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第149話 勇者、黒幕の尻尾を掴む

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「戻ったぞー!」

 タンポポを村に送り返した俺は、クロワさんを連れてミナミッカ群島の避難村へと帰って来た。
 うーんすごい久しぶりな気がする。

「お、戻って来たのじゃな」

「遅いのですよ」

「ってなんでお前等が居るんだよ!?」

 仮の村長の館に帰った俺達を待っていたのは、なんと天空島の住人であるメルクリオとゴールドだった。

「何でと言っても、お主たちはエリクサーの正しい製法を知らぬじゃろう?」

「だから私達がエリクサーの製法を教えてあげようというのだ」

「お前等エリクサーの作り方を知っているのか!?」

 これは嬉しい誤算だ!
 エリクサーの製作はエアリアとサリア頼りだったからな、実際の作り方を知っている人間が居るのは本当に助かる。

「あの小娘達にはエリクサーの制作に必要な細かい素材の収集に向かわせておる」

「さすがに人間の知識には失伝が多かったので、あのまま作っていたら不完全なエリクサーになっていた事だろうう」

 マジか!? それは危なかった。

「た、ただいま……」

「もどり……ました」

 と、メルクリオ達と話していたら、エアリア達が帰って来た。
 って、二人共ボロボロじゃないか!?

「おいおい、二人共大丈夫か!?」

「まぁなんとか」

「必要な素材は集まりましたよ……」

 エアリアとサリアが疲れ切った、だがやりきった顔でサムズアップをしてくる。

「これで本当に必要な材量がそろったのじゃ。あとは霊域でエリクサーの制作に掛かるのじゃ!」

「おう!」

「「お、お~……」」

 その前に、エアリア達は一度休ませた方が良くないか?
 一体何を獲りに行ったら共に魔王を倒したメンバーのエアリアがここまでボロボロになるんだ?

 ◆

「この先がトゥカイマの霊域です」

 エアリア達の息が整うのを待っていた俺達は、遅れて帰って来たミューラとも合流して旧トゥカイマ領へとやってきた。

「うぉっ、寒っ!?」

 環境改善魔法で温暖な環境に気象改良されたイナカイマと違って、素の自然のままであるトゥカイマの大地は寒い。めちゃくちゃ寒い!

「これでも私達が作業を出来る様に環境を調整したんですよ」

 とサリアはいうものの、

「これで!?」

 ほんとコレで? というくらい寒い。

「あんまり派手に環境を変えると周辺の魔物達が寄って来るのよ。だから地上は最低限の気温調整と吹雪からの保護くらいしかできなかったわ」

 エアリアがサリアの説明を補足してくれた。

「そうか、いちいち魔物と戦っていたら儀式の準備どころじゃないもんな」

「ええ、本当に苦労したんだから。霊域は魔物が住み着いてボロボロになってたし、周辺の土地はとても人間が活動できるような気温じゃなかったから、まずはエリクサー作成の儀式を安全に行えるように地ならしからする必要があったわ」

 どうやらこっちも霊域に魔物が住み着いて居たらしい。

「そっちもか。極東の霊水の泉も見た事も無い魔物が住み着いて居たよ」

「そっちも?」

 エアリアが首を傾げる。

「妙な偶然もあるものねぇ」

 確かになぁ。

「いや。偶然とは限らんぞ」

 と、そこで言葉を発したのはメルクリオだった。

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。たまたまエリクサーを作る為の材料がある場所、儀式を行う場所に未知の魔物が住み着いたりするだろうか?」

 ゴールドがメルクリオの言葉につなげる。

「まさか意図的に魔物が住みついたっていうのか?」

「もしくは何者かが住み着かせたじゃな」

 たしかにヒノモトの霊域に住み着いて居たオロチは誰も見た事がない魔物だと言っていた。
 あれも誰かが意図して連れて来たと言う事か。

「私達が材料を取ってくる様に言われた場所も魔物で一杯だったわ」

「悪質な幻惑の魔法や呪いを掛けられていた土地もありましたね」

 エアリアとサリアがゴールドの言葉に同意する。
 となると、トゥカイマの霊域に魔物が住み着いて居たのも……ってあれ?

