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召喚魔法編
巡る者達
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『お前達の感覚では久しいなと言うべきか』
ドラゴンとは思えない発言。間違いなく龍皇は俺がドラゴンではないと理解している。
「貴方に聞きたい事があります」
『聞くが良い』
これが最後の謎だ。
俺達は異世界に召喚された。
そして魔族と闘う事を強要された。
魔族は魔力枯渇現象によって、自分達の住んでいる世界が危機に晒されていた。
その原因は互いに敵視しあい、そしてドラゴンに復讐を目論むエルフとドワーフだった。
そして残った謎、何故この世界の人間に勇者召喚術式を授けたのか。
スキルとは何なのか。
何より、何故俺達が召喚されたのか。
「貴方は何故人間に勇者召喚術式を授けたのですか?」
『風を呼び込む為』
つまり自分が裏で糸を引いていたと認める訳か。
「それは人間を魔族から救う為ではなかったという事ですか?」
『我にとってあらゆる存在は敵足りえぬ』
「風とはなんですか」
『新しい水が入らず同じ場所で留まり続ければあらゆるモノが腐る。故に雨が降り山から湧き水が溢れ、川へと流れ河と合流し海へと届き、雲となり再び雨となる。世界は常に動き続けねばならぬ』
「勇者召喚がその風であったと?」
『魔族という雲が世界に戦という雨を降らせた。勇者とは雨後に芽吹く新芽。血を、知恵を、有り様を、価値観を、食を、様々な芽が生まれた』
つまり魔族が攻めてきたお陰でこの世界が活発化したから、さらに異文化を流し込んでこの世界を更に活性化させようとした? かつて島国だった日本に稲作が持ち込まれ、製鉄で強き国が生まれ、火縄銃が戦を変えて、黒船が世界へ目を向けるように意識を変えたように、この世界に新しい技術と価値観がもたらされる事を望んだという事か?
『特に食は良い。異世界の技術と種によりこの世界は更に豊かとなろう』
あ、その辺は娘と同じなんだ。
うーん親子。もしかして龍皇も人間に化けて人里で食事してるんだろうか?
……いやいや、親近感を持ってどうする! あくまでそれは龍皇の都合だ。召喚された俺達にとっては良い迷惑ってモンだろ!!
「召喚された人間達に対しては何も思わなかったんですか!? 何故俺達が召喚されたんです! 何故俺達の世界から召喚したんですか!」
無意識の内に語気が荒くなる。龍皇の言葉どおりなら、彼はあくまでも世界に新しい価値観が欲しかっただけだ。戦争に参加させる必要は全く無い。
龍皇が俺達をどう思っていたのか――――――――それが境目になると俺は感じていた。
『我は世界の調停者。あらゆる存在を等しく見るモノ。風を招き入れるはこの世界のたゆまぬ歩み』
それはどういう? まさか異世界からの召喚はずっと昔から行ってきたってのか!?
「何故そこまで異世界の人間を呼び出さなければいけなったんです!? 俺達の世界じゃ人間は一万年以上もの間文明を進歩させ続けていた。いや、もっともっと昔から自分達の力で進化してきた!!」
幾らなんでもおかしすぎる。何でそんなに頻繁に召喚を行うんだ!?
『否。風はあらゆる世界で取り入れられておる。それが世界を生み出した神々の取り決めなれば』
か、神!? 神様が実在するってのか? 皇龍は神様が実在すると知っている? じゃあ皇龍ってのはなんなんだ? ただのドラゴンじゃあないのか?
俺の困惑を受け取ったのか、龍皇の目がニヤリと笑った気がした。
『我は管理者に過ぎぬ。文句が在るなら神々に言うが良い。あらゆる世界を生み出した神々にな』
クックックッと意地悪げな笑い声が聞こえる。
この世界、いや全ての世界には本当に神様が存在する?
