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23 感謝の祈り
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その日のうちに大枠を決めたダイダロスは、テキパキと厨房の外壁を崩していった。
その瓦礫をせっせと運ぶ子供たちの顔は輝いて見える。
クロスは全く気付いていないが、チャリンチャリンと音を立てて貯まっていくポイントが、入った端から引き落とされていた。
「私は少し出掛けてきます。ロビンはちゃんと送り届けますから大丈夫ですよ」
そう言ったヘルメが教会を後にした。
「俺たちもそろそろ休憩しようか。腹が減った」
そう言って指先を動かそうとするダイダロスに、クロスが苦言を呈した。
「こらこら、ここは人間界なんだ。急に神界の食べ物が出てきたら驚くだろ? 召喚するなら人間界の食べ物にしろよ?」
「そんなこと言われてもさぁ、俺も修学旅行以来だからよく覚えてないんだわ。どんなもんがあったっけ?」
「いいよ、僕が買って来るから。でも金が無いから驕ってよ」
「ああ、これくらいでいい?」
ダイダロスがザラッと金貨を革袋いっぱいに出した。
「こんな大きなお金じゃお釣りがもらえないよ。出すなら銅貨にしてくれ」
「お前……世間ずれしたなぁ。とても神とは思えん言葉だ」
「しかもこの金貨ってもう使ってないからね? これって300年前の王国金貨じゃん」
二人がもめていると、小さな子の手を引いた女の子がやってきた。
「パンとスープしかないけれど、良かったら一緒に食べませんか?」
「良いの?」
女の子に誘われるまま孤児院の食堂に向かう二人。
「あっ! 来た来た! 今日はごちそうなんだよ。早く早く」
カブが手を振って呼んでいる。
ガタガタと音がする古びた木の椅子に座ると、牧師が声を出した。
「神よ、あなたのお心遣いで今日も全員で食事をすることができます。私たちはこれに感謝し、あなたへ祈りを捧げます」
子供たちが復唱し、数秒間ではあるが食堂に静謐な空気が流れた。
「いただきます」
その声を合図に一斉にパンに手を伸ばす子供たちを見て、ダイダロスがポツリと言った。
「俺、帰ったらちょっといろいろ考えてみるよ。なんだか申しわけない気持ちになってきた」
「うん、わかる。僕もここに来てから神という存在に少し疑問を持ってきたんだ」
「なんなんだろうな、この気持ちは。自己嫌悪?」
「そう、なんだか懺悔したい気分だ」
「祈ろう……」
二人は顔を見合わせて頷きあった。
「はい、どうぞ。お兄さん達は体が大きいから足りないだろうけど……」
呼びに来てくれた女の子が石と見まがうほど固いパンをひとつずつ渡してきた。
「固いけれど、こうやってスープを染み込ませれば食べられるんだよ。割れなかったら小槌で割るから言ってね」
眼をウルウルさせながらそのパンを受け取ったクロスとダイダロスは、まるで宝物のようにパンを割ってスープに浸した。
年長の子が幼い子供の面倒をみている。
がやがやと楽しそうな声が食堂内に響き、二人の神は本当の豊かさとは何なのかを考えずにはいられなかった。
短い食事時間が終わり、二人は聖堂で寝ると言って食堂を出た。
祭壇にゴロンと寝転がりながら、ダイダロスが感慨深げな声を出す。
「なあクロス、俺を参加させてくれてありがとな。さっさと済ませて帰ろうって思ってたけど、精一杯心を込めて作らせてもらうよ。でき上がったらヘスティアを呼んで石窯に祝福を授けてもらおう」
「ああ、そうだな」
「お前が全財産をはたいた気持ちがわかるよ」
クロスが聖堂の天窓から見える夜空の星を眺めながら言った。
「お前って昔から人情派だよな。学校でも弱い奴らを庇ってたし。俺も良く助けて貰ったよなぁ」
「ああ、お前って最弱だったもんな」
「ははは! ぜんぜん進歩してないよ。でもね、ひとつだけわかったことがあるんだよ」
「なに?」
「人間はものすごく弱いけれど、ものすごく強いってこと」
「ははは! なんだ? それ。でも、なんとなくわかるよ。それにしても本当にここは気持ちがいいな。なんだか眠くなってきた」
「うん、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
二人の寝息が聞こえ始めたころ、祭壇の柱の後ろからそっと顔を出した者がいた。
「疲れて寝ちゃってんじゃん。ママ、見てごらん。まだ小さかった頃と同じ寝顔だ」
少し遅れて顔を出したママと呼ばれたもう一人が頷いた。
「まあ本当ね。こんな無邪気な顔で寝るなんて。少しは反省したのかしら」
「どうだろうなぁ。せっかくあともう少しだったのにポイント全部使ったみたいだし、まだ当分は戻ってこないだろう。これも修行だ。ママも我慢しなさい」
