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第147話 勇者、番人と戦う

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「さーって、この奥にお宝があるのか」

 俺は暗い洞窟の中を進む。
 かすかに輝く光苔のおかげで、暗い道でも迷うことなく進む事が出来る。

 何故こんな場所に居るか?
 ここは一体何処なのか?
 そう疑問に思うだろう。
 その疑問は、俺の進む先に見える光が答えてくれた。

  そこは光に満ち溢れていた。
 これまで暗い洞窟から一転し、大きく広がった空間。
 その中の大半を多い尽くす水。
 そう、ここは湖だ。
 だが外に出た訳ではない。
 ここは未だ洞窟の中、つまりは地底湖のほとり。
 ならば何故光に満ちているのか?
 それは簡単だ。
 洞窟の天井から降り注いでくる大量の水が光っていたからだ。

「これが霊域の霊水か……」

 そう、この場所こそは帝となる者しか入れないという霊峰の中の霊域だった。
 俺は帝の屋敷に会った日誌から、この場所を知り単独で霊水の採取に来ていたのだ。
 何故一人で来たのかって?
 それは……

 ザザァッ

 とその時、地底湖の水が盛り上がる。

「出てきたな」

 湖の水をかき分け現れたのは、巨大な8匹の蛇だった。
 いや、8匹ではない。
 その蛇は根元で繋がっていたのだ。

「8頭蛇オロチ!」

 俺の言葉に反応するかのように、オロチの首が3本俺に襲い掛かってくる。
 巨大な牙に噛み付かれたら俺の体に大穴が開くのは間違いない。
 即座に魔力による身体強化を行い回避行動を取る。
 しかし残り4つの頭が動いて俺を追撃してくる。
 残りひとつの頭は攻撃せずに真っ赤な瞳を俺にロックオンしている。

「こっちの動きを俯瞰で見る役って訳か」

 見た目の割りに知恵が回る。
 これがヒノモトに救った魔物オロチの実力って訳か。

 オロチ、この魔物はある日突然霊域に姿を現した。
 本来霊域には魔物は入れない。
 入れないというか入りたがらないのだ。

 かつてバラサの町で魔族によって魔物避けの結界が破壊される事件があった。
 魔物避けの結界とは魔物が嫌がる波動を出して寄せ付けない効果を発揮する術だ。
 霊域もまたそれと似たような効果で魔物を寄せ付けない。

 だがこの魔物オロチは霊域に入り込んだ。
 何故オロチが入る事が出来たのかは分からない。
 分かるのかオロチが霊域に住み着いてしまったという事だけだ。 
 本来なら軍隊を派遣して退治するのが道理なのだが、この場所は帝にしか入る事のできない霊域。
 たとえ魔物退治の為でも只人を入らせるわけには行かないのだ。
 
 そんな訳で帝はこの霊域に魔物が住み着くのを止める事が出来なかった、と日記には書いてあった。
 そしてそれが俺が一人でここに来た理由でもあった。
 危険な魔物が居る場所に戦闘タイプでない仲間を連れてくるわけにも行かないからな。

「しかし、ここで闘っていいのかねぇ?」

 ここは仮にも霊域だ。
 となればここを魔物の血で汚したら霊域の神聖性が失われてしまうかもしれない。

「しゃーない、まずは追い出すか」

 俺はオロチを追い出す事を決め、その為の魔法を発動する。

「サンダーランス!」

 毎度おなじみサンダーランス先生の出番である。
 雷系の魔法なので相手を感電させて無力化するのに最適な魔法。
 しかもここは水場なのでモアベター。
 しかし相手は巨体。
 一発の魔法では耐えられる危険がある為、俺はサンダーランスを複数発動させて湖にぶち込んだ。
 
霊水で満たされた湖が雷の槍が発する熱で蒸発し霊水の湯気が沸き起こる。
 そして数秒後湯気が霧散した後には、全ての頭が地面に倒れ伏したオロチの姿があった。

「そんじゃチャッチャと追い出しますか!」

 俺は魔法の袋から【風のマント】というマジックアアイテムを取り出す。
 コイツは身につけた人間の周囲に強力な風の結界を纏わせるので水中に潜っても自分の周りに空気の球を作って呼吸させる事が出来るのだ。
そして飛行魔法で宙に浮かぶと、オロチの頭のひとつを持ち上げて天井の滝めがけて突入する。
 ドドドドドドドッと凄まじい音が響く滝の中に突っ込むと水圧で激しい衝撃が襲ってくるが、風のマントのお陰で水に濡れる事は無い。
飛行魔法を操作する為の魔力を更に込めて全力で滝をさかのぼっていく。
鯉ならずオロチの滝登りだ。