いやいやいや、確かにファンタジー世界何だから神様がいてもおかしくは無いけどさ。
それが自分達の世界にも実在するとなると驚きが違うよ。
『悩む事は在るまい?』
先ほどの意地悪な笑いとはうって変わって、ややもすれば優しげな声で語り掛ける龍皇。
『神などと言うモノは世界の上から眺めているだけに過ぎぬ。この世界の主役はお前達生き物よ。其処が何処であれ、お前達の好きに生きれば良いのだ』
…………なんとなくだが分かった。
竜皇は俺達を塵芥の様な存在としてみているが、同時に子供のようにも見ていると言う事に。彼にとってはあらゆる存在が平等なのだ。だから過干渉もしないし問われれば答えてもくれる。
それはそれとして娘がフリーダムに育ちすぎだとは思うのだが。
『聞きたい事はそれで終わりか?』
龍皇の言葉で思索に耽っていた思考が浮上する。
「あ、えっと……」
あと何か聞く事は無いか? ここで聞きそびれると暫く聞く事が出来なくなりそうな気がする。
「あと、その、そうだスキル! スキルって一体なんなんですか!?」
コレは聞きたい事だった。
異世界に転移した俺達は突然スキルを使える様になっていた。
思うだけでその使い方すら理解できるこの理不尽な現象。これは一体どういう意図の元に与えられたモノなのか?
『スキルとは人間で言うくじ引きと同じよ。召喚というくじ引きを引かされた人間に与えられたアタリの事だ。用はただのサービスだな親元から引き離される子供へのささやかな選別と思えばよい」
つまり迷惑料?
『異世界では常識が変わる。認識、環境、情勢、そして個の力。スキルは異世界の常識に順応する為の潤滑油と考えよ。有意義にするも無為にするも己自身よ』
なるほど、山に上るなら登山装備が、海に潜るならスキューバ装備が必要だからと言う訳か。
迷惑料と言うよりは送られる環境に適応する為の装備品な訳ね。外せないけど。
そう考えると俺の【憑依】は最高の装備品であった訳だ。これがなければ何度死んでいた事か。
つーか何度も死んでましたが。
『それで終わりか?』
龍皇が話を切り上げる為にわざと確認を取ってくる。
「お教えいただき感謝いたします」
『良い。お前は娘婿だからな』
そのマス王さんみたいな言い方やめてください。
龍皇は首を下ろし、目を閉じる。
もう話は終わりだと言外に言いながら。
『時に娘婿よ』
目を閉じたまま龍皇が声を掛けてくる。
『この世界は楽しいか?』
「……ええ、かなり刺激的です」
『善哉、善哉』
「ああでも……」
『どうした?』
俺が言葉を途切れさせたのを見て龍皇が問いかける。
「一発殴っても良いですか?」
『何!?』
そうだ、すべてを知っていながら、異世界人が召喚される事で起こる悲劇を放置していた事は許せる事ではない。
たとえ本人に介入する事が許されなかったとしても、それでも感情は納得する事を受けいれなかった。
腕まくりをする俺を龍皇は目を丸くして見ている。
『この我を、龍の皇たる我を殴ると?』
「ええ、ケジメをつける為にね」
俺は龍皇に近づいてゆく。
周囲の龍達は胴すれば良いか分からずオロオロとしていた。
自分達の王を不埒者から守れば良いのか、それともたかだか人間如きの反逆に目くじらを立てて良いものかと。
『く、クハハハハハハハハハッ!!!!!』
と、そこで龍皇が大きく笑い出した。
『そうか、我を殴るか! そうだ、そうだな、ケジメは必要だ! よい! 許す! 我を殴る事を許そう!』
龍皇は楽しそうに笑うと、俺の前に顔を下ろしてきた。
『さぁ、やるが良い』
「……では!」
俺は龍魔法を発動し、全力で龍皇をぶん殴る!!
