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メリケ王国編

国王殺害

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 反逆者カドルの調査は難航した。
  彼の肉親も、交友関係も、普段の生活も、何を調べても彼が凶行に走った理由が分からないのだ。
  ある日突然反逆を行おうとしか思えないくらいカドルには反逆する理由がなかった。
  当然、分からないで済む筈も無く、国王は激怒しカドルの親族を徹底的に締め上げた。勿論拷問も込みでだ。
  だが知らないものは答えようが無い。一向に手がかりが見つからない王は更にカドルの家族を拷問にかけ、その結果殺してしまった。
  肉親をという手がかりをなくした事で、この事件はカドルが魔族に唆されたという結論を【作って】終了となった。
  真相は闇の中である。

  ◆

 騎士団長エイナルに憑依した俺は、まず召喚士について調べた。
  あの後何人生き残ったのか、そして他に召喚できる魔法使いは居るのか。
  そうした調べ物も、騎士団長の権力を使えば容易に調べる事が出来た。

 「生き残った召喚士は3人か」

  あの襲撃で死んだ召喚士は3人、その後治療の甲斐なく死んだ召喚士が4人。
  そして新たに補充した召喚儀式を行える魔法使いは8人。
  儀式を行うには最低10人が必要。
  しかし可能なら全員殺しておきたい。何より召喚魔法のやり方は完全に失わせたい。
  俺は更に情報を集め続けた。

  ◆

「エイナル様!」

  訓練が終わり城に戻ってきた俺の元に一人の少女がやって来る。
  彼女の名はイルミナ=バソー。バソー子爵の娘だ。
  そしてエイナルの婚約者でもある。

 「エイナル様。濡れタオルをどうぞ」

 「ああ、ありがとう」

  イルミナは献身的な少女だった。貴族の娘としてそう育てられたからか、婚約者であるエイナルにとてもよく尽くしてくれる。
  最も、そのエイナルの中身は俺にすり替わっているのだが。

 「最近訓練が多くないですか?」

  イルミナが心配する様に俺を見てくる。

 「勇者達に逃げられてしまったからね。次の勇者が召喚されて使い物になるまでは忙しいままさ」

  メリケ国騎士団長として俺が答えると、イルミナは憤慨する。

 「せっかく神に選ばれて勇者になれたのに、逃げ出すなんてとんでもない人達です! 世界を護る勇者としての使命を投げ出すなんて、本当に信じられないです!!」

  割と本気で殺したくなるセリフなのだが、この国の貴族は冗談抜きでそう教えられていた。
  正しくは、役職によって与えられる情報が違うのだ。
  平民は勇者を神に選ばれて自分達を助けてくれる善意の人と教えられ、貴族には勇者は国を護る為の捨石だという真実が教えられる。あと一部の汚れ役の兵士にも真相を教えてある。汚い仕事をさせる為に。
  しかし、貴族の中でも政治に関わらない者達には勇者の真実は教えられない。
  政略結婚で貴族達の関係を強化するくらいの役にしか立たない娘に、残酷な真実を教える必要が無いからだ。本音はお花畑に育てられた娘が勇者達を哀れんで真実を暴露しない為だ。

  だからこそ、イルミナは勇者君達がとんでもない裏切り者に見えているのである。

 「イルミナ」

  俺はふと思い立ってイルミナに声をかける。

 「なんですかエイナル様?」

 「もしも、もしもの話だが、もし勇者達が自分の意思で勇者になったのでは無いとしたら、もし無理やりこの世界に召喚され戦う事を強要されているのだとしたら君はどう思う?」

  我ながら危険な発言である。
  だが、イルミナの優しさを知った俺は、彼女が真実を知った時に味方になってくれるのでは無いかと思ったのだ。

 「それでも逃げるのはおかしいです!」

  ん?

 「だって神様に選ばれたんですよ! とても光栄な事では無いですか!! 彼等は平民なのに勇者としてこの国を護る栄誉ある役目を与えられたのです!! だったら平民として貴族である私達を護る事こそかれらの幸せだと私は思います!!」

 「…………そうだね」

  クソしか居ねぇなこの国。
  貴族って奴はどいつもコイツもこういう考えな訳か。
  とりあえずこの女も復讐対象だな。

 「でもなんでそんなお話を?」

 「いや、気にしないでくれ。ただの戯れだ。それよりも、俺の部屋に行こう。もっと君と一緒に居たい」

  俺が抱き寄せると、イルミナは頬を染めて頷く。

 「エイナル様がそう仰られるのでしたら」

 「それじゃあいこうか」

  そうして、部屋に戻った俺は激しくイルミナと愛し合った。
  イルミナが根を上げても、俺の怒りが収まるまでタップリと。
  他人の身体だから責任とか気にしなくていいのは便利だね!

  ◆(ある騎士の視点)

  深夜、ある魔法使いの屋敷に騎士達が押し寄せた。

 「ヴラムズ=ガッダー! 国家反逆罪で貴様を処刑する!!」

 「な、何を言って……!?」

 「問答無用!!」

  騎士はヴラムズの言い訳も聞かずに切り殺す。

 「キャー!!」

 「パパー!?」

 「妻子も逃すな! 捕らえろ!!」

  瞬く間にヴラムズの家族は捕らえられ、城へと連行されていった。
  その光景を見ながら、副官が隊長に問う。

 「殺してよかったんですか? 反逆者なら仲間の情報を吐かせるべきなのでは?」

 「団長の命令だ。連中は魔族から他人を操る魔法を与えられたらしい。先日の召喚士虐殺事件もソレが原因で起こったそうだ。だから団長は裏切り者の魔法使い達を殺し、勇者召喚の術式だけを確保せよとの命令だ」

