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リタリア国編

復讐完遂

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 最後のピースがそろった。
  ここまでくれば後は実行するだけだ。
  俺は転移魔法を発動させる。

 「では行くとするか」

  ◆

 はっきり言ってコレはかなりの力技である。
  だが今の彼等の様にかつて経験した理不尽な出来事に対して折り合いが付けれなかった場合、その憎しみは際限なく膨れ上がり、やがて誰を憎んでいたか分からなくなってあらゆる事に怒りを持つ様になる。
 始めは原因となる一人から始まった憎しみが、やがてその人物に協力する者達へと広がり、さらにその協力者の家族に及び、更にその人達のコミュニティに及びと山火事の様に広がって全てを燃やし尽くすまで消える事は無くなる。
  つまり極端な話、国を滅ぼしても彼等は憎しみを燻らせたまま永遠に苦しみ続ける事になるのだ。
  ならばどうすればよいか?
  答えは簡単だ。
  明確な復讐対象を用意してやればよい。
  彼等の原風景に残る憎しみの対象に。

  俺は夜に部下達を全員一番大きいアジトに呼び寄せた。
  勿論複数の国に散らばっている部下達を全員同じアジトには呼べないので、それぞれの近場のアジトに呼びよせる。
  俺はその中に1つのアジトから作戦を始めた。
  集まった部下達を一番大きな部屋に呼び、俺は彼等と向き合う様に対峙する。
  さらに俺と部下達の間には大きなモノがおかれており、それには黒い布がかぶせられていた。

 「さて、諸君。王女再誘拐計画も発動し、遂に計画の実行段階へと移る事となった」

  俺の言葉に末端の部下達すらもが期待と興奮に身を包む。

 「と、いう訳で、コレは私からの前祝いだ」

  俺は部下達の前に置いてあった黒く大きい布を引っぺがす。 

 「こ、これは!?」

  部下の一人が声を挙げる。

  そこに居たのは何十人もの男女だった。
  彼等は皆が豪奢な服を着ており、身分の高い人間だと理解させる。

 「こ、この男は!!?」

  幹部であるNo2の少女が珍しく大きな声を上げる。

 「そう、その男はお前の父親にぬれ衣を着せ名誉を汚し、お前の家族を奪った憎き男。リタリア財務大臣のカッファ=ブンドー子爵だ」

  部下達がどよめきをあげる。

 「覚えているだろう? この者達が何者かを。そう、お前達の家族を奪った憎き敵だ!」

  俺が用意した男達。
  それは部下達から家族や恋人を奪い、追われる身となる原因になった者達。
  つまりは宿敵を俺は誘拐してきた。 

 「な、何故にこの様な事を……?」

  まさか憎んでも憎みきれない怨敵が目の前に現れるなどとは思っても居なかった部下が口を開く。

 「料理にはメインディッシュが必要であろう? お前達の復讐を彩るメインディッシュがな」

 「お……おお……」

  歓喜の声を漏らす部下達。

  そう、コレが俺の作戦だった。
  彼等は復讐を望んではいたが、相手は大貴族や大商人であったりした為に、とてもその懐へと近づく事はできなかった。
  俺の部下として力を付けた後ならそれも出来たかもしれないが、誰か一人でもそれを行ったら貴族達が警戒する、それではバーザックの侵略計画に支障が出る為に個人的な復讐の為に動く事は禁じられていた。
  警戒した貴族達が逃げたり隠れたりしない用に、全員の憎しみを纏めて晴らす為と厳命されてだ。
  だから彼等は我慢した。第二の父親の命令に、義兄弟達の復讐の邪魔をしない為に。
  目的に難は在るが、バーダックは命令に服従させる事が出来るくらいには部下達に慕われていた。
  その父親から貰えるとは思っても居なかった最高のプレゼントが貰えたのだ。

 「バーザック様……」

 「それだけではない。ついて来るが良い」

  俺は部下達を引き連れてアジトの外に出る。

 「これから何が?」

  No2少女が俺の問いかける。
  俺は懐から赤い宝石を取り出して声を上げる。

 「見ているがよい。『我が盟友よ! その高貴なる姿を我に示せ!!』」

  宝石から眩い光が立ち上り、全員の目を眩ませる。

 「目を開けるが良い」

  俺の声に部下達が目を開け、そして驚きで身を固める。
  部下達を大きな風のうねりが襲う。
  そこにいたのは全身が赤い宝石の鱗で出来たドラゴン。
  世界最強の魔物ドラゴンである。 