強化された拳が最強のドラゴンの鱗に叩き込まれる。
だが相手はこの世で最強の生物、打ち込んだ俺の拳の方がミシミシと悲鳴を上げ、激痛が走った。
おそらくは骨が折れたのだろう。
しかし、しかしだ。俺のなけなしのプライドが、意地が、その鱗に小さな亀裂を入れていた。
『満足したか?』
龍皇が優しい声で問いかけてくる。
「ええ、納得しました」
『そうか、痛かったぞ』
「痛いように殴りましたから」
『クククッ』
「はははっ」
どちらともなく笑い、そして互いに背を向けた。
そうして、俺はドラゴンバレーを後にする。
もうここに来る事はあるまい。
◆
そして数ヶ月が過ぎた。
うっかりこの世界に残った勇者に殺されたり、食中毒で死んだり、魔物に襲われて死んだりしたが俺は今日も元気だ。
今はとある町の料亭の店主となって料理をしている。
最後の一個前に憑依した兎っぽい生き物が店主の仕込みで殺されたからだ。
メリネアはウチの店に入り浸りながらまかないを食べるかウエイトレスとして働いている。
仕入れは高柳さんが、看板ロリ娘として由紀が働いている。
高柳さんは勇者としての過去を捨て、食材の仕入れを行う武装輸送業を営む事にしたらしい。
彼の考案した武装馬車は旅の商人達に受け居られ、この世界の物流の安定に貢献した。
それは商人達と固まって移動する旅人の安全も増したと言う事である。
旅人が増えれば情報や知識やモノが遠くまで運ばれる。
それによって多国間、他種族間での交流が増え、以前と比べていさかいが減ったように感じる。
戦争が全く起きなくなった訳ではないが、人々が旅人を通じてお互いの事を理解出来る様になってきたからだ。
争いの原因のひとつは相互不理解からくる。故に知る事によってお互いがお互いに利益をもたらす存在だと分かり合う事が大事なのだ。旅商人達の発展はその先駆けとして非常に有効だった。
これからこの世界がどう動くのかはわからない。
けれど何かあったらまた異世界人が召喚されるのだろう。
だったら俺は同じ異世界人として彼等の相談相手になってやればよい。
お仲間が居るってのは安心するもんだからな。
そうして、今日も俺は料理を作る。
転移魔法で日本から仕入れた食材を畑にまき、家畜を近隣の農村で育てさせて新たな食を異世界人に提供するのだ。
『店主、この豚の生姜焼きを頼む』
カウンター席のご立派なヒゲの老人が注文してくる。
この人最近良く見かけるなぁ。
「あらお父様。また人里に降りて来たの?」
珍しくウエイトレスをしているメリネアがヒゲの老人に水を差し出しながら語りかける。
……ってお父様!?
『しー!!』
思いっきり現世に干渉しているじゃねーか!!!!
『この世界の流れに干渉などはしておらぬ。我はあくまでも食事をしに来ただけなのだからな』
ひでー言い訳である。
その時、店のドアが乱暴に開け放たれる。
『見つけましたぞ皇よ!! このような所で何をしておられるのです!!』
なんかキツそうな中年男性が現れた。
『我は食事中だ。後にせよ』
龍皇の関係者でしたか。
『また人間の様な事を。奥方がお怒りですよ! 王は人間の里へ行ってばかりで役目を果たしていらっしゃらないと』
龍皇がため息を吐く。
『百年や二百年位かまうまい。まったくかしましい事だ』
うーんこの所帯じみた感じ。こないだの世界の管理者としての威厳は何処に行った。
『人間の食事などちっぽけな量では無いですか。腹に溜まらぬものを食べるくらいなら手ごろな魔物をそのまま喰らった方が手早いでしょうに』
まぁ言いたい事は分かる。
あとメリネアは逃亡済みである。この中年男性怖いのか母親が怖いのかどちらかであろう。
