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21 第二の助っ人
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ルナの喜びそうなお菓子を買って帰ると、六人の男たちが畑で作業をしていた。
「やあ、早かったね」
鼻の頭に土をつけたクロスが声を掛ける。
日陰に椅子を持ち出して監督しているのはトムじいさんだ。
「もう売り切れたのかい?」
ヘルメが店主たちとの交渉を話すと、トムじいさんは嬉しそうに頷いた。
「それはありがたいのう。毎日必ず完売するということじゃないか。これでロビンは学校にも行けるようになる。働き手も増えたことじゃしのう」
クロスと共に畑仕事をしているのは、トムじいさんを襲った男二人と畑を荒らした男三人だった。
全員が毒気の抜けたような顔をして、熱心に働いている。
「ヘルメが言い聞かせたの? 物凄く敬虔な感じなんだけど」
「言い聞かせてなどいませんよ、面倒くさい。サクッと洗脳しただけです。しかしこれほどの人手があるなら畑を広げても良いかもしれませんね」
クロスが頷く。
「うん、だからあの人たちには手つかずの荒れ地の開墾をやってもらおうかなっておじいさんと話してたんだ。悔恨したから開墾してもらう……ぷぷぷ!」
ヘルメがうんざりした顔で声を出した。
「バカな事を言ってないで働きなさい。私はちょっと帰ってきます」
「え? またデメテル?」
「違います。ダイダロスにちょっと協力を頼もうと思いましてね」
そう言うとヘルメはクロスの案だとは知らない態度でパン事業の話をした。
「なるほど教会にね。一石二鳥というやつだ。でも建築費用はどのくらいになるんだろ」
「クロスが貯めたポイントで何とかなると思いますよ? それに作るのはクロスとダイダロスだから材料費だけですし、もし足りなければ高利で融資しましょう」
「ふぅん、それなら問題ないね」
クロスはヘルメが何を司る神なのかをすっかり忘れて頷いた。
「では行ってきますよ」
「うん、ダイダロスによろしくね。それにしてもヘルメが両刀使いだとは知らなかったよ」
ヘルメがものすごく嫌な顔をした。
「面倒な噂を広めないでくださいよ? ダイダロスは代価を求めるような男じゃないです」
ポヨンと消えたヘルメに手を振るクロス。
「そういうことなら僕も人助けをする時間が増えるかな。ポイントが無くなっちゃうからまた稼がないとだね」
神界にいた頃には良くツルんでいたダイダロスはヘルメの頼みに応じて翌朝にはやってきた。
「ようクロス、怪我したんだって? 珍しい経験したじゃん」
「そうなんだよ。父上のゲンコツより痛いんだぜ? 信じられる?」
「ゼウルス様の……マジか。でも神力は無くなっても細胞はそのままなんだろ? すぐ治るんじゃね?」
そう言うとベッドでぬくぬくとしていたクロスの上掛けを剝ぎ取った。
「おお! 相変わらずご立派なことだ。それにしてもまだ痣になってるんだな」
「まあ午後までには消えるよ。ヘルメから聞いてくれた?」
「石窯を作るって話だろ? ついでに教会の傷みも直しておくけど、全部自分たちで作るって聞いたぜ?」
「うん、直し方が分からないと壊れたとき困るだろ? だから自分たちで作るんだ。材料費は僕が出すから、やり方とか教えてやってよ」
ダイダロスが肩を竦めてみせた。
「ってことは人間の作った材料を使うんだな? やっとことねぇけど、まあ大丈夫だろ。すぐに始めるかい?」
「午前中にはヘルメとロビンが戻って来るから、午後からにしよう。一緒に昼飯どう?」
「人間の? まあ、これも経験ってやつだな。ご相伴に預かろう」
畑の様子を見に行っていたトムじいさんとルナが戻ってきた。
クロスは友人の大工だとダイダロスを紹介し、昼食後に出掛けることを伝える。
「ああ、ロビンから聞いとるよ。立派な行いじゃと感心したわい。クロスに神のご加護があるように祈っておるよ」
