≫
≪現世の魂では、この世界を傷付けぬ形に生まれてしまう。故に、我らはこの世界のルールの外で生み出された魂を異世界より勇者という名目で召喚させる事を選択した≫
「な、なんだって……!?」
じゃあ勇者召喚は単純に魔王を倒す為の戦力を召喚する為のものじゃなかったって言う事なのか!?
≪戦いによる魂の研磨、そして巫女による魂の力の解放が神化への第一段階≫
≪魂の力を開放したとて、ただの人の魂では神々の魂の強度を破る事は出来ぬ。神の素質を持つ者が、神器の補助を受けてようやく成し得る偉業≫
≪そこまでは上手くいった。だが、その先へ至る事が困難であった≫
≪この世界のルールに縛られぬ魂とはいえ、人は人。神への神化は容易な事ではない≫
≪そして数千年が経ち、遂に完全な素質を持つ者が現れた≫
「完全な素質? 俺にはそれがあるっていうのか?」
女神達が頷く。
≪然り≫
≪神への神化への最終条件、それは……≫
≪≪逆召喚魔法による勇者の帰還を無力化する程の魂の力を得る事≫≫
「逆召喚魔法だって!?」
俺はあの日、魔王を倒したあのあとの、地球に戻る為の逆召喚魔法が失敗した瞬間の事を思い出す。
「あれは、意図的に行われた事だったのか……!?」
≪然り、そも逆召喚魔法とは、お前達が真なる魔王と呼ぶ神のまがい物すら世界から弾き出すもの≫
≪ゆえに人の身では抵抗することなど出来ぬ≫
≪それを可能とするのは、勇者が神の頂きに位置する力を得た者という事≫
マジかよ、俺が元の世界に戻る事が出来なかった事に、そんな裏があったなんて……
≪今ここに、二柱の女神と神へと神化する資格を得た勇者が揃った≫
≪勇者よ、汝は巫女達によって魂の力の使い方を覚えたが、勇者はいまだ完全な神へは至っておらぬ≫
≪ゆえに、我等が導こう≫
女神達が俺の下へと降りてくる。
そして、二人の女神が代わる代わる俺に口づけをした。
膨大な、神気を俺の体内へと流し込んで。
「お、お、おおおおぉぉぉぉぉっ!?」
体の中で女神達の神気が暴れる。
いや、暴れているのは女神の神気じゃない! 『俺の中から生まれる神気』だっ!!
≪既に、ここに居るのは勇者に非ず≫
≪人を超え、神へと神化を果たした肉持つ神≫
「お、おお……よもや真に……!?」
真なる魔王が、驚嘆の声をあげる。
≪≪勇者神トウヤである!!≫≫
「…………」
不思議な気分だった。
先ほどまで暴れていた力が、驚く程静かになった。
けれどその力は凪いだ水面ではなく、その内で高密度に圧縮されたエネルギーの塊。
爆発する先を求め続けているのが感じ取れるほどの力だ。
「これが俺の本当の魂の力……『神気』」
まさか、俺が神様とか、質の悪い冗談かと思っていたのに、今となってはそれがまごう事なき事実と分かる。
それだけの力が、俺の体内に満ちていた。
≪≪さぁ勇者神トウヤよ、今こそ我等と共に神を騙る穢れを消し去るのです≫≫
二人の女神に促され、俺は真なる魔王に視線を向ける。
『う、うう……!?」
ついさっきまでは、余裕の笑みを浮かべて俺では自分を倒しきれないと嗤っていた真なる魔王が、今では怯えの表情すら浮かべて俺を見つめている。
そうだな、神様達に色々聞きたいことはあるし、俺が神様ってガラかよってツッコミはあるが、ともあれ今はやる事をやるとしますか!
「おうっ!」
『さ、させるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
真なる魔王が俺達に向けて絶叫と共に力を放ってくる。
だがそれは苦し紛れの攻撃でしかなかった。
≪無駄な事。依り代を失った今、お前の魂は無防備≫
≪≪我等3柱の神の力を持って、滅びよ!≫≫
『さ、させるものかぁぁぁぁぁっ!!』
真なる魔王は更に攻撃を激しくしてくるが、依り代を失った事で、真なる魔王自身も、全力を出すことは出来なくなっていた。
この程度の力なら、今の俺には防御すら不要だ!