「そうなると過去にトゥカイマが襲われたのも霊域を占拠する為だったとか?」

「えっ!?」

 サリアが目を大きく見開いてこちらを見て来る。

「あっ、ごめん!!」

 しまった、ついつい思慮に欠けた物言いをしてしまった。

「その可能性は十分にある」

 だというのに、ゴールドが余計な所で同意してくる。

「確かにの、これまでエリクサーの制作に必要な品があった場所は動乱に包まれておった。ヒノモトしかり、小娘達に行かせたオザルカの滅びの砂漠しかり」

「もう一つ行かせたボルギナッガの嘆きの海樹の森も同様。過去に魔物の襲撃や災害、それに内乱や魔法の暴走などで滅びた土地ばかり」

「そうなると勇者が手に入れた聖杯や賢者の石も、元々はそうした滅びた土地から魔王ガルバラが手に入れた品なのかもしれぬのう」

「おいお前等」

 さすがにこれ以上デリカシーのない事を言わせるわけには行かない。
 サリアはやっと過去のつらい思い出を忘れて元気になってきたんだぞ!

「いえ、良いんですトウヤさん」

「サリア!?」

 しかしサリアが俺を制する。

「メルクリオ様、ゴールド様。トゥカイマが滅びたのは我が国が豊かであった機密技術を周辺国が求めた事が原因ではなかったということですね」

「それも正しい。厳密には技術を餌とする事で、裏に居る者達が真の目的を達成したというのが正解と思われる」

 ズバズバとキツイ事をサリアに言う。
 さすがにこれはマズいんじゃないかと思ったが、俺の心配に反してサリアの様子は静かなものだった。

「そうですか、我が国が襲われた理由は我が国の豊かさだけが原因だったのではなかったのですね」

 なんか、こう、静かなのに、ゾクッと来るんだが。
 元から寒いんだけどさ、ちょっと気温低くなってない?

「ですがそうなると我が国を滅ぼした犯人は、聖杯や賢者の石を秘匿していた魔王だったという事でしょうか?」

「ええとね、魔王が娘であるシルファリアの為に聖杯や賢者の石を隠していた可能性が真実なら、むしろ他の材料も何時でも採取できるようにしたんじゃないかと思うわ」

 なにかを察したエアリアがフォローにまわるんだが、それだと魔王がいつでも材料をゲットできる様に魔物に命じて土地を占拠ようにも聞こえないか?

「それだと、魔王が土地を占拠したともいえますよね」

 ほらー。

「それはどうでしょうか?」

 そこで待ったを掛けたのはミューラだ。
 おお、頑張れ聖女!

「魔王が娘であるシルファリアさんの為を思っていたのなら、仮に土地を占拠するにしても、土地を荒廃させる様な真似はしないのでは? 現に霊域はボロボロで儀式を行える様にする為に治すのは大変だったのでしょう?」

 おお、いいぞミューラ!
 さすが聖女! いい所をついている!