「うん、今のクロスには必要だな。そしてあなたにも祝福を」
ダイダロスはそう言ってトムじいさんの肩をポンと叩いた。
意味が解らずキョトンとするトムじいさんだったが、体中に力がみなぎるのを感じて驚いている。
「ただいま帰りました。今日の昼食は食堂のミートパイとグリルチキンですよ」
ルナが大喜びして跳ねまわる横でトムじいさんが声を出した。
「そんなに贅沢をしても大丈夫かの?」
ヘルメが頷いた。
「大丈夫ですよ。今日は少し野菜を多めに出荷しましたからね」
さっそく買って来た食事を皿に並べながらロビンが言った。
「ヘルメが接客するだけで飛ぶように売れるから、オヤジさんたちが余分にくれたんだよ」
ダイダロスがクロスにだけ聞こえるように言う。
「ヘルメって商売も司ってるもんなぁ……ある意味詐欺だぜ?」
食事を済ませたクロスとヘルメ、そしてロビンとダイダロスが立ち上がる。
「では教会に行って参ります。なるべく早く戻りますからいい子にしているんですよ?」
ヘルメがルナの頭を撫でると、ルナが炭の欠片で描いた絵を差し出した。
「ん? これは?」
「美人のお姉さんだよ? 可愛く描けたでしょ?」
「そ……そうですね。ははは……」
クロスが絵を覗き込んで言った。
「うん、可愛く描けてるじゃないか。美人な猪だ」
ヘルメが慌ててルナをギュッと抱きしめて、クロスの背中を押して出て行った。
教会への道すがら、ロビンがダイダロスに石窯構想を説明する。
「なるほどなぁ。自分たちのパンと技術の習得を同時にやろうってことか。しかも上手くなれば商売にもできるわけだ。坊主、なかなか考えたじゃないか」
「僕じゃないんですよ。クロスが考えたことに少し付け足しただけ。それにお金もクロスが出すし……早く大人になりたいなぁ」
ヘルメがポンとロビンの肩に手を置いた。
「嫌でも大人になるのです。子供でいられるうちはそれを楽しんだ方が良いですよ」
さすがに大工の神ともなれば、人間界のどこに行けば必要な材料が揃うのかという鼻が利くらしい。
教会に到着するまでに大方の段取りを済ませてしまった。
「やあ、早かったね」
鼻の頭に土をつけたクロスが声を掛ける。
日陰に椅子を持ち出して監督しているのはトムじいさんだ。
「もう売り切れたのかい?」
ヘルメが店主たちとの交渉を話すと、トムじいさんは嬉しそうに頷いた。
「それはありがたいのう。毎日必ず完売するということじゃないか。これでロビンは学校にも行けるようになる。働き手も増えたことじゃしのう」
クロスと共に畑仕事をしているのは、トムじいさんを襲った男二人と畑を荒らした男三人だった。
全員が毒気の抜けたような顔をして、熱心に働いている。
「ヘルメが言い聞かせたの? 物凄く敬虔な感じなんだけど」
「言い聞かせてなどいませんよ、面倒くさい。サクッと洗脳しただけです。しかしこれほどの人手があるなら畑を広げても良いかもしれませんね」
クロスが頷く。
「うん、だからあの人たちには手つかずの荒れ地の開墾をやってもらおうかなっておじいさんと話してたんだ。悔恨したから開墾してもらう……ぷぷぷ!」
ヘルメがうんざりした顔で声を出した。
「バカな事を言ってないで働きなさい。私はちょっと帰ってきます」
「え? またデメテル?」
「違います。ダイダロスにちょっと協力を頼もうと思いましてね」
そう言うとヘルメはクロスの案だとは知らない態度でパン事業の話をした。
「なるほど教会にね。一石二鳥というやつだ。でも建築費用はどのくらいになるんだろ」
「クロスが貯めたポイントで何とかなると思いますよ? それに作るのはクロスとダイダロスだから材料費だけですし、もし足りなければ高利で融資しましょう」
「ふぅん、それなら問題ないね」
クロスはヘルメが何を司る神なのかをすっかり忘れて頷いた。
「では行ってきますよ」
「うん、ダイダロスによろしくね。それにしてもヘルメが両刀使いだとは知らなかったよ」
ヘルメがものすごく嫌な顔をした。