『まぁお前も食べてみろ。新しい風を取り込む事は我等の役割よ。店主、生姜焼きをもう1つくれ』
「はい! 生姜焼きもう一丁!!」
◆
「おお、マジで冒険者の店って感じだよな」
見た事のない服を着た少年がキョロキョロと周囲を見回している。
「おちつきなって、ここはただの食堂なんだからさ」
反対にお仲間と思しき少女は落ち着いた雰囲気だ。
イスの端には黒く凶悪な鉄の塊が置かれている。
槍でもない、剣でもないそれを、周囲の冒険者が興味深げにチラチラと横目で見ていた。
「でもよ、猫みたいなミミしたヤツとかいるし、外だってデッケーダチョウみたいなヤツが馬車を引いてたぜ! ワクワクしねぇ!?」
「子供ねぇ。私はさっさと元の世界に帰りたいわ」
少年のテンションに少女がため息をつく。
「ロマンがねぇなぁ。せっかく異世界に来たんだからもっと楽しもうぜ!」
「ロマンよりも生活よ。まずは情報とお金を集めて生活の基盤を作らなきゃ」
「だったら冒険者だな! 金も稼げて情報収集もできる! 一石二鳥だろ!!」
「バカ……」
だが少女は少年を見捨てる事は無いだろう。
彼は彼女にとって大切な同じ世界の仲間なのだから。
「いらっしゃいませ。こちらがメニューとなります」
俺は水を差し出しながらメニューを開く。そこにはこの世界の言葉でメニューの名前と料金が表示されていた。
「あ、えと……」
少女が困ったようにこちらを見る。この世界の文字がわからないのだろう。
「お客さん達外国の人かい?」
俺はわざと彼女に言い訳を作ってやる。
「あ、は、はい! そうです!! そうなんです! だからこの国の文字が分からなくて」
「では口頭で説明いたしますね。こちらが豚の生姜焼き、代金は……」
時折やって来る異世界人にそれとなくこの世界で生きて行く為に必要な事を教えてやる。
それが先達から後輩へのささやかな贈り物だ。
ドゴーン!
「うわぁ! 突然アバレ冒険者がやって来て、偶然流れ弾に当たった店主が死んだぞ!」
「犯人を捕まえろー!」
そして今日も俺は死ぬ。
ドラゴンとは思えない発言。間違いなく龍皇は俺がドラゴンではないと理解している。
「貴方に聞きたい事があります」
『聞くが良い』
これが最後の謎だ。
俺達は異世界に召喚された。
そして魔族と闘う事を強要された。
魔族は魔力枯渇現象によって、自分達の住んでいる世界が危機に晒されていた。
その原因は互いに敵視しあい、そしてドラゴンに復讐を目論むエルフとドワーフだった。
そして残った謎、何故この世界の人間に勇者召喚術式を授けたのか。
スキルとは何なのか。
何より、何故俺達が召喚されたのか。
「貴方は何故人間に勇者召喚術式を授けたのですか?」
『風を呼び込む為』
つまり自分が裏で糸を引いていたと認める訳か。
「それは人間を魔族から救う為ではなかったという事ですか?」
『我にとってあらゆる存在は敵足りえぬ』
「風とはなんですか」
『新しい水が入らず同じ場所で留まり続ければあらゆるモノが腐る。故に雨が降り山から湧き水が溢れ、川へと流れ河と合流し海へと届き、雲となり再び雨となる。世界は常に動き続けねばならぬ』
「勇者召喚がその風であったと?」
『魔族という雲が世界に戦という雨を降らせた。勇者とは雨後に芽吹く新芽。血を、知恵を、有り様を、価値観を、食を、様々な芽が生まれた』
つまり魔族が攻めてきたお陰でこの世界が活発化したから、さらに異文化を流し込んでこの世界を更に活性化させようとした? かつて島国だった日本に稲作が持ち込まれ、製鉄で強き国が生まれ、火縄銃が戦を変えて、黒船が世界へ目を向けるように意識を変えたように、この世界に新しい技術と価値観がもたらされる事を望んだという事か?
