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リタリア国編

侵略中止工作

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 さて参った。
  バーザックが進めていた侵略工作は、第3王女さえ捕らえる事が出来れば何時でも行える状態にあった。
  しかし俺がカジキだった頃に誘拐役の海賊の邪魔をした事で、最後のピースである第3王女を捕らえ損ねた。
  その為、主要幹部達が集まり緊急会議が行われる事になった。
  場所は王都から遠く離れた場所に在る秘密のアジト、その内の1つで。

  ◆

「王女の誘拐に失敗したそうでね」

  幹部の一人が口を開く。

 「やはり何処の馬の骨とも知れない海賊を使ったのがいけなかったのでは?」

 「いや、我々が動けば王国の騎士団に察せられる危険がある。それに依頼した海賊は船の航路を縄張りに持つ海賊では最も実力のある連中だった」

  海賊に誘拐の依頼をした幹部が反論する。

 「聞けば海賊の首領はカジキに倒されたそうでは無いですか」

  耳の早い幹部がカジキの事を話題にする。

 「カジキ!? くくっ、君の言う実力者は魚ごときに邪魔されて依頼を失敗するのか?」
  会議室が笑いに包まれる。

  誘拐を担当した幹部が耳まで真っ赤にして怒りに打ち震える。
  いかんな、このままでは殺し合いに発展しかねない。
  それだけここに居る者達は王女の誘拐に、いや3国を巻き込んだ大戦争に力を注いでいたからだ。

 「戯れはそこまでにしろ」

 「「「っ!?」」」

  俺の声に幹部達が笑い声を止め身を正す。

 「申し訳ありませんバーザック様」

  組織のNo2である女が俺に謝罪の言葉を述べる。
  彼女は、いや彼女達は俺に絶対の忠誠を誓っているからだ。

 「失敗してしまったものは仕方が無い。挽回する策を講じよ。そして件の魚についても調べておけ」

 「何者かの使い魔かも知れぬという件ですね」

  使い魔という言葉に身を硬くする幹部達。

 「我々の計画がバレていたと?」

 「まさか裏切り者が!?」

  途端に会議室が剣呑な空気に包まれる。

 「落ち着くのだ」

  俺の言葉で再び会議室が沈黙する。

 「裏切り者とは限らぬ、恐らくはリタリアかギリギスの護衛であろう。内側に敵が居た時の事を考え、偶然を装って王女を救出できる策を練っていたと考えるのが妥当では無いかな」

 「確かに」

  幹部達が納得の声をあげる。
  普通たまたま通りがかった【憑依】スキルの持ち主が憑依したカジキが、これまた気まぐれで邪魔してきただけとは誰も思うまい。
  そんな事言うヤツが居たら間違いなく病院に連れて行かれる。
  それよりは居るかもしれない敵の護衛の方が説得力があった。

 「王女誘拐計画を練り直すのだ。王女が婚姻の儀を結ぶまでに」

  それはリタリアを動かせなくなるからだ。
  第3王女が結婚すれば第3王女はギリギスの王族となる。
  そうなると結婚してから第3王女が殺された場合、リタリアは表立って動きにくくなるのだ。
  自国の王族を守るのはその国の役目。
  そもそも他国に嫁いだ王族の身の安全を図るなど不可能な事なのだから。
  もちろん第3王女がリタリアの王女であった事は変わらないので、リタリアは娘を殺されたとしてギリギスに協力はするだろう。
  だが協力の規模が変わってくる。
  ギリギスは妻を殺されたとして全力で戦うが、リタリアの貴族達はギリギスを正面に置いて自分達は後方から援護と称して楽をしようとするだろう。
  親である王が闘いたくても。家臣達にその気が無ければどこかで手を抜いて漁夫の利を得ようとするだろうから。
  そうなるとリトリアだけが最低限の傷だけで得をする事になる。
  それはリトリアを破滅させたい幹部達にとっては認める事のできない内容である。
  だから結婚前が良いのだ。
  まぁだからと言って王女を殺す気は無い。
  今はまだ作戦を王女を捕らえるという目的だけを与えて、幹部達の行動を抑制したいのだ。
  早まって勝手な事をしでかさないように。
  そして俺は彼等が考えている時間に対策を練る。
  どうすれば彼等の執念を昇華しつつ穏便に事を終わらせられるか。
  それぞれがそれぞれの国に対する怒りと憎悪に燃える彼等をどうやって満足させたものか。
  全く持ってバーザックの人選は最高だ。
  わざわざ各国で己の国に対して身を焦がす憎しみを抱いている人間ばかりをスカウトしたのだから。
  それも子供ばかり。
  会議室にいる幹部達は、全員が若者だった。
  中には成人に満たない子供までいる。
  彼等は全員が己の国、ないしはそれに関わる者達にすべてを奪われた者達だ。
  しかもプライドの高い貴族の子供が多い。平民ならば虐げられる事に慣れて反抗する事を諦めてしまうかも知れないからだ。
  バーザックは彼等を育て、憎しみを絶やさない様にしつつも偽りの愛情を注いだ。
  その結果、幹部達はバーザックを第二の父親として慕い、彼の命令に絶対服従する忠実な部下となった。
  途中までを見ればバーザックは幹部達にとって神にも等しい存在あり、幹部達は仮初とはいえ幸せを教授していた。
  けれど、消える事の無い様にくべられ続けた憎しみの炎は彼等を歪ませた。
  復讐を完遂しなければ己の身を焼き尽くさん程に。
  ホントどうしよう。

 「本日の会議はここまでとする。各員逸る部下を上手く御するように。お前は今回の失敗を挽回する為に策を講じろ。だが実行前に私に報告する様に」

 「はっ!!」

  幹部達がそそくさと会議室から出て行く。
  俺の手前、表面上は落ち着いているがはらわたは煮えくり返っている事だろう。
  遂にやって来た復讐の機会が失われそうになったのだから。

 「俺も帰るか」

  誘拐作戦が提出されるまで数日はかかるだろう。
  それまでに対策を練るとしよう。

  ◆

「バーザック様! 計画が完成しました! ご確認を!!」

  翌日、とても良い笑顔で誘拐担当の幹部が計画書を持ってきた。
  仕事速すぎぃ!!
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