「面倒な噂を広めないでくださいよ? ダイダロスは代価を求めるような男じゃないです」
ポヨンと消えたヘルメに手を振るクロス。
「そういうことなら僕も人助けをする時間が増えるかな。ポイントが無くなっちゃうからまた稼がないとだね」
神界にいた頃には良くツルんでいたダイダロスはヘルメの頼みに応じて翌朝にはやってきた。
「ようクロス、怪我したんだって? 珍しい経験したじゃん」
「そうなんだよ。父上のゲンコツより痛いんだぜ? 信じられる?」
「ゼウルス様の……マジか。でも神力は無くなっても細胞はそのままなんだろ? すぐ治るんじゃね?」
そう言うとベッドでぬくぬくとしていたクロスの上掛けを剝ぎ取った。
「おお! 相変わらずご立派なことだ。それにしてもまだ痣になってるんだな」
「まあ午後までには消えるよ。ヘルメから聞いてくれた?」
「石窯を作るって話だろ? ついでに教会の傷みも直しておくけど、全部自分たちで作るって聞いたぜ?」
「うん、直し方が分からないと壊れたとき困るだろ? だから自分たちで作るんだ。材料費は僕が出すから、やり方とか教えてやってよ」
ダイダロスが肩を竦めてみせた。
「ってことは人間の作った材料を使うんだな? やっとことねぇけど、まあ大丈夫だろ。すぐに始めるかい?」
「午前中にはヘルメとロビンが戻って来るから、午後からにしよう。一緒に昼飯どう?」
「人間の? まあ、これも経験ってやつだな。ご相伴に預かろう」
畑の様子を見に行っていたトムじいさんとルナが戻ってきた。
クロスは友人の大工だとダイダロスを紹介し、昼食後に出掛けることを伝える。
「ああ、ロビンから聞いとるよ。立派な行いじゃと感心したわい。クロスに神のご加護があるように祈っておるよ」
「うん、今のクロスには必要だな。そしてあなたにも祝福を」
ダイダロスはそう言ってトムじいさんの肩をポンと叩いた。
意味が解らずキョトンとするトムじいさんだったが、体中に力がみなぎるのを感じて驚いている。
「ただいま帰りました。今日の昼食は食堂のミートパイとグリルチキンですよ」
ルナが大喜びして跳ねまわる横でトムじいさんが声を出した。
「そんなに贅沢をしても大丈夫かの?」
ヘルメが頷いた。
「大丈夫ですよ。今日は少し野菜を多めに出荷しましたからね」
さっそく買って来た食事を皿に並べながらロビンが言った。
「ヘルメが接客するだけで飛ぶように売れるから、オヤジさんたちが余分にくれたんだよ」
ダイダロスがクロスにだけ聞こえるように言う。
「ヘルメって商売も司ってるもんなぁ……ある意味詐欺だぜ?」
食事を済ませたクロスとヘルメ、そしてロビンとダイダロスが立ち上がる。
「では教会に行って参ります。なるべく早く戻りますからいい子にしているんですよ?」
ヘルメがルナの頭を撫でると、ルナが炭の欠片で描いた絵を差し出した。
「ん? これは?」
「美人のお姉さんだよ? 可愛く描けたでしょ?」
「そ……そうですね。ははは……」
クロスが絵を覗き込んで言った。
「うん、可愛く描けてるじゃないか。美人な猪だ」
ヘルメが慌ててルナをギュッと抱きしめて、クロスの背中を押して出て行った。
教会への道すがら、ロビンがダイダロスに石窯構想を説明する。
「なるほどなぁ。自分たちのパンと技術の習得を同時にやろうってことか。しかも上手くなれば商売にもできるわけだ。坊主、なかなか考えたじゃないか」
「僕じゃないんですよ。クロスが考えたことに少し付け足しただけ。それにお金もクロスが出すし……早く大人になりたいなぁ」
ヘルメがポンとロビンの肩に手を置いた。
「嫌でも大人になるのです。子供でいられるうちはそれを楽しんだ方が良いですよ」
さすがに大工の神ともなれば、人間界のどこに行けば必要な材料が揃うのかという鼻が利くらしい。
教会に到着するまでに大方の段取りを済ませてしまった。
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