 ◆

 滝を登り続けると、不意に空が見えた。
 同時に体が軽くなり、まるで体がすっぽ抜けるかの様に上に飛び出す。
 滝を抜けたのだ。
 俺は引っ張ってきたオロチの体を地面に向けて放り投げる。

「そーれっ!!」

 吹き飛ばされたオロチはそのまま地面へ激突し、自重で土の中にめり込みながら滑っていく。
 そして数十m程進むと、ようやく動きを止めた。

「死んだかな?」

 と思ったのだが、その体がピクリと動き、8つの頭が持ち上がる。
やはり頭が八つあるくらいなので生命力も高いみたいだ。

「そんじゃここからは第二ラウンドかな」

 俺は魔法の袋から刃の長い長剣を取り出す。
 斬魔剣【槍刀】、槍のように長い剣という名のソレは、巨大な魔物を退治する為に作られた剣だった。
【偉大なる剣帝】を真なる魔王に破壊されたのでコイツの出番と相成ったわけである。

「えー? 私の出番ではないのですかー?」

「聖剣差別ですよー」

 腰の神剣と聖剣からクレームが飛ぶ。
 正直やかましい。
 ああ、【偉大なる剣帝】は文句を言わない良い子だったんだなぁ。

 などと馬鹿な事を考えている間に、オロチのほうも準備が整ったみたいだ。
 8対の赤い瞳が怒りに燃えている。
 今度はそれぞれの頭が様子見しながら攻撃などしない。
 全ての頭がいっせいに俺に襲い掛かってきた。
 最初の頭の攻撃にあわせるように体が前進し、のこり7つの頭が俺を全周から多い尽くす様に襲ってくる。
 その陣形の為、俺の周囲が影に覆われて一気に暗くなる。
 俺は【槍刀】に魔力を通し、真正面から襲ってくる頭を紙一重でかわしつつロール回転しながらオロチの首に刃を突き刺す。
 そして俺が一回転し終えると、オロチの首がボトリと落ちた。
 落ちた首の分包囲網に穴が開く。
 俺は即座にその穴から外へと脱出した。

「これで残り7……つぅ!?」

 と思った俺だったが、こちらに視線を向けた8対の頭に驚愕する。

「減ってない!??」

 そう、俺が切り落とした筈のオロチの頭は減っていなかった。
 切り落とした頭部は地面に落ちている。
 だが胴体のほうに切り落とされた根元が無いのだ。
 全ての首から頭部が生えている。

 つまり、この魔物は……

「切っても切っても頭が生えてくるタイプか」

 まるでギリシャ神話のヒドラの様である。
 あの魔物も切るたびに首が生えてくるタイプだったっけ。

「ヒドラはたしか傷口を焼かないと駄目だったっけか」

 あと小説やゲームとかだと同時に切り落とさないと何度でも生えるパターンもあったな。

「さてどっちの答えが正解やら」   

 傷口を焼くのが正解か、同時に切るのが正解か。

「面倒だし、両方で行くか」

 俺は【槍刀】に魔法をかける。

「メルティングウエポン!!」

 上位火属性補助魔法によって青白い炎を【槍刀】が纏う。
 そして俺は飛行魔法で高速移動しオロチの真横、その首の根元が一直線に並ぶ位置で体を宙に止める。

「テリャァァァァァ!!」

 超高温の炎を纏った長大な剣がオロチの首を次々に吹き飛ばしながら傷口を焼きつくしていく。
 悲鳴を上げるまもなく吹き飛ぶオロチの頭部。
 数瞬後、オロチの胴体は全ての首と泣き別れになった。
 そしてその傷口から新たな頭部を再生する事はなく、ズシンと重い音を立ててオロチの胴体は倒れ伏したのだった。

 ちとオーバーキルだったか……

「ともあれ、これで霊水はゲットだぜ! あとはサリア達と合流してエリクサーを製作だ!!」

 シルファリア、もう少し待ってろよ!
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