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27 子供でもできること
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午前中はダイダロスを手伝い、昼食を終えると市場に行って人々を助けるという暮らしの中で、クロスの存在は住民たちに認知されていった。
クロスが通ると『残り物だから』とか『もういらないから』と言いながら、食材や衣料品を渡してくる者たちも増えてきた。
そのたびにクロスの耳にはチャリンという音がするのだが、当のクロスはそんなことなどすっかり忘れているようだ。
「あれ? ヘルメさんとクロスさん」
ヘルメと一緒に屋台をひやかしていたクロスのもとにオペラが駆け寄った。
「お! オペラじゃん。久しぶりだなぁ。マカロは?」
「マカロはお母さんと一緒にご飯を食べているよ」
「そうか、お前も喰ったのか?」
「いや……僕は大丈夫。あまりお腹は減ってないんだ」
明らかに前見た時より瘦せているオペラに、ヘルメがそっとフィッシュフライサンドを差し出した。
「何も食べられませんか? 私はもうお腹がいっぱいなのですが、捨てるわけにもいかず困っていたのです。助けてくれませんか?」
オペラは首を横に振ったが、彼の腹の虫は正直だった。
「グゥゥゥゥゥ」
絶対に聞こえているのに、何も聞いていない振りでニコニコ笑うクロスとヘルメ。
「いただきます」
そういうなりサンドイッチに齧り付いたオペラは、ゆっくりと咀嚼しながらぽろぽろと涙を流した。
「どうした? オペラ」
「うん……美味しくて……だって僕……頑張ったけど……でもお母さんとマカロには食べさせないといけなくて……だから僕は……」
「そうか。オペラは頑張っているな」
オペラはぽろぽろと涙を流しながらも口を動かし続けていた。
「急にたくさん食べるとお腹がびっくりするから、ゆっくり食べなさい」
そう言ったクロスの声に頷きながらも、休むことなくもぐもぐと口を動かしている。
「ねえヘルメさん。これって全部食べちゃって良いのですか?」
「もちろんですよ」
オペラは嬉しそうな顔をして残っている半分を紙に包んだ。
「もう終わり? ついでに食べちゃえよ」
クロスがそう言うとオペラが恥ずかしそうに言った。
「これは明日のマカロのごはんにしようと思って」
ヘルメがスッと人差し指を伸ばしてサンドイッチを三つ空中から取り出した。
「それはオペラが全部食べなさい。明日の分はここにあるからね? お母さんとマカロの分もあるから安心していいよ」
オペラが目を丸くした。
「いや……それは……」
「子供が遠慮するな。それにタダで渡すわけじゃないよ? ちゃんと働いてもらうから」
コクコクと音がしそうな勢いで頷くオペラ。
クロスがウィンクをしながら言った。
「なあオペラ、明日からでいいから僕を手助けしてくれないか? 頑張って見ているんだけれど、どうしても僕だけじゃ気付かないことも多いんだ。それを君が補ってくれるならとても助かる」
「何をすればいいの? なんでもするよ」
「困った人をみつけたら僕に知らせてほしいんだ。いないのが一番だけれど、もしいたら助けないとね?」
「それだけ?」
「うん、そう。でもね、とても大切な仕事だろ? 誠実でないとできないし、何が正しいことなのかを判断できないとダメだもの。君にはうってつけだと思うんだ」
「ありがとう……仕事をくれてありがとうクロスさん。僕……どこに行っても働かせてもらえなくて困っていたんだ」
ヘルメが口を挟む。
「そうだろうね。君はまだ幼いから仕事にはありつけない」
オペラが慌てて顔をあげる。
「でも僕はもう9歳だよ。寒い時期で産むのが大変だったってお母さんが言ってたから、たぶんもうすぐ10歳なんだもの。働けるんだ……でも体が小さくて力が弱いから」
クロスとヘルメは顔を見合わせた。
オペラの体はどう見ても7歳くらいにしか見えない。
「そうか、オペラはもう10歳になるのか。そうだよね、マカロのお兄ちゃんだものね」
クロスは孤児院の子供たちの姿を思い浮かべた。
親の無い貧しい子供達と比べても、オペラはふた回りほど瘦せている。
「じゃあ明日から頼むね。マカロを連れてきなさい。教会にある孤児院わかる? あそこで待っているから」
「うん、わかった。ありがとうクロスさん」
「クロスでいいよ。じゃあ今日はもうお帰り」
ヘルメからサンドイッチを受け取ったオペラが、それを大事そうに胸に抱えて走り去る。
「ねえヘルメ、親の無い子よりいるこの方が貧しいってどうなってんの?」
「本当にどうなっているのでしょうね。でも彼はとても強い子だ。きっと大丈夫ですよ」
クロスはニコッと笑いながらオペラが去った方向に視線を投げた。
そして翌日、昼前には教会にやってきたオペラは弟マカロの手を引いている。
「やあ! 来てくれたんだね。マカロも一緒に行く? それともここでみんなと遊んでいてもいいんだよ?」
マカロはオペラの手をギュッと握って離さない。
「まあ初日だもんね。では一緒に行こう。ダイダロス、後はよろしくね」
「ああ、任せとけ」
鋼鉄の槌を振りながらダイダロスが微笑んだ。
クロスがマカロを抱き上げ、オペラの手をとって教会を出る。
「さあ、お前たちは勉強だ。小さい子はバザーの造花づくりだよ」
「はぁ~い」
子供たちが去るとダイダロスは聖堂へと向かった。
