上 下
21 / 22

第21話 決勝を制するのはどっちだ!?

しおりを挟む
 相手チームの一人を倒した事で僕達は数の上では有利になった。
 とはいえ、相手は中学生だ。実力的にはまだまだこちらが不利だろう。

 「くっ! この! よくも苫斗とまとを!」

 再び遊子ゆずさんが僕に向かって来たので、僕は肉体硬化と脚力強化を維持したまま応戦する。
 とはいえ、どうしたもんかな。この人は僕よりも魔法に慣れている。
 中学生だから使える魔法の数もテクニックも上なのは戦っていると良く分かる。
 となれば僕が勝つには唯一勝っている魔力の多さを活かすしかないだろう。

 でも春雷は回避されるし防がれちゃうんだよな。
 となると、また燐瑚りんごちゃんの沼の魔法で落としてもらうか? いや二度も同じ手は通じないか。
 なんとか相手の隙をついて魔法を叩き込まないと。
 ……よしっ! 月並みだけどあれを使ってみよう!

「隙あり! 泡よ! 広がり全てを包み込め!バブルシェード!!」

 何故か遊子さんが泡を生みだす魔法を展開し僕の体を包み込んでくる。でもそれって防御魔法なんじゃないの?

「響け! 響け! 内なる破壊をその身に宿して崩れ落ちろ! 波動連鎖!!」

 すると今度はさっきの波動連鎖を使ってきた。
 防御魔法を使ったと思ったらそこに攻撃魔法!? そんなの自分で魔法を相殺するだけなんじゃ!?

 けれど違った。裕子さんの放った波動連鎖がバブルシェードの泡を次々と弾き強い衝撃が生まれる。

「え!? 何!?」

「見たか! これぞテッポウエビのハサミを使った衝撃波発生プロセスを参考にした泡爆雷コンビネーション! 名付けてガンシュリンプ!!」

「が!?」

 ガ・ン・シュ・リ・ン・プ!?
 まさかのネーミングセンスにビックリしてしまった。

「いや、テッポウエビの衝撃波云々ってそういうのじゃなかったと思うんだが……」

 あっ、魅環みかんちゃんと戦ってる味方に突っ込まれてる。

「細かい事は良いの! どうよ、全周囲から至近距離で襲い掛かる爆音と衝撃は!!」

 た、確かにさっきの波動連鎖の魔法に比べるとかなり痛くてうるさい!

「ほーっほっほ! さすがに小学一年生相手に大人げがなかったかしらね!」

「そう思うならこんなおっかない魔法を使わないでくださいよ!」

「何を言っているの! 貴女がしぶといから使わざるを得なかったのよ。そもそもこの魔法は夏の全国大会に向けて作ったとっておきなんだか……ら?」

 と、そこで遊子さんが高笑いを止めてこっちを見てくる。

「……何で返事が出来るの?」

「何でって言われましても」

「ってか何で無事なのよぉー! 普通の人間なら至近距離の爆音で鼓膜が破けて気絶するレベルなのよ! 万全の防御を整えた無道でも実験台になったらのたうち回ったんだからね!」

 今更っと酷いセリフが出た!?

「え、ええと……多分肉体硬化で鼓膜も強化されたから……とか?」

「どんな肉体硬化よそれぇーっ!! ありえなーい!!」

 と言っても出来ちゃったしなぁ。
 信じられないと叫びながら地団駄を踏む遊子さん。
 僕はそんな彼女を見てふと魔法を放った。

「春雷!」

「ぶぎゃっ!?」

 あっ、当たった。
 理不尽に我を忘れていた遊子さんは僕の魔法をモロに喰らって倒れ、同時に胸の魔法具が弾け飛ぶ。

「蘭槻1番失格!!」

 うん、敵の前で我を忘れちゃいけないよね。
 残るは一人と魅環ちゃんの援護に向かおうとしたら、審判が笛を鳴らす音が聞こえる。

「蘭槻3番失格!!」

 見れば燐瑚ちゃんの援護によって最後の一人が拘束され、魅環ちゃんの猛攻に対処できずに魔法具が弾け飛んでいた。
 
「勝者チーム咲良!!」

 そして審判の号令と共に、僕達の勝利が確定する。

「「「「「うぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

 その途端、試合会場全体が凄まじい歓声に包まれる。

「すげぇ、中学生に勝っちまったぞアイツ等!」
「しかも相手のチームは全国大会に出場してる強豪校のレギュラーだろ!? 本当に一年生なの!?」

 ええ、一年生ですよ一応。中身は中学生だけど。

「やったね咲良ちゃん!」

「さすがです!」

 試合が終わると燐瑚ちゃんと魅環ちゃんが大興奮で抱き着いてくる。

「ハスハス、咲良ちゃん成分補給」

「くんかくんか、疲れた体に染みわたります」

 何かの遊びかな?