『特に食は良い。異世界の技術と種によりこの世界は更に豊かとなろう』
あ、その辺は娘と同じなんだ。
うーん親子。もしかして龍皇も人間に化けて人里で食事してるんだろうか?
……いやいや、親近感を持ってどうする! あくまでそれは龍皇の都合だ。召喚された俺達にとっては良い迷惑ってモンだろ!!
「召喚された人間達に対しては何も思わなかったんですか!? 何故俺達が召喚されたんです! 何故俺達の世界から召喚したんですか!」
無意識の内に語気が荒くなる。龍皇の言葉どおりなら、彼はあくまでも世界に新しい価値観が欲しかっただけだ。戦争に参加させる必要は全く無い。
龍皇が俺達をどう思っていたのか――――――――それが境目になると俺は感じていた。
『我は世界の調停者。あらゆる存在を等しく見るモノ。風を招き入れるはこの世界のたゆまぬ歩み』
それはどういう? まさか異世界からの召喚はずっと昔から行ってきたってのか!?
「何故そこまで異世界の人間を呼び出さなければいけなったんです!? 俺達の世界じゃ人間は一万年以上もの間文明を進歩させ続けていた。いや、もっともっと昔から自分達の力で進化してきた!!」
幾らなんでもおかしすぎる。何でそんなに頻繁に召喚を行うんだ!?
『否。風はあらゆる世界で取り入れられておる。それが世界を生み出した神々の取り決めなれば』
か、神!? 神様が実在するってのか? 皇龍は神様が実在すると知っている? じゃあ皇龍ってのはなんなんだ? ただのドラゴンじゃあないのか?
俺の困惑を受け取ったのか、龍皇の目がニヤリと笑った気がした。
『我は管理者に過ぎぬ。文句が在るなら神々に言うが良い。あらゆる世界を生み出した神々にな』
クックックッと意地悪げな笑い声が聞こえる。
この世界、いや全ての世界には本当に神様が存在する?
いやいやいや、確かにファンタジー世界何だから神様がいてもおかしくは無いけどさ。
それが自分達の世界にも実在するとなると驚きが違うよ。
『悩む事は在るまい?』
先ほどの意地悪な笑いとはうって変わって、ややもすれば優しげな声で語り掛ける龍皇。
『神などと言うモノは世界の上から眺めているだけに過ぎぬ。この世界の主役はお前達生き物よ。其処が何処であれ、お前達の好きに生きれば良いのだ』
…………なんとなくだが分かった。
竜皇は俺達を塵芥の様な存在としてみているが、同時に子供のようにも見ていると言う事に。彼にとってはあらゆる存在が平等なのだ。だから過干渉もしないし問われれば答えてもくれる。
それはそれとして娘がフリーダムに育ちすぎだとは思うのだが。
『聞きたい事はそれで終わりか?』
龍皇の言葉で思索に耽っていた思考が浮上する。
「あ、えっと……」
あと何か聞く事は無いか? ここで聞きそびれると暫く聞く事が出来なくなりそうな気がする。
「あと、その、そうだスキル! スキルって一体なんなんですか!?」
コレは聞きたい事だった。
異世界に転移した俺達は突然スキルを使える様になっていた。
思うだけでその使い方すら理解できるこの理不尽な現象。これは一体どういう意図の元に与えられたモノなのか?
『スキルとは人間で言うくじ引きと同じよ。召喚というくじ引きを引かされた人間に与えられたアタリの事だ。用はただのサービスだな親元から引き離される子供へのささやかな選別と思えばよい」
つまり迷惑料?