『ば、馬鹿な!? 神の力だぞ!? それをそうも容易くっ!?』
二人の女神からの補助を受け、俺の両手から光で出来た聖剣と神剣の輪郭が生まれる。
現世の物質を材料に作られた劣化品ではない。文字通り神の力で作られた、本当の意味での聖剣と神剣が、真なる魔王を貫く。
「終わりだ。真なる魔王っ!」
『ウ、ウゴアァァァァァァァァッッッッ!!』
刃を介して魂の力、いや神気をその内部へと放つ。
『や、やめっ!? 焼けっ、消えっ!?』
真なる魔王が言葉にならない悲鳴を上げながら暴れる。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
だが俺は、真なる魔王の魂の内部へと、無慈悲に全力を放出した。
―――――――ウギャァァァァァァァァァァァァツ!!!!!!! ―――――――
断末魔。
その日、長きにわたって世界を苦しめてきた真なる魔王の魂が消滅した。
現世に降臨した天空の女神と大地の母神が、静かに真なる魔王に告げた。
真なる魔王が我知らず後ずさる。
だが、すぐにその口元を歪ませると嗤いだした。
『無理だ! 無理だ無理だ無理だ無理だ! たとえ二対の神器で二柱の神を呼ぼうとも、神器程度の回廊では神の力を十全に振るうことなど不可能! 神たる我の魂を滅ぼす事は出来ん! 現にここに現れた貴様らの神気は、かつての貴様等とは程遠いぞ!』
真なる魔王が、降臨した神々の復活は完全でないと、自分を滅ぼすことは出来ないとだんげんする。
だが何故か、不可能だと叫ぶその言葉は、寧ろ不可能であってくれと願っているようにも聞こえた。
≪確かに。お前が言う通り、神器による降臨ではその魂を滅ぼし尽くすは叶わぬ。現世においてその魂を滅ぼすにはあと一柱の神が必要である≫
って、ええ!? ここまで来てそれ!?
「神様が三人って、いくら何でもそれは無理だろ……」
神様が二人も来たってだけでも凄いのに、更に三人目の神様なんてどうやって呼ぶんだよ?
てゆーか、神様が二人でも駄目じゃ降臨し損じゃん!? 何の解決にもなってないじゃんかよ!?
『ふ、ふははははははっ! やはりな! そんな事だと思ったわ! 三柱目の神を降ろすなど、お前達には絶対に出来ぬ! 出来る筈が無いのだ!』
女神達の衝撃の言葉に、真なる魔王が勝ち誇る。
『神界という上位世界から神が降臨すれば、神界からの膨大なエネルギーがこの下位世界へと流れこむ。 現世の生物が耐えきれない膨大なエネルギーがな! 神界から神が加護を与える為にごく小規模な力しか解放出来ない様に作られた神器ならまだしも、神本体が世界を渡る為には巨大な通路を開かねばならん! だからこそ貴様らは現世への影響が最小限になるよう、結界を張り、神器を介して最小限の現界にとどめたのだろう?』
なるほど、それで真なる魔法が暴れていても神々は直接介入してこなかったわけか。
『勇者の使う魂の力をあてにしていたのだろうが、残念だったな。この者の攻撃を受けてみて分かった。我に多少の痛みを与える事ならば可能だが、この者では三柱目の神の代わりとなることは出来ない! つまり、我を滅ぼす事は不可能という事だ! せっかく神器を使い潰したというのに残念だったな! お前達は我をこの世界から追放する為の武具を無駄に減らしただけだったぞ!』
俺の力では神の代わりになれないと体で感じ取った事で、真なる魔王は勝利を確信していた。
事実、聖剣と神剣が神の降臨の為に壊れてしまった今、ここで真なる魔王を世界から追放したとしても、次に奴が復活した時には魔王と戦う為の武器が無い事になる。
それは明らかな戦力不足だ。
だが、その言葉を受けても、女神達は動じなかった。
そして静かに告げる。
≪否、お前を滅ぼす事は可能である≫
『なんだとっ!?』
絶対に無理だと確信したにも関わらず、自分を滅ぼす事が出来ると言われ、真なる魔王が動揺する。
『で、出来る筈がない! 三柱目の神の降臨は不可能なのだぞ!?』
≪確かに三柱目の神の降臨は不可能である。しかし、降臨の必要など初めからないのだ≫
降臨の必要が初めから無い? どういう意味だ?