「二人のお陰で助かったよ!」

さすがにあれだけ遊子さんと動き回った後でもう一戦するのは体力的にきつかったからね。

「咲良ちゃんこそお疲れ様。相手チームのリーダーを一対一で完封なんてすごいよ!」

「え? あの人リーダーだったの?」

「しかも隙をついて他のメンバーを一撃で倒したのも凄いです」

 と、二人にベタ褒めされて流石に照れくさくなる。

「そっちは燐瑚ちゃんの呪術のサポートのお陰だよ」

「むふーっ!!」

 僕のフォローを受けた燐瑚ちゃんが満面の笑みで鼻息を荒くする。

 そんな風に戦いの余韻に浸っているうちに大人の部の決勝も終わったらしく、閉会式が始まる。

『これより表彰状の授与を行います。子供の部、チーム戦部門優勝者、チーム咲良代表前へ』

 司会に呼ばれたのでチームを代表して僕が前に出て行く。

「あれが子供の部の優勝チームか。本当に小さい子供じゃないか」

「あの子だろ、一人で何属性も使ったのって」

「しかも魔法の威力もかなりのものだったらしいぜ」

「マジか。こりゃ今からスカウトが凄い事になるんじゃないか?」

 何か凄い事言われてるけど、さすがに町内大会でそれは無いんじゃないかなぁ。
 念のため全部の属性を使わない様に注意しておいたし。

「うぉぉーっ! 咲良が! 咲良が優勝じゃぞ! 鈴木! ちゃんと撮っとるか!?」

「ちょっ! 静かにしてくださいお館様! 咲良さんに見つかりますよ!」

 なんか今聞き覚えのある声が聞こえたような気が。気のせいかな?

「表彰状、チーム咲良。右の者は本大会において優秀な成績を収めた事をここに表彰する」

 大会委員長から賞状を渡された僕は、それを受け取って二人の下へ戻っていく。

「うう、咲良ちゃん凛々しかったよぉー」

「はい、物凄く輝いていました!」

「いや二人共大げさだよ」

 たかが町内大会の子供の部の優勝じゃないか。そんな涙ぐみながら喜ばなくても。
 その後大人の部の賞状授与が終わると、簡単な事務報告を告げて魔法大会は閉会する。
 運動会みたいに校長先生の話とかなかったから、意外に早く終わった気がするね。

「よっ、お疲れ様」

「あれ? 可憐先生?」

 大会を終えて帰ろうとした僕達の前に現れたのは、可憐先生だった。

「どうして先生が?」

「そりゃ弟子の初舞台だもの。応援に来るのは当たり前でしょ?」

「そうだったんですね。応援に来て頂いてありがとうございます」

「そんな畏まらなくても良いって。それにあたしだけじゃないからね。ほらっ」

 可憐先生が指さした先には、他の先生達の姿もあった。

「うむ、見事じゃったぞ咲良よ」

「お疲れ様です咲良さん」

「優勝おめでとう」

「凄いね。本当に優勝できるとは驚いたよ」

「まぁ俺の弟子だからな! 勝って当然だろ!」

「お疲れ様です咲良さん。それにチームメイトの方達も」

 おお、まさか全員で応援に来てくれてたなんて。
 そう言えばさっき聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたけど、先生達の声だったんだね。

「ねぇ、この後予定ある?」

「え? ないですけど?」

 予定と聞かれても、僕達は小学生だからね。お金もないから打ち上げなんて出来ないし、疲れたから家に帰るだけだよ。

「だったら私達と優勝祝いにご飯食べに行かない? 奢るわよ、春野先生が」

「儂かいっ!! まぁええが」

「え? 良いんですか?」

 さすがに先生にたかるのも気が引けると思ったんだけど、春野先生はそんな事は無いと激しく首を横に振った。

「可愛い弟子の祝いじゃ。食事くらいいくらでも奢ってやろう」

 おおー、流石お爺ちゃん先生、太っ腹だ! 

「えっと、私達はお邪魔だから帰るね」

「ですね。ご迷惑をおかけする訳にはいきません」

「え? 二人共帰っちゃうの!?」

「だって私達は咲良ちゃんの先生と顔見知りじゃないし」

「なので私達までお祝いに混ざるのはちょっと……」

「子供が詰まらんことを気にするでない。それにお主達は咲良のチームメイトじゃろ。ならば十分に祝われる資格がある」

「そうそう。貴方達も頑張ったんだから、一緒にお祝いされなさいって」

「で、でも……」

「燐瑚ちゃん、魅環ちゃん、僕は二人にも一緒に来て欲しいな。だって二人は一緒に戦ってくれた仲間なんだからさ。僕一人じゃ優勝は無理だったよ」

((((((((それはどうかなぁ))))))))

「だからさ、一緒に行こっ!」

「さ、咲良ちゃんがそう言うなら」

「お、お邪魔します」

「よーっし、それじゃあ三人の優勝を祝って、パーッと高い酒を開けるわよーっ!!」

「「「「「「「「それは駄目でしょっ!!」」」」」」」」
しおりを挟む

処理中です...