『異世界では常識が変わる。認識、環境、情勢、そして個の力。スキルは異世界の常識に順応する為の潤滑油と考えよ。有意義にするも無為にするも己自身よ』
なるほど、山に上るなら登山装備が、海に潜るならスキューバ装備が必要だからと言う訳か。
迷惑料と言うよりは送られる環境に適応する為の装備品な訳ね。外せないけど。
そう考えると俺の【憑依】は最高の装備品であった訳だ。これがなければ何度死んでいた事か。
つーか何度も死んでましたが。
『それで終わりか?』
龍皇が話を切り上げる為にわざと確認を取ってくる。
「お教えいただき感謝いたします」
『良い。お前は娘婿だからな』
そのマス王さんみたいな言い方やめてください。
龍皇は首を下ろし、目を閉じる。
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『時に娘婿よ』
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『この世界は楽しいか?』
「……ええ、かなり刺激的です」
『善哉、善哉』
「ああでも……」
『どうした?』
俺が言葉を途切れさせたのを見て龍皇が問いかける。
「一発殴っても良いですか?」
『何!?』
そうだ、すべてを知っていながら、異世界人が召喚される事で起こる悲劇を放置していた事は許せる事ではない。
たとえ本人に介入する事が許されなかったとしても、それでも感情は納得する事を受けいれなかった。
腕まくりをする俺を龍皇は目を丸くして見ている。
『この我を、龍の皇たる我を殴ると?』
「ええ、ケジメをつける為にね」
俺は龍皇に近づいてゆく。
周囲の龍達は胴すれば良いか分からずオロオロとしていた。
自分達の王を不埒者から守れば良いのか、それともたかだか人間如きの反逆に目くじらを立てて良いものかと。
『く、クハハハハハハハハハッ!!!!!』
と、そこで龍皇が大きく笑い出した。
『そうか、我を殴るか! そうだ、そうだな、ケジメは必要だ! よい! 許す! 我を殴る事を許そう!』
龍皇は楽しそうに笑うと、俺の前に顔を下ろしてきた。
『さぁ、やるが良い』
「……では!」
俺は龍魔法を発動し、全力で龍皇をぶん殴る!!
強化された拳が最強のドラゴンの鱗に叩き込まれる。
だが相手はこの世で最強の生物、打ち込んだ俺の拳の方がミシミシと悲鳴を上げ、激痛が走った。
おそらくは骨が折れたのだろう。
しかし、しかしだ。俺のなけなしのプライドが、意地が、その鱗に小さな亀裂を入れていた。
『満足したか?』
龍皇が優しい声で問いかけてくる。
「ええ、納得しました」
『そうか、痛かったぞ』
「痛いように殴りましたから」
『クククッ』
「はははっ」
どちらともなく笑い、そして互いに背を向けた。
そうして、俺はドラゴンバレーを後にする。
もうここに来る事はあるまい。
◆
そして数ヶ月が過ぎた。
うっかりこの世界に残った勇者に殺されたり、食中毒で死んだり、魔物に襲われて死んだりしたが俺は今日も元気だ。
今はとある町の料亭の店主となって料理をしている。
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高柳さんは勇者としての過去を捨て、食材の仕入れを行う武装輸送業を営む事にしたらしい。
彼の考案した武装馬車は旅の商人達に受け居られ、この世界の物流の安定に貢献した。
それは商人達と固まって移動する旅人の安全も増したと言う事である。
旅人が増えれば情報や知識やモノが遠くまで運ばれる。
それによって多国間、他種族間での交流が増え、以前と比べていさかいが減ったように感じる。
戦争が全く起きなくなった訳ではないが、人々が旅人を通じてお互いの事を理解出来る様になってきたからだ。
争いの原因のひとつは相互不理解からくる。故に知る事によってお互いがお互いに利益をもたらす存在だと分かり合う事が大事なのだ。旅商人達の発展はその先駆けとして非常に有効だった。
これからこの世界がどう動くのかはわからない。
けれど何かあったらまた異世界人が召喚されるのだろう。
だったら俺は同じ異世界人として彼等の相談相手になってやればよい。
お仲間が居るってのは安心するもんだからな。
そうして、今日も俺は料理を作る。
転移魔法で日本から仕入れた食材を畑にまき、家畜を近隣の農村で育てさせて新たな食を異世界人に提供するのだ。
『店主、この豚の生姜焼きを頼む』
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この人最近良く見かけるなぁ。
「あらお父様。また人里に降りて来たの?」
珍しくウエイトレスをしているメリネアがヒゲの老人に水を差し出しながら語りかける。
……ってお父様!?