「ええ、そうしましょう。さあ帰りましょうか? ゼウルス」
「ああ帰ろう、我が最愛のヘレラ」
二つの影が柱の後ろへと消えた。
その瓦礫をせっせと運ぶ子供たちの顔は輝いて見える。
クロスは全く気付いていないが、チャリンチャリンと音を立てて貯まっていくポイントが、入った端から引き落とされていた。
「私は少し出掛けてきます。ロビンはちゃんと送り届けますから大丈夫ですよ」
そう言ったヘルメが教会を後にした。
「俺たちもそろそろ休憩しようか。腹が減った」
そう言って指先を動かそうとするダイダロスに、クロスが苦言を呈した。
「こらこら、ここは人間界なんだ。急に神界の食べ物が出てきたら驚くだろ? 召喚するなら人間界の食べ物にしろよ?」
「そんなこと言われてもさぁ、俺も修学旅行以来だからよく覚えてないんだわ。どんなもんがあったっけ?」
「いいよ、僕が買って来るから。でも金が無いから驕ってよ」
「ああ、これくらいでいい?」
ダイダロスがザラッと金貨を革袋いっぱいに出した。
「こんな大きなお金じゃお釣りがもらえないよ。出すなら銅貨にしてくれ」
「お前……世間ずれしたなぁ。とても神とは思えん言葉だ」
「しかもこの金貨ってもう使ってないからね? これって300年前の王国金貨じゃん」
二人がもめていると、小さな子の手を引いた女の子がやってきた。
「パンとスープしかないけれど、良かったら一緒に食べませんか?」
「良いの?」
女の子に誘われるまま孤児院の食堂に向かう二人。
「あっ! 来た来た! 今日はごちそうなんだよ。早く早く」
カブが手を振って呼んでいる。
ガタガタと音がする古びた木の椅子に座ると、牧師が声を出した。
「神よ、あなたのお心遣いで今日も全員で食事をすることができます。私たちはこれに感謝し、あなたへ祈りを捧げます」
子供たちが復唱し、数秒間ではあるが食堂に静謐な空気が流れた。
「いただきます」
その声を合図に一斉にパンに手を伸ばす子供たちを見て、ダイダロスがポツリと言った。
「俺、帰ったらちょっといろいろ考えてみるよ。なんだか申しわけない気持ちになってきた」
「うん、わかる。僕もここに来てから神という存在に少し疑問を持ってきたんだ」
「なんなんだろうな、この気持ちは。自己嫌悪?」
「そう、なんだか懺悔したい気分だ」
「祈ろう……」
二人は顔を見合わせて頷きあった。
「はい、どうぞ。お兄さん達は体が大きいから足りないだろうけど……」
呼びに来てくれた女の子が石と見まがうほど固いパンをひとつずつ渡してきた。
「固いけれど、こうやってスープを染み込ませれば食べられるんだよ。割れなかったら小槌で割るから言ってね」
眼をウルウルさせながらそのパンを受け取ったクロスとダイダロスは、まるで宝物のようにパンを割ってスープに浸した。
年長の子が幼い子供の面倒をみている。
がやがやと楽しそうな声が食堂内に響き、二人の神は本当の豊かさとは何なのかを考えずにはいられなかった。
短い食事時間が終わり、二人は聖堂で寝ると言って食堂を出た。
祭壇にゴロンと寝転がりながら、ダイダロスが感慨深げな声を出す。
「なあクロス、俺を参加させてくれてありがとな。さっさと済ませて帰ろうって思ってたけど、精一杯心を込めて作らせてもらうよ。でき上がったらヘスティアを呼んで石窯に祝福を授けてもらおう」
「ああ、そうだな」
「お前が全財産をはたいた気持ちがわかるよ」
クロスが聖堂の天窓から見える夜空の星を眺めながら言った。
「お前って昔から人情派だよな。学校でも弱い奴らを庇ってたし。俺も良く助けて貰ったよなぁ」
「ああ、お前って最弱だったもんな」
「ははは! ぜんぜん進歩してないよ。でもね、ひとつだけわかったことがあるんだよ」
「なに?」
「人間はものすごく弱いけれど、ものすごく強いってこと」
「ははは! なんだ? それ。でも、なんとなくわかるよ。それにしても本当にここは気持ちがいいな。なんだか眠くなってきた」
「うん、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
二人の寝息が聞こえ始めたころ、祭壇の柱の後ろからそっと顔を出した者がいた。
「疲れて寝ちゃってんじゃん。ママ、見てごらん。まだ小さかった頃と同じ寝顔だ」
少し遅れて顔を出したママと呼ばれたもう一人が頷いた。
「まあ本当ね。こんな無邪気な顔で寝るなんて。少しは反省したのかしら」
「どうだろうなぁ。せっかくあともう少しだったのにポイント全部使ったみたいだし、まだ当分は戻ってこないだろう。これも修行だ。ママも我慢しなさい」
「ええ、そうしましょう。さあ帰りましょうか? ゼウルス」
「ああ帰ろう、我が最愛のヘレラ」
二つの影が柱の後ろへと消えた。
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