真なる魔王も女神達の言葉の真意を掴めず、訝し気な表情を浮かべる。
そして、女神達が衝撃的な言葉を発する。
≪何故なら、三柱目の神は、既にこの世界に誕生しているのだから≫
「『三柱目の神がこの世界に誕生している!?』」
あまりの発言に、俺と真なる魔王の言葉がハモる。
『あ、ありえぬ! 三柱目の神だと!? ありえるわけがない! そんなものが現世に誕生しすれば、世界が神の力に耐えきれず崩壊するぞ! 神器と結界による仮初の現界ならまだしも、現世に干渉出来る存在が地上に顕現し続けることなど出来るわけがないっ!!』
≪それこそが我等が長きにわたる計画』
≪この世界に三柱目の神を産み出し、お前を葬る為の計画≫
世界に三柱目の神を産み出す計画だって!?
神様達は真なる魔王を滅ぼす為に、そんな計画をしていたのか!?
≪神を騙る穢れよ、三柱目の神は既にこの場に存在している≫
≪悟れ、何故勇者の力がお前に苦痛を与える事が出来たのかを≫
え? 俺の力?
「俺の力はメルクリオとゴールドに覚醒させてもらった訳だから……もしかしてメルクリオかゴールドが三柱目の神で、その力を俺に分けていたから!?」
だが女神達はゆっくりと首を横に振って否定する。
≪否、かの者達は我等の意思を現世に伝える為の巫女である。勇者の力は勇者の内よりいずるもの≫
魂の力は俺の中から出るもの……って事はメルクリオ達は関係ない訳で、じゃあまんま俺が真なる魔王にダメージを与えていた? でもそれだと神様がわざわざ真なる魔王にダメージを与える事が出来た理由なんて言い方はしないよな?
『……っ!? ま、まさか!?』
と、そこで真なる魔王が驚愕の表情で俺を見る。
『まさかこの小僧が三柱目の神だというのか!?』
「はっ!?」
待て待て待て、いきなり何言ってんだよお前!? 俺が神とかある訳ねーだろ!
俺はただの人間ですよ!?
≪然り、勇者こそ、三柱目の神として研磨された魂である≫
「ほらみろ……って、えぇーーーっ!?」
待って、俺が三柱目の神!? 何の冗談!?
≪聖剣と神剣を利用した我等の降臨計画は、数千年前には概要が決まっていた≫
≪それは異世界から神へと神化する素質を持った者を勇者として召喚し、戦いを経て神に相応しい魂へと磨き上げる事≫
≪現世の魂では、この世界を傷付けぬ形に生まれてしまう。故に、我らはこの世界のルールの外で生み出された魂を異世界より勇者という名目で召喚させる事を選択した≫
「な、なんだって……!?」
じゃあ勇者召喚は単純に魔王を倒す為の戦力を召喚する為のものじゃなかったって言う事なのか!?
≪戦いによる魂の研磨、そして巫女による魂の力の解放が神化への第一段階≫
≪魂の力を開放したとて、ただの人の魂では神々の魂の強度を破る事は出来ぬ。神の素質を持つ者が、神器の補助を受けてようやく成し得る偉業≫
≪そこまでは上手くいった。だが、その先へ至る事が困難であった≫
≪この世界のルールに縛られぬ魂とはいえ、人は人。神への神化は容易な事ではない≫
≪そして数千年が経ち、遂に完全な素質を持つ者が現れた≫
「完全な素質? 俺にはそれがあるっていうのか?」
女神達が頷く。
≪然り≫
≪神への神化への最終条件、それは……≫
≪≪逆召喚魔法による勇者の帰還を無力化する程の魂の力を得る事≫≫
「逆召喚魔法だって!?」
俺はあの日、魔王を倒したあのあとの、地球に戻る為の逆召喚魔法が失敗した瞬間の事を思い出す。
「あれは、意図的に行われた事だったのか……!?」
≪然り、そも逆召喚魔法とは、お前達が真なる魔王と呼ぶ神のまがい物すら世界から弾き出すもの≫
≪ゆえに人の身では抵抗することなど出来ぬ≫
≪それを可能とするのは、勇者が神の頂きに位置する力を得た者という事≫
マジかよ、俺が元の世界に戻る事が出来なかった事に、そんな裏があったなんて……
≪今ここに、二柱の女神と神へと神化する資格を得た勇者が揃った≫
≪勇者よ、汝は巫女達によって魂の力の使い方を覚えたが、勇者はいまだ完全な神へは至っておらぬ≫
≪ゆえに、我等が導こう≫
女神達が俺の下へと降りてくる。
そして、二人の女神が代わる代わる俺に口づけをした。
膨大な、神気を俺の体内へと流し込んで。
「お、お、おおおおぉぉぉぉぉっ!?」
体の中で女神達の神気が暴れる。
いや、暴れているのは女神の神気じゃない! 『俺の中から生まれる神気』だっ!!