 「コレこそが我が盟友、宝石龍である!!」

 「ド、ドラゴン……」

 「嘘だろ……」

  ドラゴンの出現に部下達の顔が青くなる。
  それほどまでにこの世界の住人にとってドラゴンとは脅威の対象のようだ。

 「バ、バーザック様、こ、このドラゴンは!?」

  驚きに身をすくませながらも、No2の少女は俺に説明を求める。

 「コレこそは我が奥の手、ドラゴンとの契約よ。ドラゴンと契約を結んだ事で私はドラゴンを自由に操れるようになった。この力を持って私は各国を攻撃し、完膚無きにまで破壊する!!」 

 「ド、ドラゴンとの契約……」

 「破壊!? ど、どういう事ですか!? 本来の計画では第3王女を捕らえてヴランズに死体を捨て各国に戦争を起こさせると言う物だった筈です!」

  その通りだ、だがそれでは無辜の民が傷つく。流石にそれは俺も求めるところではない。
  だから計画を修正する事にした。
  最小限の被害で済む計画を。

 「カジキだ」

 「は?」

 「第3王女誘拐を阻止した魔法使い達が、我々の計画を察知して国の守りを固めていると報告があった」

 「そ、そんな情報は入っていません! 現に騎士団が動いた気配も無く……」

 「動いて居るのは騎士団では無い。誘拐を邪魔したカジキの様に、動物や魔物を使った使い魔部隊だ」

 「それは……!?」

 「そうだな、人間以外の戦力を使う辺りは第3王女際誘拐計画に近い。それゆえ計画どおりに行動しても敵に阻止される危険が強くなった。そこで用意したのがこのドラゴンだ」

  ドラゴン形態のメリネアが俺の頭上をグルグルと旋回している。

 「故にドラゴンで全てを滅ぼす。敵の策諸共に」

 「支配は宜しいのですか!? バーザック様の悲願である奴等の支配は!?」

  バーザックは彼等と同じ様にそれぞれの国を憎んでいると教えた。
  そして各国を支配する事で自由意志を奪う事が自分の復讐なのだと子供達に繰り返し学ばせた。 
  実際には幼稚な征服欲なのだが。

 「問題ない。私は奴等の生死を支配するのだ! さぁ見るが良い。わが子等よ! お前達の憎む国が滅ぶ姿を!!!」

 俺は輝く宝石を天にかざしメリネアに命じる。

 「ドラゴンよ! かの国に我等の怒りを放つのだ!!」

グゥルォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 メリネアが咆哮を上げ、真紅のブレスを放った。
  大地が爆ぜ、衝撃波と爆発の光りで目を開けていられなくなる。
  そしてこの瞬間こそがこの仕掛けの最大のタイミングだ!