 「人を操る魔法とかおっかない話ですね」

 「ああ、ある日突然同僚が敵に回る魔法なんて悪夢以外のなんでもないからな。さぁ、団長に報告に帰るぞ」

 「了解です」

  ◆

「ヴラムズの処刑が完了しました」

 「ご苦労、今日は休んでかまわない。部下達も休ませたまえ」

 「はっ!!」

  隊長騎士達が俺に魔法使いの処刑が終わったと報告にやってくる。
  それも一人や二人ではない。11人分の処刑報告をしにだ。
  俺は部下の騎士団に命じて、それぞれの部隊に魔法使い達を処刑するように命じた。罪状は魔族と手を組んで勇者召喚を妨害を目論んだ為だ。
  勿論そんなものはでっち上げだ。
  魔法使い達を効率よく抹殺する為に用意した方便に過ぎない。

 「団長、勇者召喚の魔法式を徴収してまいりました!」

 「ご苦労。今日はもう休みたまえ」

 「はっ!」

  そして遂に勇者召喚の魔法式も手に入った。
  俺は誰も居なくなった執務室から勇者召喚の魔法式を持って中庭に出かける。
  夜遅い中庭には誰もいない。
  俺は周囲を確認してから、勇者召喚の魔法式が書かれた書物や紙束を地面に置く。
  そして火種のマジックアイテムでソレを燃やした。
  王は祖先が神から授かったものだといっていたが、何の事は無い、単なる召喚術だ。魔族に対抗する為に、より強力な存在を召喚する研究をしていて、偶然生まれたのが勇者召喚の儀式だったのだ。
  だが……

「これでもう勇者召喚は出来ない」

  もう犠牲者は増えない。
  俺は1つの達成感に包まれる。
  異世界に連れて来られ、そして役に立たないとわかったとたんに殺された。
  その元凶の1つである召喚魔法をこの世から消し去った。
  召喚魔法が使える魔法使いもいない。
  残るは1人。

 「次は王の番だ」

  ◆

 夜の城内を無言で歩く。
  時折見回りの兵が通るが、皆俺をみても疑いの目を向ける事無く敬礼をしてくる。
  全く騎士団長の身分様々だな。
  そして一際リッパな扉の部屋にたどり着いた。

 「コレはエイナル団長。こんな夜更けに一体どうなさいましたか?」

  見張りの兵士が二人、俺の前に立ちはだかる。

 「陛下に至急報告しなければならない用件があってきた」

  しかし兵士達は俺を通そうとはしない。

 「申し訳ありませんが、既に陛下はお休みです。翌日になってから報告された方が宜しいかと」

 「そうか、それでは仕方がない……なっ!!」

  俺は腰の剣を抜き放って兵士を切り裂いた。

 「なっ!?」

  騎士団長の剣はさすがの名刀。兵士の鎧を易々と切り裂いた。

 「団長!? 何を!?」

  もう一人の兵士が同僚を殺された事でパニックに陥る。

 「敵を前にして動きを止めるとは未熟だぞ!」

  エイナルの言葉で兵士を叱りながら、俺は兵士を切り裂いた。

 「ぐぼっ!?」

  切り倒された兵士は、通路の壁に倒れ、そのままズルズルと床に滑り落ちていった。
  俺は死んだ兵士達を無視して国王の眠る部屋に無遠慮に入る。
  部屋は大きく、壁には豪華な飾りが幾つも付けられている。
  そして何よりも大きかったのがベッドだ。
  部屋の1/3が巨大なベッドに占領されている。
  最も。部屋自体も大きいので、ベッドが大きくてもそれほど狭いとは思えない。
  見ればベッドには半裸の男、いや王と裸の女達が眠っていた。
  どうやらお楽しみの後だったみたいだ。
  俺は王を蹴飛ばして無理やりたたき起こす。

 「ぶぎゅう! い、一体何事だ!?」

  ブタみたいな悲鳴を上げて王が目を覚ました。

 「漸くお目覚めですか国王陛下」

 「エ、エイナルか!? 一体何事だ!!」

  無理やり起こされた王が機嫌悪そうな顔で俺を睨む。

 「召喚儀式を行える魔法使い達が全員殺されました」

 「…………な、なにぃぃぃ!!!?」

  王が驚きのあまり口をあんぐりと開ける。

 「ど、どういう事だ!?」

 「それだけではありません。勇者召喚の魔法に関わる資料が、何者かにすべて燃やされました」

 「っ!!!?」

  驚きのあまり声も出ないみたいだ。
  くくく、いい気味だ。

 「更にもう1つ悪い知らせがあります」

 「今度は何だ!?」

  王がやけっぱちで怒鳴る。

 「これから貴方が死にます」

 「はっ?」

  ソレがメリケ国国王の最後の言葉となった。
  俺は手にした剣を横に思いっきり薙ぐ。
  すると切り飛ばされた王の首が宙に飛び、そして地面に落ちた。

  王の首から噴水の様に血が溢れる。

 「んぅぅぅぅ、何よ一体…………うぇ、何、これ?」

  王の叫び声が煩くて女達が目を覚ましだす。
  その中で、王の死体の近くで寝て居た女が、返り血を浴びた。

 「何? 何だか鉄臭い? コレって?」

  灯りも点けていない為に周囲が見えなくてそれが血液だと気付かない女。
  叫ばれても面倒だし、この女達も始末するか。

 「さよなら、特に怨みのない人」

 「え?」

  そうして女達も死んだ。
  怨みが無いとは言ったが、良く考えたらイルミナの例もあるからコイツ等も同じ考えかもしれなかったな。だったら殺して正解だったかも知れない。
  まぁいい。とにかくコレで王は死んで召喚魔法は使えなくなったのだから。

 「これで復讐は完了だ」

  こうして、1つの戦いが終わった。
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