≪既に、ここに居るのは勇者に非ず≫
≪人を超え、神へと神化を果たした肉持つ神≫
「お、おお……よもや真に……!?」
真なる魔王が、驚嘆の声をあげる。
≪≪勇者神トウヤである!!≫≫
「…………」
不思議な気分だった。
先ほどまで暴れていた力が、驚く程静かになった。
けれどその力は凪いだ水面ではなく、その内で高密度に圧縮されたエネルギーの塊。
爆発する先を求め続けているのが感じ取れるほどの力だ。
「これが俺の本当の魂の力……『神気』」
まさか、俺が神様とか、質の悪い冗談かと思っていたのに、今となってはそれがまごう事なき事実と分かる。
それだけの力が、俺の体内に満ちていた。
≪≪さぁ勇者神トウヤよ、今こそ我等と共に神を騙る穢れを消し去るのです≫≫
二人の女神に促され、俺は真なる魔王に視線を向ける。
『う、うう……!?」
ついさっきまでは、余裕の笑みを浮かべて俺では自分を倒しきれないと嗤っていた真なる魔王が、今では怯えの表情すら浮かべて俺を見つめている。
そうだな、神様達に色々聞きたいことはあるし、俺が神様ってガラかよってツッコミはあるが、ともあれ今はやる事をやるとしますか!
「おうっ!」
『さ、させるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
真なる魔王が俺達に向けて絶叫と共に力を放ってくる。
だがそれは苦し紛れの攻撃でしかなかった。
≪無駄な事。依り代を失った今、お前の魂は無防備≫
≪≪我等3柱の神の力を持って、滅びよ!≫≫
『さ、させるものかぁぁぁぁぁっ!!』
真なる魔王は更に攻撃を激しくしてくるが、依り代を失った事で、真なる魔王自身も、全力を出すことは出来なくなっていた。
この程度の力なら、今の俺には防御すら不要だ!
『ば、馬鹿な!? 神の力だぞ!? それをそうも容易くっ!?』
二人の女神からの補助を受け、俺の両手から光で出来た聖剣と神剣の輪郭が生まれる。
現世の物質を材料に作られた劣化品ではない。文字通り神の力で作られた、本当の意味での聖剣と神剣が、真なる魔王を貫く。
「終わりだ。真なる魔王っ!」
『ウ、ウゴアァァァァァァァァッッッッ!!』
刃を介して魂の力、いや神気をその内部へと放つ。
『や、やめっ!? 焼けっ、消えっ!?』
真なる魔王が言葉にならない悲鳴を上げながら暴れる。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
だが俺は、真なる魔王の魂の内部へと、無慈悲に全力を放出した。
―――――――ウギャァァァァァァァァァァァァツ!!!!!!! ―――――――
断末魔。
その日、長きにわたって世界を苦しめてきた真なる魔王の魂が消滅した。
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待ちましたよ。
もう無理かと半ば諦めていたんですが、更新ありがとうございます。
書籍版のほうが完結となっていましたので、このまま立ち消えになってしまうのかと残念に思っていましたが、更新の再開大変うれしく思います。ぜひ書籍版のほうも次巻を出してください!
おお!更新されてる!(゜∇゜) 物語の山場的な所で打ち切り終了かと思ってた…勇者ハーレムの1人を精神支配?(魂の上書きか?)から無事に救い出すのを楽しみにしています。
その後は、クライマックスで完結になるのでしょうか…?最後まで期待しています。