どこからともなくアテナが姿を現す。
「やっぱりここの空気は美味しいわ。でもこの匂いは……」
アテナが怪訝そうな顔でダイダロスの顔を見た。
クロスが通ると『残り物だから』とか『もういらないから』と言いながら、食材や衣料品を渡してくる者たちも増えてきた。
そのたびにクロスの耳にはチャリンという音がするのだが、当のクロスはそんなことなどすっかり忘れているようだ。
「あれ? ヘルメさんとクロスさん」
ヘルメと一緒に屋台をひやかしていたクロスのもとにオペラが駆け寄った。
「お! オペラじゃん。久しぶりだなぁ。マカロは?」
「マカロはお母さんと一緒にご飯を食べているよ」
「そうか、お前も喰ったのか?」
「いや……僕は大丈夫。あまりお腹は減ってないんだ」
明らかに前見た時より瘦せているオペラに、ヘルメがそっとフィッシュフライサンドを差し出した。
「何も食べられませんか? 私はもうお腹がいっぱいなのですが、捨てるわけにもいかず困っていたのです。助けてくれませんか?」
オペラは首を横に振ったが、彼の腹の虫は正直だった。
「グゥゥゥゥゥ」
絶対に聞こえているのに、何も聞いていない振りでニコニコ笑うクロスとヘルメ。
「いただきます」
そういうなりサンドイッチに齧り付いたオペラは、ゆっくりと咀嚼しながらぽろぽろと涙を流した。
「どうした? オペラ」
「うん……美味しくて……だって僕……頑張ったけど……でもお母さんとマカロには食べさせないといけなくて……だから僕は……」
「そうか。オペラは頑張っているな」
オペラはぽろぽろと涙を流しながらも口を動かし続けていた。
「急にたくさん食べるとお腹がびっくりするから、ゆっくり食べなさい」
そう言ったクロスの声に頷きながらも、休むことなくもぐもぐと口を動かしている。
「ねえヘルメさん。これって全部食べちゃって良いのですか?」
「もちろんですよ」
オペラは嬉しそうな顔をして残っている半分を紙に包んだ。
「もう終わり? ついでに食べちゃえよ」
クロスがそう言うとオペラが恥ずかしそうに言った。
「これは明日のマカロのごはんにしようと思って」
ヘルメがスッと人差し指を伸ばしてサンドイッチを三つ空中から取り出した。
「それはオペラが全部食べなさい。明日の分はここにあるからね? お母さんとマカロの分もあるから安心していいよ」
オペラが目を丸くした。
「いや……それは……」
「子供が遠慮するな。それにタダで渡すわけじゃないよ? ちゃんと働いてもらうから」
コクコクと音がしそうな勢いで頷くオペラ。
クロスがウィンクをしながら言った。
「なあオペラ、明日からでいいから僕を手助けしてくれないか? 頑張って見ているんだけれど、どうしても僕だけじゃ気付かないことも多いんだ。それを君が補ってくれるならとても助かる」
「何をすればいいの? なんでもするよ」
「困った人をみつけたら僕に知らせてほしいんだ。いないのが一番だけれど、もしいたら助けないとね?」
「それだけ?」
「うん、そう。でもね、とても大切な仕事だろ? 誠実でないとできないし、何が正しいことなのかを判断できないとダメだもの。君にはうってつけだと思うんだ」
「ありがとう……仕事をくれてありがとうクロスさん。僕……どこに行っても働かせてもらえなくて困っていたんだ」
ヘルメが口を挟む。
「そうだろうね。君はまだ幼いから仕事にはありつけない」
オペラが慌てて顔をあげる。
「でも僕はもう9歳だよ。寒い時期で産むのが大変だったってお母さんが言ってたから、たぶんもうすぐ10歳なんだもの。働けるんだ……でも体が小さくて力が弱いから」
クロスとヘルメは顔を見合わせた。
オペラの体はどう見ても7歳くらいにしか見えない。
「そうか、オペラはもう10歳になるのか。そうだよね、マカロのお兄ちゃんだものね」
クロスは孤児院の子供たちの姿を思い浮かべた。
親の無い貧しい子供達と比べても、オペラはふた回りほど瘦せている。
「じゃあ明日から頼むね。マカロを連れてきなさい。教会にある孤児院わかる? あそこで待っているから」
「うん、わかった。ありがとうクロスさん」
「クロスでいいよ。じゃあ今日はもうお帰り」
ヘルメからサンドイッチを受け取ったオペラが、それを大事そうに胸に抱えて走り去る。
「ねえヘルメ、親の無い子よりいるこの方が貧しいってどうなってんの?」
「本当にどうなっているのでしょうね。でも彼はとても強い子だ。きっと大丈夫ですよ」
クロスはニコッと笑いながらオペラが去った方向に視線を投げた。
そして翌日、昼前には教会にやってきたオペラは弟マカロの手を引いている。
「やあ! 来てくれたんだね。マカロも一緒に行く? それともここでみんなと遊んでいてもいいんだよ?」
マカロはオペラの手をギュッと握って離さない。
「まあ初日だもんね。では一緒に行こう。ダイダロス、後はよろしくね」
「ああ、任せとけ」
鋼鉄の槌を振りながらダイダロスが微笑んだ。
クロスがマカロを抱き上げ、オペラの手をとって教会を出る。
「さあ、お前たちは勉強だ。小さい子はバザーの造花づくりだよ」
「はぁ~い」
子供たちが去るとダイダロスは聖堂へと向かった。
どこからともなくアテナが姿を現す。
「やっぱりここの空気は美味しいわ。でもこの匂いは……」
アテナが怪訝そうな顔でダイダロスの顔を見た。
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