「確かに、ミューラさんの言葉も一理ありますね」

 よかった、サリアが冷静さを取り戻したぞ。

「そ、そうよ。私達が素材を獲りに行った場所でもなかなか見つからなかったもの。きっと魔王がやったんじゃないわよ!」

 エアリアがミューラをフォローするが、勇者パーティが魔王の潔白を必死で証明するってなんかシュールな光景だよな。

「となると、魔王はエリクサーの素材を確保するために動いていて、他の場所は別の誰かが荒らしていたってことか?」

「だとすると、一体誰が犯人なのでしょうか?」

 と、サリアが疑問をなげかける。
 だよあぁ。
 魔王が犯人じゃなかったとして、真なる魔王はついこないだ目覚めたばかりなわけだし。

「真なる魔王のシンパの仕業だったのでは?」

「「「「え?」」」」

 これまで黙って話を聞いていたクロワさんの発言に、俺達の声が重なる。

「いえ、真なる魔王が存在していたという事は、真なる魔王に仕える事こそ臣下の正しい 忠義と考える魔族もいたのでは? ほら、人間の王族にとっても血筋って大事ですし」

「なるほど」

 たしか魔王ガルバラは力で魔族を統一した魔王であって、玉璽によって体を乗っ取られた真なる魔王じゃない。
 となれば魔王ガルバラを認めなかった魔族が居たとしてもおかしくは無いか。


「そういえば、魔王ガルバラとの戦いでも動かなかった魔族が居たってシルファリアが言ってたわよね」

「そう言えばそんな話をしていましたね」

「ええ、覚えています」

 エアリアの言葉にミューラとサリアが同意する。

「となると、真なる魔王派の魔族が魔王ガルバラの支配していた魔族軍の中に隠れて独自で行動していたって訳か」

 ふーむ、だとすれば、これまでのさまざまな謎が解けるきっかけが出てきたんじゃないのかコレ?

「ここ最近の不審な事件もそいつらの仕業かもしれないわね」

「事件か……」

 海辺の国を襲い、サリアの乗った船を飲みこんだ超巨大魚レヴァイアサン、サザンカ達のミナミッカ群島に居た巨大なイカの魔物クラーケンの群れ、それに帝国を突然襲った梅毒の猛威、そして極東の国の霊域に住み着いていた魔物オロチ。
 梅毒を除いてどれも巨大な魔物ばかりだ。
 しかもすべてが本来その土地にはいない筈の魔物達。

 梅毒にしたってそうだ。
 あまりにも大きく広がり過ぎていた。
 しかも王族や有力貴族の大半が病気にかかっていた所為で病はすさまじい勢いで帝国全土に広がりつつあった。

「確かに、不自然だよなぁ」

 一つ一つは偶然だと思えたかもしれない。
 でも世界各地でここまで連続して問題がおこって居たらもはや偶然と考えるのは無理だろう。

「本当の敵の陰謀か」

 ようやく、勇者として行う本当の復興が見えて来たな。
 こいつらを倒さないと、どれだけ復興を行ってもまた元の木阿弥だ。
 臭い匂いは元から絶たないとな。

「よし! さっさとエリクサーを作ってシルファリアを元に戻し、真なる魔王をこの世界から追い出すぞ!」

「そうね。まずはそこから始めないと」

「ですね。シルファリアさんの安否が心配ですから」

「シルファリアを元に戻したら真なる魔王派の魔族も殲滅する。きっと真なる魔王が復活した今なら、あいつ等も同じ場所にいるだろうからな」

「戦う力を持たない私ですが、出来うるかぎりトウヤさんのお手伝いをさせて頂きますね」

 クロワさんが俺の手を握って協力を申し出てくれる。

「ありがとうございますクロワさん。それにエアリア、ミューラも」

 俺は一人黙るサリアに向き直る。
 この戦い、彼女の協力も必要だからだ。

「サリアも……」

 協力してくれ、そういう筈だった言葉が途中で止まる。

「……おまかせくださいトウヤさん。祖国を滅ぼした怨敵、私の全力を以って殲滅するお手伝いをしますから。ええ、もちろんシルファリアさんの救出もご協力したします」

「……あ、はい」

祖国を滅ぼした宿敵が生きているかもしれないと分かったサリアは、絶対零度の怒りを纏いながら、とっても素敵な笑顔で俺に誓ったのだった。

……サリアさん、ちょうこわい。


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 追伸

小説家になろうにて、新連載「二度転生した少年はS級冒険者として平穏に過ごす~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~」をはじめました。初日は時間をずらして複数話アップしますので興味がおありでしたら見ていただけるとうれしいです。
ついでに面白かったら評価やブックマークをしていただけるともっとうれしいです(ダイマ)
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