『しー!!』
思いっきり現世に干渉しているじゃねーか!!!!
『この世界の流れに干渉などはしておらぬ。我はあくまでも食事をしに来ただけなのだからな』
ひでー言い訳である。
その時、店のドアが乱暴に開け放たれる。
『見つけましたぞ皇よ!! このような所で何をしておられるのです!!』
なんかキツそうな中年男性が現れた。
『我は食事中だ。後にせよ』
龍皇の関係者でしたか。
『また人間の様な事を。奥方がお怒りですよ! 王は人間の里へ行ってばかりで役目を果たしていらっしゃらないと』
龍皇がため息を吐く。
『百年や二百年位かまうまい。まったくかしましい事だ』
うーんこの所帯じみた感じ。こないだの世界の管理者としての威厳は何処に行った。
『人間の食事などちっぽけな量では無いですか。腹に溜まらぬものを食べるくらいなら手ごろな魔物をそのまま喰らった方が手早いでしょうに』
まぁ言いたい事は分かる。
あとメリネアは逃亡済みである。この中年男性怖いのか母親が怖いのかどちらかであろう。
『まぁお前も食べてみろ。新しい風を取り込む事は我等の役割よ。店主、生姜焼きをもう1つくれ』
「はい! 生姜焼きもう一丁!!」
◆
「おお、マジで冒険者の店って感じだよな」
見た事のない服を着た少年がキョロキョロと周囲を見回している。
「おちつきなって、ここはただの食堂なんだからさ」
反対にお仲間と思しき少女は落ち着いた雰囲気だ。
イスの端には黒く凶悪な鉄の塊が置かれている。
槍でもない、剣でもないそれを、周囲の冒険者が興味深げにチラチラと横目で見ていた。
「でもよ、猫みたいなミミしたヤツとかいるし、外だってデッケーダチョウみたいなヤツが馬車を引いてたぜ! ワクワクしねぇ!?」
「子供ねぇ。私はさっさと元の世界に帰りたいわ」
少年のテンションに少女がため息をつく。
「ロマンがねぇなぁ。せっかく異世界に来たんだからもっと楽しもうぜ!」
「ロマンよりも生活よ。まずは情報とお金を集めて生活の基盤を作らなきゃ」
「だったら冒険者だな! 金も稼げて情報収集もできる! 一石二鳥だろ!!」
「バカ……」
だが少女は少年を見捨てる事は無いだろう。
彼は彼女にとって大切な同じ世界の仲間なのだから。
「いらっしゃいませ。こちらがメニューとなります」
俺は水を差し出しながらメニューを開く。そこにはこの世界の言葉でメニューの名前と料金が表示されていた。
「あ、えと……」
少女が困ったようにこちらを見る。この世界の文字がわからないのだろう。
「お客さん達外国の人かい?」
俺はわざと彼女に言い訳を作ってやる。
「あ、は、はい! そうです!! そうなんです! だからこの国の文字が分からなくて」
「では口頭で説明いたしますね。こちらが豚の生姜焼き、代金は……」
時折やって来る異世界人にそれとなくこの世界で生きて行く為に必要な事を教えてやる。
それが先達から後輩へのささやかな贈り物だ。
ドゴーン!
「うわぁ! 突然アバレ冒険者がやって来て、偶然流れ弾に当たった店主が死んだぞ!」
「犯人を捕まえろー!」
そして今日も俺は死ぬ。
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悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
凡人がおまけ召喚されてしまった件
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勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
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だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
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一気読みさせていただきました。
凄く良かったです笑笑
他の作品も今からあさります。
完結お疲れ様でした。
高柳さん可哀想
高柳さんと、由紀ちゃん身内?W