  ◆ 

  爆発がやんだ、閃光も轟音もなくなり、吹き荒れていた暴風も止んだ。

 「終わったぞ」

  俺の声に部下達が目を開ける。

 「「「「…………なっ!?」」」」

  全員が驚きの声を上げる。
  彼等の視界には何もなかったからだ。
  森も、町も、街道すらもが消え去って、残ったのは見渡す限りの荒野だった。

 「こ、ここは?」

  部下達が周囲を見回して場所を確認する。
  だが分かる筈がない。
  ここがどこかなど。
  俺が転移魔法を使える事を知らない彼等には。

 「ここはリタリアだ。元……な……」

  俺の言葉を聞いたNo2少女が顔を青くする。
  どうやら察したようだ。

 「まさか……吹き飛ばしたのですか!? ドラゴンのブレスで!?」

 「そうだ、我がドラゴンの力でリタリアの大地を焦土と貸した。もはや何も残ってはおらん」

 「嘘……」

  何も無い荒野に部下達がへたり込む。

 「お前達が憎む国は消えた。後に残るのはお前達の憎しみの原風景となった者達だけだ」

  アジトを指差してその中に居る者達の存在を思い出させる。

 「アレ等を始末すればお前達の復讐は本当の意味で終わる。そして考えるのだ。これからどうしたいのかを」

 「バーザック様! 我々はどうすれば良いのですか!?」

  あまりの急展開にパニックに落ちいった部下が俺に答えを求めてくる。
  だがそれに答える気はサラサラない。

 「それはお前達が決めるのだ。私にはお前達に答えを与える時間も残されていないのだから」

 「それは同いう事で……」

  突風が吹いた。
  周囲に居る誰もが吹き飛び、俺も風の強さに立っては居られなくなる。

 「コレは、ドラゴン!?」

  メリネアは俺の頭上からゆっくりと羽ばたき降りて来る。

 「お別れだ。ドラゴンとの契約は果たされ、対価を払う時が来た」

  俺は咳き込み、口から真っ赤な液体を吐き出す。

 「バーザック様!?」

  突然吐血した俺に部下が悲鳴を上げる。
  まぁ血糊ですけど。

  俺は部下達に背を向け、メリネアに向かって歩きだす。

 「ど、どうされるおつもりなのですか!?」

 「私の命は長くない。故に、計画を遅延する事はできなかった。ドラゴンよ、契約に従いわが身を捧げよう」

 「バ、バーザック様!?」

 「良いのだ。わが子の為に命を尽くすは親の喜び。お前達は憎しみから解放され新たな人生を歩むのだ」

  俺は叫んだ。

 「さらばだ子供達よ!!!!」

  俺の身体がメリネアに咥えられる、空に舞い上がる。そしてそのまま空高くへと飛び去った。
  地上では部下達の俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、既に大空高く舞い上がった俺には風の音しか聞こえなかった。

  ◆

「ふー、終わった終わった」

  メリネアの上に乗りなおした俺は血糊をふいて口を注ぐ。

 「結構面白い遊びだったわ」

 「いやいや、まだあと二回ありますから」

 「いいわよ、また何も無い場所にブレスを放てばよいのでしょう?」

 「その通りです」

  それは単純なトリックだった。

  俺が宝石を空にかざすと、手首に仕込んだライトのマジックアイテムのヒカリで宝石が輝いている様に見える。
  当然部下達はその光に注目するので、その瞬間を狙って人型からドラゴン型に変身したメリネアが登場。
  そしてアジトから離れた何も無い場所にブレスを放って爆発させ、風や炎のマジックアイテムを俺達の近くで発動させる事で臨場感をアップする。遊園地などのアトラクションの演出みたいなもんだ。
  全員が風と光に目を閉じた所で、あらかじめ仕込んでおいた転移魔法陣でアジトごと俺達を別の、リタリアもギリギスもヴランズも存在しない大陸の荒野に運ぶ。
  そうして俺がドラゴンのブレスで国を滅ぼしたと思い込ませたのだ。
  これはドラゴンという力そのものである存在の圧倒的な説得力が在ってこそできる荒業。
  誰もドラゴンが本気で暴れるところを見た事などないからだ。 
  まさか彼等も自分達が転移魔法で別の大陸へと飛ばされたとは思うまい。
  大陸間の移動は船で何ヶ月もかかるし、そもそも部下達はバーザックが転移魔法を使えるとは知らない。
  バーザックはもしもの時の為に、自分の奥の手の存在を隠していたからだ。
  本心では部下達すら信用していなかった。
  それだけ転移魔法は強力で難易度の高い魔法なのだ。
  俺はアジトの周囲に発動補助用の転移魔法陣を仕込んで、それを部下達に悟られないように夜に呼ぶ事で魔法陣の存在を隠した。
  後は転移した後ブレスで目を瞑っている間に、魔法陣を魔法で吹き飛ばしてかき消せば完了。
  と言うのが今回の計画の内容だった。
  それが「復讐先がなくなればうやむやになっちゃうじゃん計画」の全容である。
  そしてそのフォローとして、にっくき宿敵をプレゼント。
  その後彼等が生きていく気力を保てるのかは本人次第だ。
  けれど、彼等には同じ境遇の仲間が居る。
  だから多分大丈夫だろう。

  寧ろ大丈夫じゃないのは俺のほうだ。
  先ほどまでのやり取りをギリギスとヴランズのアジトでもう一度行わなければならないのだから。

 「全部終わったら鶏肉が食べたいわ」

 「分かってますよ」

  メリネアには、協力してくれたら好きなものを満足するまで食べさせるという約束で力を貸してもらった。
  大丈夫。まだ財布に余裕はある。多分大丈夫だ。
  そして復讐の原因となった貴族や大商人を失った国々は暫く大変な事になるだろうが、彼等のポジションを狙っていたライバル達が我先にと入り込むだろうから直ぐに何とかなるだろう。

 「コレが終わったら、暫くは宮廷魔導師として高給取り生活を楽しむかな」

  脳裏に捕らぬ狸の皮算用という言葉が浮かんだが、今は考えない事にしておく。
  せっかくの魔法使いライフなのだから、転移魔法以外もいろいろ使ってみたいのだ。

 「じゃあ気合を入れて、残りの部下達も救済しますか!!」
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